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「女性の経済的自立」の実現には何が必要か

(1)なぜ、最低賃金の引上げは所得増に繋がらないか

2022/08/10

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今月初め、最低賃金を議論する厚生労働省の審議会は、2022年度の最低賃金を全国平均で時間あたり31円上げる方針を示した。足元で続く物価高なども考慮した大幅な引上げとなる。 2022年6月に閣議決定した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」においても、賃金引上げの推進が大きな政策テーマとなっているが、最低賃金の引上げについては、2015年に当時の安倍政権が「年3%程度」の引上げを目指す方針を示して以降、着実に推進され、その流れは岸田政権においても引き継がれていることになる。
実際のところ、2010年以降で見ても、最低賃金(全国加重平均)は2010年の730円から2021年には930円と約27.4%上昇した。また、最低賃金の影響を受けやすいとされるパートタイム労働者にもその影響が表れている。厚生労働省の「毎月勤労統計調査」によれば、パートタイム労働者の時給は、2010年の1,051円から2021年には1,263円と約20.2%上昇している。最低賃金の引上げの推進がパートタイム労働者の時給上昇にも貢献していると思われる。
ところが、パートタイム労働者の年収の推移を見ると、上昇する賃金の推移とは異なる現実が見えてくる。パートタイム労働者の年収は、2010年の115万円から2021年の119万円まで、約3.7%しか上昇してないのだ(図表1)。

図表1 パートタイム労働者の時給と年収の推移(2010年~2021年)

  • (注)

    「時給」は、「現金給与総額」を「総実労働時間」で除して算出した。 「年収」は、「現金給与総額」に12を乗じて算出した。

出所:厚生労働省「毎月勤労統計調査」よりNRI作成

これはどういうことだろうか。同じ「毎月勤労統計調査」を使って、パートタイム労働者の時給、一人当たり月間労働時間、年収の動きがどのように推移してきたのをみていく。
1993年以降、2022年現在まで、時給が上昇する一方で、一人当たり月間労働時間は減少している。そのため、年収はほぼ横ばいになっている(図表2)。

図表2 パートタイム労働者の時給、年収、一人あたり月間総実労働時間の推移
(1993年~2021年)

出所:厚生労働省「毎月勤労統計調査」よりNRI作成

このように、パートタイム労働者の年収が長期に渡って横ばいとなっている問題については従来から指摘されており、その原因として、パートタイム労働者の6割を占める有配偶女性が、税金や社会保険料の支払い対象外となる年収の範囲に留まるよう、労働時間を調整する「就業調整」の影響も大きいと言われている(注)。いわゆる「年収の壁」と言われる問題である。
少し前になるが、2016年に厚生労働省が実施した「平成28年パートタイム労働者総合実態調査」によれば、有配偶女性かつパートタイム労働者(以下、有配偶女性のパートタイム労働者)の年収は、「年収100万円近辺」及び「年収130万円近辺」が多く、「年収130万円未満」までで全体の8割近く(73.7%)を占めている。「年収の壁」としてよく言及される「103万円の壁(所得税の壁)」、「130万円の壁(社会保険料の壁)」の手前で働く人が多いことがうかがえる(図表3)。

  • (注)

    株式会社マイナビが実施した「主婦のアルバイト調査(2021年)」によると、アルバイトとして働く主婦の過半数(51.3%)が「就業調整」をしていると回答している。

図表3 有配偶女性のパートタイム労働者の年収分布(2015年)

出所:厚生労働省「平成28年パートタイム労働者総合実態調査」よりNRI作成

パートタイム労働者が所得税の発生しない年収103万円以内を維持して働こうとした場合、時給の上昇によってどれだけ労働時間を短縮せざるを得ないのかをみていこう。
すると、年収103万円以内で就労可能な労働時間は、2001年に87.8時間/月であったのに対し、2021年には68.0時間/月と約22.6%減少する。2010年から2021年の年平均上昇率で今後も時給の上昇が続いた場合、年収103万円以内で就労可能な労働時間はさらに短くなり、2028年には60時間/月を下回る見込みである(図表4、5)。

図表4 パートタイム労働者の時給と年収103万円以内で働く場合に可能な労働時間の推移
(1993年~2021年)

  • (注)

    「時給」は、「現金給与総額」を「総実労働時間」で除して算出した。また、「年収103万円以内で働く場合に可能な労働時間(月あたり)は、年間の可能な労働時間数を算出した後、それを12で除して算出した。図表5も同じ。

出所:厚生労働省「毎月勤労統計調査」よりNRI作成

図表5 パートタイム労働者の時給と年収103万円以内で働く場合に可能な労働時間の推移
(2012~1021年(実績)、2022~2028年(推計))

出所:厚生労働省「毎月勤労統計調査」よりNRI作成

パートタイム労働者の多くにおいて、最低賃金の上昇が、必ずしも所得増につながらない実態をみてきた。それだけでなく、労働力不足にもかかわらず、1人あたりの労働時間を短縮させてしまうことは看過できない。
次回は、「年収の壁」を超えることがどれほどのハードルなのかについてみていきたい。

執筆者情報

  • 武田 佳奈

    未来創発センター グローバル産業・経営研究室

    エキスパート研究員

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