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植田日銀総裁候補の参院所信聴取:0%が物価の安定:2%の物価目標の修正が鍵に

2023/02/27

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物価の安定は0%の物価上昇率

2月27日に参院で、植田日銀総裁候補の所信聴取と質疑応答が行われた。その冒頭では、24日に行われた衆院での所信聴取と同様の内容の表明を植田氏は繰り返した(コラム「植田新総裁候補の所信聴取:慎重な答弁も現在の政策の問題点を明確に指摘し、政策修正を示唆」、2023年2月24日)。その後の質疑応答も、衆院と重複する内容が少なくなく、新たな情報は乏しかったと言える。

ただし、その中で最も注目されたのが、物価目標を2%とすることの妥当性についての質問に対する植田氏の答弁だ。衆院と同様に、やや歯切れの悪い答弁に終始した感がある。衆院では、2%の物価目標水準が一種の国際基準であることと、外的ショック時の金融緩和ののりしろを確保しておくために、ある程度高めの水準に設定する必要がある、と説明されていた。

植田氏は参院の質疑では、物価目標の考え方について意見を付け加えた。学術的には物価の安定とは、物価が動かない状態、つまり0%の物価上昇率であるとし、それが、企業、家計が経済活動を行う上で最も不確実性が低い望ましい状態であると説明したのである。そして、実際の物価上昇率がこの0%から乖離するほど、不確実性という経済活動を行う上でのコストが高まるため、0%よりもかなり高い水準に物価目標を設定することは問題である、と植田氏は説明した。

植田氏は2%の物価目標は高すぎると考えている可能性

植田氏が衆院でも述べた、国際基準とのりしろ論の2つの考えについては、黒田総裁の下で日本銀行が2%の物価目標が妥当である理由として何度も説明してきたものだ。植田氏はその説明をなぞったに過ぎない。

他方、「0%よりもかなり高い水準に物価目標を設定することは問題である」との説明は、学者としての植田氏の本音を示したものだろう。こうした一連の発言を踏まえると、植田氏は、やはり、2%の物価目標水準が高過ぎると考えているのではないか、と推察される。実際、「無理せず、2%の物価目標を中長期的に」と過去にコメントをしたこともある(コラム「日銀新体制の課題⑤:植田和男研究」、2023年2月13日)。

ちなみに、物価上昇率が0%であることが望ましい状態であることは、かつてバーナンキ元米連邦準備制度理事会(FRB)議長も指摘したこともあり、学術界の主張として違和感はない。しかし、10年前に日本銀行がこのような発言をしていたら、「日本銀行はデフレを容認している」として、強い批判を浴びたはずである。「物価の安定は0%の物価上昇率」との植田氏の今回の発言は、今後、議論を呼ぶのではないか。

本格的な政策修正は2%の物価目標見直しの後に

日本銀行が新体制下で、どの程度の規模で政策修正を行うか、またどの程度のペースで修正を行うことができるのかについては、2%の物価目標の修正に大きく依存しているだろう。

植田氏は現在の政策について、「様々な副作用が生じている」とその問題点を明確に指摘している。他方で、現在の政策が「2%の物価安定の目標の実現にとって必要かつ適切な手法だ」とも説明している。これは、「2%の物価目標という高い目標の達成を前提とすれば、副作用を生じさせる現在の異例の金融緩和も正当化される」と読むことも可能だろう。他方でこれは、「2%という無理な目標を柔軟化、修正すれば、副作用軽減を図るために、政策を修正することが適当になる」と読み換えることができるのではないか。

現時点で、植田氏が2%の物価目標の修正に言及しないのは、それに言及すれば、金融市場が政策修正期待を一気に強め、過剰に反応してしまう恐れがあるためだろう。さらに、2%の物価目標を含む政府と日銀の共同声明がどのように修正されるかは、政府と協議してみなければ分からないため、政府にも配慮して、それに予断を与えるような発言は避けているのではないか。

YCCの修正は早ければ今年4月にも

2%の物価目標が中長期の目標などへ柔軟化されれば、新体制のもとで日本銀行は、「様々な副作用」が認識されている現在の政策の修正を実施していくことが予想される。しかし、2%の物価目標の修正に否定的な意見も与党内にあるなか、物価目標の柔軟化を含む共同声明の修正には相応の時間を要する可能性が考えられるところだ。

さらにこの先、内外経済が不安定感を強め、また、FRBの利下げ観測が金融市場に広まれば、円高リスクにも配慮して、日本銀行は政策修正を見合わせるのではないか。

こうした点を踏まえ、日本銀行がマイナス金利解除などの本格的な政策修正に着手するのは、2024年半ば以降になると予想したい。

ただし、イールドカーブ・コントロール(YCC)の見直しについては、新総裁の下で早ければ4月の金融政策決定会合で、10年国債利回りの変動幅の再拡大、あるいは撤廃に日本銀行が踏み切る可能性が考えられる。そうした施策は、本格的な金融緩和の枠組み修正ではなく、市場機能の改善を目指す柔軟化策、と位置付けられるため、2%の物価目標の見直しを必ずしも必要としないためである。

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