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春闘と金融政策の正常化:賃金と物価の好循環は期待薄

2023/01/17

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金融政策の修正期待が強まる下での春闘

労働組合の中央組織・連合は、ベア3%程度、定期昇給分も含めて5%程度の賃上げを掲げて春闘に臨む。従来よりも1%高い目標水準である。

一方、経営者団体である経団連は17日に、今年の春闘に向けた指針を発表した。物価高に配慮して、積極的な賃上げが「企業の社会的な責務」だと指摘し、強い表現で会員企業に賃上げを呼びかけた。十倉会長は、「賃金と物価が適切に上昇する好循環につなげなければ、日本経済の再生は一層厳しくなる」とも述べている。他方で、5%程度を掲げる連合の賃上げ要求は過去約10年の実績との乖離が大きいとし「要求水準自体は慎重な検討が望まれる」として、慎重な姿勢も見せている。

今年の春闘は、日本銀行の政策修正期待が強まるタイミングで開かれる。その行方は、今後の金融政策運営、特に4月からの新総裁の下での金融政策を占う観点から注目されている。

昨年来の物価上昇率の上振れに、春闘での賃金上昇率の上振れが重なることで、賃金と物価の好循環が生じて、日本銀行が掲げる2%の物価目標を安定的に達成できる環境ができる、との期待も一部にはある。特に海外投資家は、そうした見方に基づいて、日本銀行の金融政策正常化観測を強める傾向が見られる。

物価・賃金上昇率の上振れは一時的で相乗的な上昇にはつながらない

しかし、賃金と物価の好循環が生じる可能性はかなり低いと考えられる。確かに、今年の春闘では賃金が昨年までよりも上振れることが見込まれるが、それは、昨年の高い物価上昇率が転嫁される一時的な現象である。消費者物価(除く生鮮食品)が昨年12月には前年同月比で+4.1%に達したとみられるが、そこがピークであり、この先は、物価上昇率は低下傾向を辿ると見られる。一時的な物価高をもたらした海外市場でのエネルギー価格高騰、円安進行の流れは既に変わってきており、エネルギー価格の下落と円高進行の影響で、輸入物価は足元で既に大幅な下落傾向に転じている。川上での価格下落の影響は、年後半を中心に、消費者物価上昇率の低下をもたらすことになるだろう(コラム「川上の物価上昇圧力は緩和に向かう(12月分企業物価統計)」、2023年1月16日)。

日本経済研究センターの民間予測調査によると、春闘賃上げ率の予測平均値は定期昇給分を含んで+2.86%(昨年は+2.20%)、ベアは+1.08%であった。これは自身が示してきた、賃上げ+3%弱、ベア+1%強とも一致するものであり、妥当な水準だろう。

金融政策の正常化には物価目標の位置づけの修正が必要に

賃上げ率全体は1997年以来の高水準となることが見込まれる。しかし、今後国内経済情勢が厳しさを増す一方、世界経済の減速を映して海外市況が下落し、また円高傾向が続けば、賃金上昇分が価格に転嫁される余地は限られるだろう。

他方で、消費者物価の前年比上昇率は来年の春闘の時期には、1%台前半まで低下していると予想される(コラム「川上の物価上昇圧力は緩和に向かう(12月分企業物価統計)」、2023年1月16日)。今年の春闘で賃金上昇率は上振れても、それは物価上昇率の上振れを映した1年限りのものであり、来年の春闘では賃上げ率は2%程度、ベアは0%台半ば程度まで再び下がると予想される。

物価上昇も賃金上昇もともに一時的なものであり、両者間での相乗的な上昇は続かないだろう。日本銀行は、2%の物価上昇率は安定的に続く状態と整合的な賃上げ率はベアで+3%としている。今年の春闘でベアは上振れても+1%強にとどまり、2%の物価目標達成に必要な水準にはなおかなり遠い。

日本銀行がこの先、正常化を進める際には、2%の物価目標の達成が見えてきたとして行う場合と、2%の物価目標の位置づけを中長期の目標などに修正した上で行う場合との2つのパターンが考えられるが、後者の可能性の方が高い。それは、4月からの新総裁の下で、数年かけて慎重に進められていくだろう。

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