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物価高対策は2兆円超の見込み:現時点での概算で5,150億円の景気浮揚効果

2023/03/20

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低所得世帯、低所得子育て世帯、価格抑制策で2兆円超

政府は22日にも政府の物価・賃金・生活総合対策本部で追加の物価高対策を決定する。その対策案の具体的な規模や内容が、報道を通じて次第に明らかになってきた。対策には予備費が充てられるとみられるが、2022年度予算の予備費は、新型コロナウイルス・物価高対策分で約5兆円残っている。また、第2次補正予算で計上されたウクライナ予備費1兆円がそのまま残っており、利用できるのは両者の合計で最大6兆円程度である。

現時点では、予備費のうちの2兆円超を使って、物価高対策を実施することが見込まれている。2兆円超のうち半分強に相当する1.2兆円程度は、国が地方に配る「地方創生臨時交付金」に充てられる方向だ。その1.2兆円のうち7,000億円は、物価高対策に利用される。1月から開始されたガス料金の値上げ抑制策では対象とならなかったが地方で利用の多いLPガスや大規模工場向けの電力の値上げ抑制策に用いられる。

交付金の残り5,000億円は、新たにつくる低所得世帯支援策の枠組みに充てられる。住民税非課税世帯などの低所得世帯に一律3万円を給付する。

対象世帯の所得条件はまだ決まっていないが、5,000億円という給付規模から考えると、年収300万円未満という条件に近いものとなろう。2021年6月3日現在における全国の世帯総数は 5,191 万4千世帯であるが、給付の対象を年収300万円未満とする場合、それは全世帯数の31.8%に相当する(厚生労働省「2021年国民生活基礎調査の概況」)。そのため、世帯当たり一律3万円の給付の総額は4,953億円程度となる。およそ5,000億円規模だ。

名目GDPを5,150億円、0.09%押し上げると試算

「地方創生臨時交付金」以外では、子育て低所得世帯の支援が行われ、交付金とは別に子ども1人あたり5万円の給付を上乗せして実施する方向だ。年収300万円未満の子育て世帯に子供一人当たり5万円を上乗せ給付すれば、給付総額は3,053億円程度となる。

また、新型コロナウイルス対応の病床を確保した病院を自治体が支援する「緊急包括支援交付金」も大幅に増やす。物価高の影響を強く受けている輸入小麦の政府売り渡し価格の抑制も続ける。これらの対策全体に計1兆円程度を計上する見通しだ。

現時点での暫定値ではあるが、この2兆円超の物価対策が実施された場合、名目GDPは5,150億円押し上げられる。さらに、名目・実質GDPは0.09%押し上げられる計算となる(図表)。

他方、消費者物価に与える影響は、LPガス代への20%補助で-0.30%、政府の小麦受渡価格引き上げ幅の5.8%への抑制措置で-0.006%と試算される(コラム「政府の小麦価格上昇抑制の経済・物価への好影響は僅か(CPI上昇を0.007%抑制):追加の物価高対策は的を絞るべき」、2023年3月7日)。

図表 物価高対策の経済効果暫定試算

子ども支援策を物価高対策と組み合わせる必要はあるか

この対策は景気浮揚効果を一定程度生むと言えるが、そもそも景気浮揚効果を狙って追加の物価高対策を実施することは、適切ではない。物価高が個人消費の逆風となっていることは確かであるが、実際の個人消費は比較的安定しており、緊急的な対策が必要な局面ではない。また、この先は、感染に関わる制限の緩和やインバウンド需要の高まりも、個人消費を相応に押し上げることが期待される。いたずらに規模を追求して景気刺激を狙う必要はないだろう。

追加の物価高対策を実施するのであれば、物価高による打撃が特に大きい家計、企業に的を絞って支援する施策とすべきだ。この点からも、低所得世帯への給付を実施するのであれば、できる限り厳格な所得制限を設け、支援対象を限定すべきだ。

さらに、政府が現在検討しているのは、子育て支援と物価高で打撃を受ける低所得世帯の支援の双方を組み合わせた施策であるが、子育て支援は、予見できなかった物価情勢の変化への対応としての物価高対策ではなく、本予算の中で検討すべきなのではないか。また、この枠組みでは、低所得世帯のうち、子育て世帯と子供がいない世帯の間に不公平感も生じてしまう。

規模を追求した結果、バラマキ的な政策の色彩が強まってしまうことも懸念されるところだ(コラム「政府は低所得世帯3万円の現金給付を検討:年収300万円未満世帯が対象でGDP2千億円押し上げ」、2023年3月16日)。

(参考資料)
「物価高対策に2兆円超支出 政府、地方交付金に1.2兆円」、2023年3月20日、日本経済新聞電子版
「物価高対策に2兆円超、LPガス補助は「推奨事業」に…低所得世帯に一律3万円」、2023年3月20日、読売新聞速報ニュース

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