フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 米国TikTok問題の落としどころと日本の対応

米国TikTok問題の落としどころと日本の対応

2023/04/12

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

TikTok禁止は若者の民主党離れを促す可能性

中国企業によって運営されるTikTokを通じて、ユーザのデータが中国政府に送られ、また中国政府がTikTokを用いて米国の世論を操作するリスクを警戒して、米下院は3月1日に米国内でTikTokの使用を全面的に禁止する法案を可決した。この法案が効力を持つには、上下院本会議で可決されたのちに大統領による署名を経る必要がある。同法案に関連した公聴会が、23日に下院で開かれた(コラム「米中対立の新たな火種、動画共有アプリTikTok問題の行方」、2023年4月7日)。

TikTokへの対応を巡っては、民主、共和の両党間に温度差がある。共和党がTikTokの規制強化を強く支持する傾向が強いのに対して、民主党内には慎重な意見もある。それは、表現の自由を損ねるという理念的な側面に加えて、民主党の強い支持者となっている若者の民主党離れを促してしまう可能性があるからだ。

若者の投票率は2018年、2020年、2022年の選挙でそれぞれ上昇し、それが民主党の追い風となった。2022年の中間選挙では、民主党が上院で議席の過半数を維持し、また下院で予想外の健闘を見せた背景には、若い有権者の異例の投票率の高さがあったとみられている。

10代の3人に2人がTikTokユーザとされる中、それを禁止すれば、若者の民主党離れが促され、2024年の大統領選挙の逆風となる可能性もある。さらに民主党は、若者の支持を得るためにTikTokを選挙活動で積極的に使っており、既に選挙には不可欠なツールとなっているのである。

共和党のマルコ・ルビオ上院議員は、「多くの民主党候補者や現職が、TikTokのアカウントを持っている」、「民主党の選挙参謀は、TikTokが自分たちにとって政治的に有利だと考えた。そのため、彼らは中国に強硬姿勢を取っているようには見せたいが、このウェブサイトを取り締まることはしたくないと考えている」と発言している。

TikTokはデータ、コンテンツの管理で思い切った計画

バイデン大統領は、TikTokを運営する中国企業のバイトダンスに対して、中国人創業者らが保有するTikTokの株式を米国企業に売却することを求め、それが実施されない場合にはTikTokの米国内での使用を全面的に禁止する考えを示している。しかし、上記のような政治的な背景を踏まえると、それを実施することは簡単なことではないだろう。

中国政府が株式の売却に強硬に反対する中、TikTokは、株式売却ではなく、自身のアプリが「米国の安全保障上の脅威になる」との政府、議会の懸念をできるだけ和らげる措置を講じることで、米国内での使用禁止を免れようと奔走している。

TikTokは、米国事業を隔離して第三者に監視させる計画を既に公表している。この計画では、米国事業の大部分を米国子会社「TikTok米国データセキュリティ(USDS)」に移す。同部門はアプリの安全性確保と外部理事会への報告を任務とし、理事会メンバーはバイトダンスではなく、主に対米外国投資委員会への信認義務を負うという。

またこの子会社は、バイデン政権が承認した委員会(委員3人)の監督下に置かれる。さらに、コンテンツに関わるシステムはすべてソフトウエア大手のオラクル内に保管し、オラクルや第三者の監視役が、アプリ利用者にどの動画を勧めるか、あるいは削除するかを決定するシステムを監視することもできるようにするという。

ただし、こうしたTikTokのかなり思い切った事業再編計画によっても、政府や議会の懸念が緩和されるかどうかはなお不透明だ。問題解決の落ち着きどころはいまだ明確には見えていない。

日本でもTikTokを念頭に法整備の動き

米ホワイトハウスは3月27日に、連邦政府機関全体に対して30日以内にすべての公的なデバイスからTikTokを削除するよう命令を出した。他の西側諸国・地域でも同様の動きが見られる。欧州連合(EU)の欧州委員会は2月23日に、カナダは2月27日に、英国は3月16日に、ニュージーランドは3月17日に、それぞれ行政機関や議会の端末、ネットワーク内でTikTokを禁止する措置を打ち出している。

他方、約1,500万人のTikTokのアクティブユーザーを抱える日本では、政府や地方自治体、企業が積極的にTikTokを活用し続けている。日本政府が制限しているのは、現状では機密情報を扱う機器に留まっている。

しかしそうした日本でも、TikTokを念頭に、欧米に続いてSNSのデータの不正利用や偽情報の発信などを防ぐ法整備を検討する動きを、自民党のルール形成戦略議員連盟が見せ始めている。行政機関が疑いのある事業者に立ち入り検査し、実態を正確に把握したうえで、行政による適切な措置がとれるようにすることが検討されている。

ただし、TikTokの利用者は増えており、政府機関や企業の広報活動にも広く使われ始めている。特に若者向けの情報発信手段としての利用が増えているのである。こうした中、利用を過度に規制すれば、経済活動にもマイナスの影響が生じかねないだろう。

まずは、行政機関による立ち入り検査で、疑いのある事業者の実態を把握できるような法整備を進めることから始めるべきだろう。

(参考資料)
"Biden's TikTok Dilemma: A Ban Could Hurt Democrats More Than Republicans(TikTok禁止、バイデン氏にはもろ刃の剣)", Wall Street Journal, March 15, 2023
"TikTok Tries to Win Allies in the U.S. With More Transparency(TikTok、生き残りへ提案 米政府に監視権限も)", Wall Street Journal, January 17, 2023
"TikTok's Transparency Campaign Echoes Effort by Huawei to Ease Security Concerns(TikTokの米政府対策、ファーウェイの戦略そっくり)", Wall Street Journal, February 3, 2023
「各国が続々TikTok禁止令、日本はどうする?―仏メディア」、2023年4月1日、Record China
「SNS情報のルール整備へ 自民、TikTok念頭 流用や工作防止、事業者立ち入り検査も検討」、2023年4月5日、日本経済新聞

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

新着コンテンツ