絵に描いた餅にしない!データをビジネスに活かすデータマネジメント整備のポイント
執筆者プロフィール
ITアーキテクチャーコンサルティング部 米田 壮志:
2004年、通信系システム会社に入社し、データベース技術のR&D経験を経て、2008年にNRI入社。大規模システム基盤のアーキテクチャー設計・構築を経験し、現在はシステム化構想・計画、データ利活用・マネジメント支援などコンサルティング業務に従事。専門はデータ利活用を中心としたシステム化構想・計画、アーキテクチャー設計、データマネジメント。
ITアーキテクチャーコンサルティング部 鶴田 大樹:
2009年NRI入社。クラウドサービスや金融機関基幹向けサービスなどのシステム開発・エンハンス経験を経て、現在はシステム化構想・計画策定、PMO支援などコンサルティング業務に従事。専門はシステム化構想・計画立案と実行支援。
ITアーキテクチャーコンサルティング部 中尾 潤一:
2006年、国内SIerへ入社し、プライベートクラウドサービスの開発・運用やクラウド活用戦略の立案と実行支援の経験を経て、2019年NRI入社。現在は基盤を中心としたアーキテクチャー標準の策定や次期インフラ基盤の構想などのコンサルティング業務に従事。専門はクラウド活用戦略の立案と実行支援。
はじめに
こんにちは。野村総合研究所 ITアーキテクチャーコンサルティング部の米田、鶴田、中尾です。 近年、DX(デジタルトランスフォーメーション)の一環で、業務・サービスの高度化や新事業創出、社会課題解決などに向けてデータの利活用に乗り出す企業が増えてきました。
そんな中、「全社として様々なデータを保有し、整備・活用を進めているが、思ったほど成果がでない」、「データを安全に取り扱えているか懸念がある」など、データにまつわる様々なご相談をいただくことが増えてきました。
データの利活用がうまくいかない場合、データ分析する人材や分析基盤に目が行きがちですが、安心して使える品質の高いデータが整備されていなかったり、データが使いにくかったりするなど、データに問題があることも多いです。このような問題を解決し、効果的・効率的で安全なデータ利活用を実現するためにはデータマネジメントという活動が必要になります。今回は、データマネジメントを整備する際のポイントをご紹介します。データ利活用に課題を感じている方や、データマネジメントの検討がうまく進まないとお悩みの方の一助になれば幸いです。
データ利活用における問題や懸念
データの利活用が期待通りに進まないのはなぜでしょうか。データ利活用に関わる関係者に話を聞くと、それぞれが問題や懸念を抱えていることが分かります。
経営者
「複数部門にて類似のデータに重複投資してしまう」(コスト)
「法律・契約などを遵守し、顧客の不安・不審を招かないようデータを取り扱えているか不安だ」(リスク)
データ提供者
「提供したデータが合意した利用目的・範囲で取り扱われるか不安だ」(リスク)
「データオーナーとしての役割が不明確である」(リスク)
データ利用者
「データが古い、欠損値や不正確な値を含む、表記揺れが多いなどデータの品質に不安がある」(品質)
「使いたいデータを見つけるのに時間がかかる」(スピード)
「社内外で共有したいが、ルールを守れているか不安だ」(リスク)
「データ利活用のうまいやり方がわからない」(サービス)
IT部門
「データに関する問合せが集中し対応に追われる」(スピード)
このような問題や懸念を放置していると、データ基盤を作ってもデータが集まらず、利用も進まないため、データ利活用の成果が出るまでに時間がかかってしまいます。
データマネジメントの必要性
これらの問題を解決するにあたっては、一つずつ個別に対応していけばいいというものではありません。場当たり的な対応にならないように、それぞれの問題の根本的な原因を見極め、企業全体で取り組むことが重要です。このような組織的な取り組みを「データマネジメント」といい、データを効果的・効率的かつ安全・安心に使えるように維持・改善する活動です。データマネジメントは、データから得られる価値を最大化し、データの利活用を成功させるための鍵となる重要な活動です。
データマネジメントを実施すると、データ利活用におけるQCDRSが改善されるため、先ほど挙げた問題や懸念の解消につながります。
- Quality(品質): データ品質基準を満たしたデータが整備され、分析結果の信頼性が高まる
- Cost(コスト): 全社最適の観点からデータ整備・再利用が進み、データ利活用にかかるコストが下がる
- Delivery(スピード): データ利用者が自らデータを見つけられるようになり、データ利活用のスピードが向上する
- Risk(リスク): セキュリティが担保されるため、データ・基盤を活用する際のリスクが低くなる
- Service(サービス): データ利活用人材の育成・提供や、ノウハウや事例が蓄積・共有され、データ利活用のハードルが下がるとともに、効果的に行えるようになる
データマネジメントの活動内容
データを利活用して経営や事業の課題を解決するためには、データマネジメントの目的や計画など活動全体にわたる内容を記述した「データガバナンス・マネジメント戦略」を策定した上で、データを適切に管理するためのルールを定め、監督する「データガバナンス」とそれらのルールに則ってデータを管理する「データマネジメント」という2つの活動を進める必要があります。
NRIは、この2つの活動を適正かつ円滑に実施するためのフレームワークを保有しています。このフレームワークは、データマネジメントに必要な知識領域を体系立ててまとめたバイブルであるDMBOK2に準拠する形で網羅性を考慮しつつ、重複や類似要素を整理し、対象領域の広いデータマネジメント活動を優先度の高いものから段階的に整備しやすい活動領域単位で定義していることが特徴です。
本フレームワークは、データガバナンス・マネジメント戦略、データガバナンス、データライフサイクルマネジメント、基礎的なデータマネジメントの4つで構成されています。データガバナンス・マネジメント戦略では、自社の状況や課題を把握したうえで、目的や目指す姿、整備計画などを定めます。データガバナンスでは、組織、ルール等の規定、文化、評価などの管理項目について規定します。データマネジメントについては、2つに分かれていて、データライフサイクルマネジメントではデータの発生・検知から廃棄までの各段階でのデータ管理について、基礎的なデータマネジメントではリスクや品質管理などデータの利活用を支える基礎的な管理項目について規定します。
データマネジメント整備のポイント
私たちは様々な企業のデータマネジメントの整備・運営をご支援してきました。その活動を通じて、データマネジメントを整備する際には以下の3つのポイントが重要になることが明らかになりました。
①目的の明確化
②段階的な整備
③アクセルとブレーキのバランス
これらのポイントを押さえることで、形骸化や場合よってはデータの利活用の阻害要因になってしまいかねないデータマネジメントの整備について、着実に効果を得ながら進めることが可能になります。以下、これら3つのポイントについてそれぞれ説明します。
①目的の明確化
データマネジメント自体が目的となってしまうと、何のための活動か分からなくなったり、思うような効果が得られなくなったりします。例えば、スピーディなデータ利活用に向けてデータ提供のリードタイムやナレッジ数をKPIとして設定する、高品質なデータ利活用に向けてデータに有効値が登録されている割合をKPIとして設定するなど、データ利活用に関する自社の状況・課題をしっかりと把握した上で、データマネジメントの目的やKPI、目指す姿を明確化します。そこで、データマネジメントを導入する前に、まずはデータマネジメントを実施する目的設定や課題整理を行います。目的や課題を踏まえて、今後取り組むべき施策を計画し、必要な予算の確保を目指します。
②段階的な整備
データ利活用では、ビジネスや組織の変化に応じてニーズが変動することを考慮し、小さく始めて成功体験を積み重ねつつプロセスを整備していく方が成果につながりやすいと考えています。そのため、データマネジメントにおいても最初から全項目を適用するのではなく、データ利活用の段階に応じて徐々に取り組みを広げていくことが望ましいです。データマネジメントが対象とする領域は広く、一気にルールや仕組みの整備を進めても、定着せずに形骸化してしまうことがあります。そうならないよう、必要性が高い領域や成果を得やすい領域を中心に、優先度に沿って段階的に整備していくためのロードマップを作成します。
最初に取り掛かるべきは、データを扱うための最低限の環境の整備です。組織やルール、基盤の設計・導入を行います。データを扱える状態になったら、次はデータの整備に取り掛かります。代表的なものとしてはデータディクショナリの整備とデータの品質を管理するための仕組みづくりが挙げられます。また、データを利活用していこうという意識や文化の醸成も重要になります。この段階まで進めば、データ利活用が社内で浸透し始めるでしょう。データの利活用が社内に浸透してきたら効率化に関わるマネジメントを整備します。データの収集や蓄積、破棄といった一連のプロセスを整えます。ここまで来れば、社内におけるデータ利活用のニーズを把握し、データマネジメントを継続的に改善していくフェーズへと移ることが可能となります。
③アクセルとブレーキのバランス
段階的にデータマネジメントを整備する中では、段階に応じてデータ利活用を促進させること(アクセル)と守るべきルールを定めること(ブレーキ)のバランスをとることが求められます。安全性を重視しすぎるとデータ利活用が抑制されてしまいますし、利活用促進を重視しすぎるとデータ取り扱いリスクが高くなってしまいます。
初期段階では、まずはデータの利活用自体を軌道に乗せる必要があるため、アクセルを踏むことを優先し、データ利活用を阻害しない程度の最低限のブレーキに留めなくてはなりません。データ利活用を促進するスタンスで臨まなくてはステークホルダーの協力を得ることが難しくなります。やがてデータ利活用の進展に伴いデータ流出等のリスクが高まるためリスク管理が必要となりますので、徐々にブレーキを強めていきます。アクセルとブレーキのバランスについては企業文化によっても異なるため、各企業において適切なバランスを見極める必要があります。
おわりに
今回はデータの利活用における問題や、データマネジメントを整備する上でのポイントについて解説しました。多くの企業がデータの利活用に取り組みを始めていますが、思うように進んでいないのが実情です。しかしながら、データの利活用は、新しい事業を創出するなど企業が成長するためには、今後ますます重要になってくるでしょう。今回ご紹介したデータマネジメント整備のポイントを押さえ、着実に整備を進めていきましょう。
NRIではデータマネジメント整備のご支援をしております。もしお困りのことがございましたら、お気軽にご相談ください。
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