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植田日銀がフォワード・ガイダンスを見直す可能性

2023/04/27

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4つのフォワード・ガイダンス

植田総裁にとって初回となる4月27・28日の金融政策決定会合では、日本銀行は政策変更を見送る、との見方が金融市場の大勢となっている。 他方で、先行きの金融政策の方針を示すフォワード・ガイダンスについては、修正を予想する向きは少なくない。ただし、フォワード・ガイダンスの修正があるとしても、それは技術的な性格のものであり、日本銀行の政策姿勢の変更を意味するものではないだろう。

金融政策決定会合の終了後に発表される対外公表文の最後に、フォワード・ガイダンスに相当する記述がある。現在、その記述は以下の4つのパートからなる。
① 日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を継続する。
② マネタリーベースについては、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する。
③ 当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、企業等の資金繰り支援と金融市場の安定維持に努めるとともに、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる。
④ 政策金利については、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している。

「オーバーシュート型コミットメント」は国債残高削減開始まで維持される

このうち①は、2%の物価目標の達成を目指す日本銀行の政策方針の全体を示すものだ。2%の物価目標が達成と判断されるまで、この記述は修正されないだろう。おそらく、2%の物価目標を中長期の目標などに柔軟化したうえで、マイナス金利政策解除など「金融緩和の枠組み見直し」が実施される段階となっても、この記述は維持されるのではないか。

②は、資産買い入れ策に関わる政策方針を示すものであり、「オーバーシュート型コミットメント」と呼ばれるものだ。日本銀行が、長期国債の保有残高を縮小させる「量的引き締め」を開始する時点まで、「オーバーシュート型コミットメント」は維持される。

ちなみに、日本銀行による長期国債の買い入れは、民間銀行が保有する長期国債を日銀当座預金という資産に置き換える形(リバランス)で進められてきた。日本銀行が民間銀行から国債を買い入れれば、その代金は民間銀行が日本銀行に保有する日銀当座預金に入金されるからだ。

両者はともに同程度の低金利であり、いわば等価交換がなされてきた。そのため、日本銀行が長期国債買い入れを進めても金利は下がらず、政策効果は発揮されなかった。将来、日本銀行が国債買い入れを削減すれば、民間銀行が保有する日銀当座預金が減少し、その分、国債保有額が増えていく。これも等価交換であるため、日本銀行が「量的引き締め」を進める中でも、金利が顕著に上昇し、経済や財政に大きな悪影響を与えることはないと考えられる(コラム「植田日銀の金融政策修正と財政ファイナンス」、2023年4月26日)。

新型コロナウイルス問題に関わるフォワード・ガイダンスは修正、削除されても技術的なもの

問題は③である。ここでは、新型コロナウイルス問題への対応とその一環としての追加金融緩和の可能性を示唆している。この記述は、2020年に新型コロナウイルス問題が発生し、米連邦準備制度理事会(FRB)が政策金利を一気にゼロまで引き下げる中、追加緩和の余地がなかった、あるいは追加緩和実施による副作用を警戒した日本銀行が、追加緩和を実施する代わりに示した苦肉の策のような方針である。

5月8日に、新型コロナウイルス感染症を季節性インフルエンザと同等の5類に引き下げることを、4月27日に政府が正式決定したことを受け、日本銀行はこの③を今回の会合で削除する可能性は十分に考えられる。その場合、追加緩和の記述が削除されることになるが、それはあくまでも新型コロナウイルス問題への対応としての追加緩和であり、政策方針全体の修正とはならない。

最後の④は金利政策が緩和バイアスを持っていることを説明している記述である。その中で「、または、それを下回る水準」を削除すれば、金利政策の方針は緩和バイアスから中立に修正されることになる。

ただし、現状でそれを実施すれば、金融市場は長短金利引き上げの可能性を強く意識し、金融市場の動揺につながるだろう。④の修正は、日本銀行が長短金利政策を修正する方針を固めたタイミングで行われるのではないか。

フォワード・ガイダンスが修正されても、③に留まるのであれば、それは技術的な調整であり、先行きの金融政策に対する金融市場の見方に影響を与えないだろう。

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