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金融リスクへの対応が最大のテーマとなったG7財務相中央銀行総裁会議

2023/05/15

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金融安定へ適切な行動を取る用意

新潟で行われていたG7(主要7か国)財務相・中央銀行総裁会議が、5月13日に閉幕した。

米国の銀行破綻などで金融不安が広がっていることを踏まえ、閉幕後に発表された共同声明には、「金融システムは強靱だと再確認した」と明記された。金融市場に不要な不安を与えないという観点から、このような表現が使われるのは通例のことだ。そのうえで、金融安定へ「適切な行動を取る用意がある」と明記された。

会議では、SNSを通じて信用不安が一気に広がり、またインターネットバンキング、アプリを通じて預金が急速に流出した米銀の破綻を教訓にして、新たな環境のもとでの金融システム強化に向けた議論が急務、との声が続出したという。

鈴木財務大臣は記者会見で、今後は金融安定理事会(FSB)の場で、金融規制・監督の強化を議論する考えを明らかにした。

それ以外では、グローバルサウスと呼ばれる新興・途上国を支援し、再生可能エネルギー関連製品の供給網の強化も目指す。ロシア制裁については、具体的な制裁強化策の実施は見送られた。議論は制裁逃れの迂回貿易への対応に集中したという。

金融リスクへの対応にテーマが移った

過去1年間は、ウクライナ問題を受けた対ロシア制裁、物価高騰への対応、米国の利上げによるドル高進行等が、同会議で先進国共通の最大の課題であった。しかし今回は、今年3月以降欧米で生じている銀行不安、米国の債務上限問題など、世界の金融市場を揺るがしかねない事態が生じたことで、金融リスクへの対応へと大きくテーマが移った。

米国の債務上限問題、米国債のデフォルト(債務不履行)リスクは、米国内での政治問題であり、その解決に向けた議論はG7の場になじまない。しかし、この問題によって世界の金融市場が大きく動揺すれば、それは各国共通の問題となる。そのため、世界の金融市場が動揺する場合の対応について、G7で議論されたのではないか。金融緩和もその選択肢にはなるが、金利政策については各国の置かれた状況に差がある。例えば、日本では金利引き下げの余地はない。そのため、必要に応じて各国中央銀行間でのスワップ協定に基づいたドル融通を強化することで合意された可能性が考えられる。

米銀破綻が浮き彫りにした金融規制・監督上の弱点

銀行破綻も米国が対応すべき課題ではあるが、その過程で顕現化した諸問題は、先進国に共通するものだ。つまり、他国も対岸の火事では済まされないのであり、バーゼルⅢに代表される国際金融規制を見直す必要に迫られている。

米銀破綻は、流動性カバレッジ比率(LCR)など既存の流動性規制の強化の必要性、国債の含み益を規制上の自己資本により反映させる必要性、預金保険のカバーの在り方など、深刻な課題を世界に突き付けたと言えるだろう。

さらに、インターネットバンキングやアプリで急速に預金が取り崩されるデジタル・バンクラン(取り付け騒ぎ)への対応、特に預金は営業時間外の週末にも流出する一方、週末には中央銀行が流動性を供給することで銀行を救済できないという深刻なリスクへの対応もある。

加えて、リスクが高まるノンバンク(非銀行金融仲介機関)の規制・監督強化の必要性など、まさに課題は累積している状況だ。この先、先進国を中心に、バーゼルⅢを大幅に見直す新たな規制強化策の議論が進められるだろう。今回のG7は「金融システムは強靱だと再確認した」が、米銀破綻は、既に世界の金融規制の議論には大きな影響力を与えているである。

対中国戦略、グローバルサウスへの対応の議論はG7サミットに引き継がれる

今回のG7では、グローバルサウスを意識した半導体など先端産業や気候変動関連のサプライチェーンの構築も議論された。これについては、米国が中国封じ込めを意識して議論を主導している側面が強い。

ただし、今回のG7では、経済面での中国への対応では、各国間の温度差も表面化したのではないか。米国は中国との経済関係を大きく見直す、いわゆるデカップリングを志向している。他方、日本や欧州諸国は、経済安全保障政策の一環として、特定の重要な製品を中国に過度に依存する体制を見直すことは進めているが、中国との経済関係を全面的に見直すことには慎重だ。それは経済的なダメージが非常に大きいからだ。

中国を意識した経済安全保障政策について、米国とその他の先進国との意見の相違を調整していくことも、G7サミットで議長国日本に求められる大きな役割となるだろう(コラム「中露への対抗とグローバルサウス取り込みを意識するG7財務相・中央銀行総裁会議」、2023年5月2日)。

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