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こども家庭庁の発足と先進国中ほぼ最下位の日本の子どもの精神的幸福度

2023/03/30

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コストを踏まえ少子化対策の重要性の議論を深めていくことが重要

政府は3月31日にも、少子化対策のたたき台を取りまとめる。6月の骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)で、具体的な政策、予算規模、財源について示す予定だ(コラム「異次元の少子化対策には過去の政策の検証と費用対効果の分析が必要:財源議論先送りで防衛費増額と同様の混乱も」、2023年3月27日)。ただし、昨年の防衛費増額と同様に、財源の議論は紛糾することが予想される。

具体的な政策、予算規模、財源を同時に議論し、最適な組み合わせを見出していくことが必要だ。新たな政策の実施には、必ずコストがつきものである。新たな国民負担や歳出削減で他の政府サービスをあきらめることを強く意識する中で、改めて少子化対策の重要性、各種政策の中での優先順位などの議論を深めていくことが重要だろう。

子ども政策の司令塔「こども家庭庁」が発足

ところで、4月1日にはこども家庭庁が発足する。厚生労働省や内閣府の部局を分離・統合した組織で、内閣府の外局となる。各省庁に分かれる政府の子ども政策を束ねる「司令塔」の役割を担うことが期待される。

現在は、少子化対策が注目を集めているが、こども家庭庁が担うのは、少子化対策だけではなく、子どもに関わる幅広い政策である。「成育局」は、妊娠期から2歳までの間、伴走型で子育て、子どもの成長を支援する。「支援局」は、家庭での虐待、貧困、いじめ、ヤングケアラーといった子どもが抱える問題を担当する。そして「長官官房」が、全体を調整し、少子化対策を担う。

政府は、出生率の引き上げを目指す少子化対策に注力するあまり、子どもが抱える様々な問題への対応が遅れないようにする必要があるだろう。虐待、貧困といった子どもの問題は、その子供が成人となった後、結婚して子どもを持つことの障害となり、出生率を引き下げてしまう可能性もあるのではないか。この点で、少子化対策とも関わってくる。

日本の子どもの精神的幸福度は先進国の中でほぼ最下位

ユニセフ(国連児童基金)が2020年に公表した報告書「子どもたちに影響する世界」によると、日本の子どもの幸福度は、先進38か国中20位、さらに精神的幸福度については、38か国中37位とほぼ最下位(38位はニュージーランド)となってしまった。

精神的幸福度は、「生活満足度が高い15歳の割合」と「15~19歳の自殺率」の2つの指標から算出される。「生活満足度が高い15歳の割合」は、生活全般の満足度に対する設問で、0~10のうち6以上を選んだ子どもの割合を示す。日本は62%と、トルコの53%に続いて下から2番目の37位だった。「15~19歳の自殺率」については、10万人当たりの自殺率(2013年から2015年の平均値)でみて日本は7.5と下から12番目であった。

それ以外では、子どものいじめ問題や貧困問題についても調査されている。月に数回以上いじめられたと回答する子どもの割合は、日本では約17%だった。各国平均である約23%よりは低いものの、頻繁にいじめられている子どもの生活満足度は低い傾向がみられ、その傾向は日本で特に顕著であった。

日本の子どもの貧困率は約18%で、全体の平均程度であったが、日本のGDPの高さや失業率の低さといった経済環境に照らした場合には、高過ぎると言えるだろう。

子ども政策では精神的支援が重要に

これらの調査結果を踏まえて同報告書は、日本の子ども関連政策について、精神的健康も健康の一部であり、子どもへのメンタルヘルスのサービスの提供が重要としている。また、コロナ問題への対応でも、経済面だけでなく精神面での子どもの支援が必要としている。さらに、いじめ問題をなくすには、保護者、学校などの意識の変革が重要である点を強調している。

以上のような課題を踏まえると、4月1日に発足するこども家庭庁が担う、子どもの虐待、貧困、いじめ、自殺などの問題に対しては、経済的な支援に留まらず、精神面での支援がより重要であり、また関係者の意識の変革も必要になってくるだろう。

こうした子どもが抱える問題への対応が、少子化対策にもつながっていくものと考えられるが、政府の少子化対策が児童手当の拡充を中心に金銭面での支援強化に終始している点に課題が感じられる。こども家庭庁には、子どもの心の問題に深く立ち入り、精神面での支援を強化してもらいたい。

(参考資料)
「子ども政策、問われる「司令塔」 3部局400人、こども家庭庁4月1日発足」、2023年3月30日、朝日新聞

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