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日銀新体制の課題⑩:ETF購入策に出口はあるか⑤:ETFオフバランス化のスキーム

2023/02/22

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第3の選択肢は「銀行等保有株式取得機構」がモデルか

前回のコラムでは、株価下落によって日本銀行の財務が悪化することを避けるための2つの選択肢を議論した(コラム「日銀新体制の課題⑨:ETF購入策に出口はあるか④:日本銀行の独立性が脅かされるリスク」、2023年2月21日)。いずれも実現可能性が低いものだ。

ETFの出口戦略の第3の選択肢は、ETFを市場で売却することなしに日本銀行のバランスシートから外すスキームだ。ただし、日本銀行が特定の民間機関などにETFを売却しても、その民間機関が直ぐに市場で売却することが可能な場合には、株価に悪影響が及び、日本銀行が株式市場で直接売却する場合と変わらなくなってしまう。

他方、日本銀行がその民間機関に対して買い取ったETFを売却しないように強制することはできない。日本銀行がETFを株式市場を通さずに売却したうえで、それが直ぐに株式市場に流通しないような特殊な仕組みを作るには、政府の協力が必要となるだろう。その際に参考となるのは、2002年に設立された「銀行等保有株式取得機構」ではないか。

この組織は、「銀行等の株式等の保有の制限等に関する法律」に基づく認可法人として設立された。銀行等が持ち合い株解消のため、短期間で大量に保有株式の売却を市場で行うと、株式市場に悪影響を及ぼし、銀行経営を不安定化させる可能性があることから、それを回避するための受け皿としての役割を担っている。

株式を銀行等から市場を通さずに買取り、十分な時間を費やして市場に売却していくことを主な業務としている。設立時の拠出金は107億円で大手銀行、地方銀行、農林中央金庫、信金中央金庫が拠出した。買い取り資金は、政府保証付きでの銀行からの借り入れや、銀行等保有株式取得機構債の発行で調達する。買い取った株式を市場に売却して損失が出た場合には拠出金で穴埋めするが、拠出金を超える損失が出ると公的資金で穴埋めすることになる。

無傷での出口戦略はもはや考えられない

この銀行等保有株式取得機構をモデルにして、日本銀行が保有するEFTの受け皿機関を新たに作ることは可能だろう。日本銀行がその機関に拠出して、政府保証付きで銀行からの借り入れや、同機関の債券発行で資金を調達したうえで、日本銀行が同機関にETFを売却し、相応の時間をかけて処分していく、というものだ。

処分の過程で拠出金を超える損失が生じた場合には、公的資金で穴埋めする規定となるのではないか。その場合、国民負担が生じて大きな政治問題に発展してしまうことから、事実上は、損失を発生させるような売却はなされずに、株価が低迷する場合には、ETFは長期間塩漬けされやすい。そうした期待を株式市場に植え付けることで、当初から株式市場への悪影響を抑えることができるのである。

日本銀行のETF買入れの基本要綱では、ETFを売却する際には「指数連動型上場投資信託受益権等の市場等の情勢を勘案し、適正な対価によるものとする」と定められている。これは、日本銀行が新たな組織にETFを持ち込む際に、時価で売却することを求めるものである。

仮に、時価が簿価を相応に下回った時点で売却すれば、日本銀行に損失が発生してしまうため、この枠組みは株価水準が高いうちに始めることが求められる。実際には、基本要綱を改正して、市場を通じないで新たな機関に簿価で売却できるようなルールを新たに作ることになる可能性もあるかもしれない。

ETFの出口戦略について、他の2つの選択肢ではなく、日本銀行が消去法的にこの第3の選択肢を採用していく可能性は十分に考えられるのではないか。それでもなお、日本銀行が政府あるいは国民から失策の批判を受けることは避けられず、それが日本銀行法の改正を通じた独立性の制限につながっていく可能性も残されるだろう(コラム「日銀新体制の課題⑨:ETF購入策に出口はあるか④:日本銀行の独立性が脅かされるリスク」、2023年2月21日)。

大量のETFの買入れを既に大幅に進めてしまった結果、日本銀行が何ら打撃を受けずに、いわば無傷でETFの出口戦略を進めることなどは、もはや考えられないのである。

(参考資料)
「日銀の出口戦略Q&A」、銀行研修社、木内登英

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