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UBSがクレディ・スイスを買収:6中銀はドル供給を強化

2023/03/20

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歴史的な銀行統合に

スイス金融最大手のUBSは現地時間19日に、長年のライバル関係にあったクレディ・スイスを買収することで合意した(コラム「スイス中銀がクレディ・スイスに流動性供給の準備と表明:米国から欧州に飛び火する銀行不安:本丸は欧州か」、2023年3月16日、「市場の厳しい評価に晒されるクレディ・スイス」、2023年3月16日、「UBSがクレディ・スイス買収に向けた交渉を開始」、2023年3月19日)。

世界の金融危機の引き金となる可能性もあったクレディ・スイスの無秩序な破綻を回避しようとするスイス政府、金融当局の仲介により、週末の間に買収スキームが一気にまとめられた。2008年のリーマンショック(グローバル金融危機)以降、世界で初めての銀行の大型買収劇となった。買収後は、人員削減などのリストラが避けられないとみられる。特に問題を抱えていたクレディ・スイスの投資銀行部門は、大幅に縮小される見込みだ。

スイス当局は、週明けまでに事実上期限を切る形で、両行に統合を強く働きかけていた。また、合意できない場合には、クレディ・スイスの国有化も選択肢になる、としていた。

クレディ・スイスは近年、一連の損失、不祥事、訴訟に見舞われ、顧客、市場からの信頼感を大きく低下させていた。昨年10月に発表したリストラ策でも信頼を回復することはできず、昨年10-12月期には巨額の顧客預金の流出が起こっていた。

足元では米国の銀行破綻をきっかけに、同行の経営不安が再燃し、再び顧客預金の流出が加速し、また、他の金融機関がカウンターパーティ・リスクを強く警戒して、同行との取引を控える動きを見せていた。先週末の時点で、同行はもはや自力で経営を立て直すことが難しい状況にあったとみられる。

政府は90億フランの損失補償

買収は30億スイスフラン規模の株式交換方式による。17日終値でクレディ・スイスの時価総額は約74億フランであったことから、半分以下の値段で買収されることになる。交渉過程でクレディ・スイスは、安値で買われることに抵抗していたとされる。他方、UBSはさらに低い10億フランでの買収を主張していたとされ、買収に対する慎重さがうかがわれた。

そうした慎重姿勢のUBSに買収を受け入れさせる条件の一つとして政府が提示したのは、UBSが買収したクレディ・スイスの資産から損失が生じる場合に備え、90億フランの保証を与えることだ。これは、UBS側が十分な資産査定を行う時間的余裕がないままに、今回の買収を決めなければならなかったことを反映している。

またこの結果、買収に伴い国民負担が生じる可能性が出てきたことから、今回の買収は政府による救済、いわゆるベイルアウトの性格を持つことになる。

ベイルアウトでリーマンショック以降の銀行規制の在り方が問われる

他方で今回の救済劇は、投資家、債権者の損失を伴うベイルインの性格も併せ持つ。スイスの連邦金融市場監督機構(FINMA)の声明によると、損失吸収のために、クレディ・スイスのAT1債(その他Tier1債)は、完全な元本削減が実施され、自己資本に組み入れられる。

AT1債は、発行する銀行の自己資本比率が一定水準を下回る際に、元本が毀損され自己資本に組み入れられるが、政府が救済する場合にも、同様な措置が講じられる。

無価値となるクレディ・スイスのAT1債は160億フラン(約2兆3,000億円)と、欧州のAT1債市場全体の5.8%に相当する。今回のベイルインが、欧州のAT1債市場に打撃を与えることは避けられない。

2008年のリーマンショック後は、国民負担が生じる可能性があるベイルアウトを極力避けるための措置が講じられた。その一つがAT1債発行など損失吸収の仕組みである。このAT1債には、銀行の資本不足を補い、銀行の破綻を事前に回避する、あるいは銀行の経営不安を緩和する役割が期待された。

しかし、今回のクレディ・スイスの買収は、民間銀行による問題解決という性格と政府による救済、いわゆるベイルアウトと投資家、債権者の損失を伴う救済、いわゆるベイルインの3者が混合された形となった。

ベイルアウトが避けられなかったという点で、バーゼルⅢなどリーマンショック以降の銀行規制の問題点が、再び問われることになるだろう。

逆イールドの進展と景気悪化で欧米銀行不安は第2ラウンドも

クレディ・スイスの破綻という最悪の事態が回避されたことで、世界規模で強まった銀行不安、金融市場のリスク回避傾向は、とりあえず緩和されることになる。しかし、クレディ・スイスのAT1債で完全な元本削減が行われたことで、欧州他行のAT1債のリスクも高まり、価格が下落することが予想される。AT1債の価格下落自体が、銀行の自己資本不足、破綻リスクの指標とみなされやすいことから、そこから新たな銀行不安へと発展していく可能性もあるのではないか。

さらに、銀行不安が高まった欧米では、その底流にある金利環境の変化は、引き続き銀行の財務環境に逆風のままだ。銀行不安を受けて、欧米では長期金利は低下する一方、欧米の中央銀行はなお物価高抑制のために利上げを続ける考えとみられる。それによる逆イールドの一段の進展は、銀行の収益をさらに悪化させる。

そして、大幅な利上げが景気悪化につながれば、銀行の貸出資産の劣化が進み、銀行不安は第2ラウンドに入ることも考えられる(コラム「景気が悪化すれば米国信用不安は次のステージに」、2023年3月15日)。銀行不安もまだ先は長いのではないか。

欧米中銀は利上げと資金供給拡大のポリシーミックス

日本時間の20日早朝に、米連邦準備制度理事会(FRB)、日本銀行、スイス中銀など日米欧の6中央銀行は、米ドルの資金供給を毎日実施する拡充策で協調すること決定した。少なくとも4月末まで続ける予定だという。中央銀行間のスワップ協定に基づくドル供給の拡充は、2020年3月のコロナショック時にも行われたものだ。金融市場の緊張が高まる局面では、最も信頼性の高い事実上の基軸通貨であるドルの需要が一気に高まり、ドル調達の失敗する銀行では、ドル資産でデフォルトが生じる可能性があるためだ。

欧州中央銀行は先週に利上げ継続を決め、FRBは今週22日に0.25%利上げを実施することが見込まれる。中央銀行は物価高への対策と金融システム不安への対応で板挟みの状況にあるが、物価高対策としては利上げを継続する一方、金融システム不安への対応では資金供給を拡充するというポリシーミックスで乗り切ろうとしている。

日本銀行の金融緩和の枠組みの見直しのスケジュールは先送りも

日本銀行は、地域金融機関に対するドル資金の貸出を強化することになるだろう。さらに、金融市場の動揺が続けば、国債買い入れの増額などを通じた資金供給拡大を検討するだろう。また、株価が大きく下落する局面では、ETFの買い入れを実施するだろう。

一方、銀行不安から金融市場の動揺が強まっても、金融機関の収益を悪化させているマイナス金利の深掘りを実施する可能性は低い。それは、銀行不安をさらに増幅させてしまいかねない。他方で、金融市場が不安定なもとでは、4月の新体制の下で段階的な実施が見込まれる金融緩和の枠組みの見直しのスケジュールが、かなり後ずれすることも考えられるところだ。

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