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UBSがクレディ・スイス買収に向けた交渉を開始

2023/03/19

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中銀からの資金借り入れ後も続くクレディ・スイスへの市場の厳しい評価

経営不振が強く懸念されているスイスの金融大手クレディ・スイスは16日、スイス中銀から最大500億スイス・フラン(約7兆1,500億円)を借り入れる計画を発表した(コラム「市場の厳しい評価に晒されるクレディ・スイス」、2023年3月16日)。これによって、流動性危機に陥るリスクは緩和されたものの、抜本的な問題解決には遠い状況だ。クレディ・スイスの株価下落は17日も続いた。

またCMAQのデータによると、17日にはクレディット・デリバティブ・スワップ(CDS)の社債の保証コストは約3,000bp(1bp=0.01%)と、危機水準に達している。同数値は3月上旬時点の10倍程度である。

クレディ・スイスの社債のデフォルト(債務不履行)リスクを示す保証コストの急上昇は、クレディ・スイスの経営に対する市場の強い懸念を反映しており、その社債を保有する投資家が、損失をカバーするためにCDSを買い急いだ結果である。

さらに、破綻前の段階で損失を吸収する仕組みが組み込まれているAT1債(その他Tier1債)の価格も急落している。クレディ・スイスのAT1債は約760億スイス・フラン(約11兆円)に上る。

AT1債は、自己資本比率が一定水準まで低下すると元本が削減され、株式に転換されることで自己資本を増強する。また連邦金融市場監督機構(FINMA)によると、当局がクレディ・スイスの預金者を保護するため介入する場合でも、このAT1債は無価値となり、株式に転換されるという。

部門切り売りを含む改革継続による乗り切りはうまくいくか

欧州の他の大手金融機関の間でも、クレディ・スイスとの取引を見合わせる動きが広まっていると見られ、同行が置かれた状況はかなり厳しさを増している。

この先の同行の行方について、3つのシナリオが考えられる。第1は、破綻処理、第2は、部門切り売りを含む改革継続による乗り切り、第3は、他行による買収である。

このうち第1の破綻処理の可能性はかなり小さいだろう。当局が同行の破綻を選択することはないだろう。それは、スイスだけでなく世界の金融市場に甚大な打撃を与え、場合によってはグローバルな金融危機の引き金となってしまう恐れがあるからだ。また、世界の金融拠点としてのスイスの名声に大きく傷をつけ、スイスの国力低下にもつながりかねないためである。

第2は、昨年来、クレディ・スイスが取り組んでいる構造改革をさらに加速させ、金融市場の信頼を取り戻すよう経営陣が最善を尽くすることである。

各種スキャンダルや巨額の損失に見舞われたクレディ・スイスは、数年前から経営再建に取り組んできた。ウルリッヒ・ケルナーCEO(最高経営責任者)は昨年10月に、投資銀行部門の抜本的再編、コスト削減、増資などの構造改革計画を行った。その一環として、同行は買収助言およびレバレッジド・ファイナンス事業を分離し、新設の「クレディ・スイス・ファースト・ボストン(CSFB)」に統合する方針を示した。CSFBについては、現在買い手を募っている状況だ。また、業績低迷が続く投資銀行部門については、債券・株式トレーディング事業の縮小や、投資銀行事業全体の解体を迅速に実行する選択肢もある。

ケルナーCEOは3月16日、業務合理化に向けた「戦略的変革」を続けると表明し、特に富裕層向けの資産運用業務に注力する考えを明らかにした。

ただし、相応に時間がかかる改革を進めることだけでは、足元で急速に悪化してしまった金融市場の評価を回復させることはもはや難しいのではないか。

UBSがクレディ・スイスの買収協議を開始との報道

第3は、他行による買収によって破綻を回避することだ。実際、その方向で事態は進み始めたようにも見える。

スイス金融最大手のUBSグループがクレディ・スイスの全体、もしくは一部を買収することで協議を開始した、と英紙フィナンシャル・タイムズが17日に、関係筋の話として報じたのである。

両行は週末にそれぞれ取締役会を開き、統合について話し合うとされる。スイス中銀と金融監督局が協議を後押ししているという。また、スイス中央銀行は17日夜に、米英の金融当局に対して、2行の統合がクレディ・スイスの崩壊を阻止する「最善策」であると説明した、とされる。

両行ともに、投資銀行部門の抜本的な改革は求められるところだが、クレディ・スイスはクレジットに、UBSは株式にそれぞれ強みがあり、両行は投資銀行部門で相互補完的な関係にある。この点から、統合によるメリットが得られやすいだろう。

また、クレディ・スイスの国内リテール銀行部門にはグループ全体の時価総額を超える価値がある、との指摘がある。さらに、同行の強みであるプライベートバンク事業は黒字を維持している。これらのビジネスを現在の極めて低い株価で買うことができるのであれば、それはUBSにとっても魅力的だろう。

銀行不安、金融市場の動揺はまだ始まったばかりか

仮にUBSがクレディ・スイスの多くの部門を買収するのであれば、米国の銀行破綻をきっかけににわかに強まった欧州での銀行不安、金融市場の動揺もひとまず沈静化していくことが予想される。しかし、米国と比べても欧州の大手銀行の経営基盤の脆弱性は目立っており、抜本的な問題解決には遠いだろう。

米国および欧州での大幅な金融引き締めによる長期金利の急騰が、欧州の銀行が保有する債券に巨額の含み損を生じさせ、さらに、逆イールドが資金収益を損ねてしまった。こうした金融環境の変化による2つの逆風は残ったままである。

さらにこの先、急速な利上げによる景気悪化が明確になれば、貸出資産劣化、不良債権問題の深刻化という逆風も重なり、まさに欧州の銀行は「三重苦」の状況に陥る可能性があるだろう。

米国、欧州ともに銀行不安、金融市場の動揺はまだ始まったばかりであり、いったん収まっても第2弾が先に待ち受けているのではないか(コラム「スイス中銀がクレディ・スイスに流動性供給の準備と表明:米国から欧州に飛び火する銀行不安:本丸は欧州か」、2023年3月16日)。

(参考資料)
「クレディS、約11兆円の債券にベイルインリスク-社債価格が織り込む」、2023年3月17日、ブルームバーグ
「情報BOX:経営不安くすぶるクレディ・スイス、今後のシナリオ」、2023年3月17日、ロイター

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