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格付会社フィッチが米国国債格下げの可能性を示唆

2023/05/25

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メモリアルデーの議会休会で残された時間は無くなりつつある

米国時間5月24日も、政府債務上限を巡るバイデン政権と下院共和党との協議は続けられた。協議は約4時間行われたが、両者が債務上限引き上げで合意することはなかった。

マッカーシー下院議長は「適切なタイミングで再び会うことになるだろう」と語ったが、5月29日のメモリアルデー(戦没者追悼記念日)前に、議会は休会に入ってしまう。例年であれば議会はメモリアルデーを挟んで1週間の休会となる。25日には下院議員らはワシントンを離れる見通しだが、そのまま1週間の休会となれば、6月1日までに議会で債務上限引き上げを決めることはできなくなる。25日に合意に達しない場合には、議会の休会期間が短縮される可能性もあるだろう。

しかし、いずれにしても、6月1日までにバイデン政権と下院共和党が債務上限引き上げで合意し、法案が議会で可決され、大統領が署名するまでの時間的余裕はかなり限られてきた(コラム「米国債務上限問題・デフォルト懸念:「Xデー」は6月何日か?」、2023年5月25日)。

フィッチが米国債格下げの可能性を示唆

そうした中、格付会社フィッチ・レーティングスは24日、米国債の信用格付けを現状の最高位「AAA」から、格下げ方向で見直す可能性がある「ネガティブ・ウオッチ」に指定した。債務上限を巡り政治的対立が続いており、いわゆる「瀬戸際政策」がとられていることをその理由に挙げている。

フィッチは「Xデーまでに、債務上限を引き上げる、あるいは一時停止するための合意が成立しなかった場合、義務を適時に履行する上での米国のより広範なガバナンスと意思に対するネガティブなシグナルとなるだろう。これは「AAA」格付けと整合するとは思えない」と述べ、格下げの可能性があることを示唆した。一方で、実際にデフォルトに陥る可能性は低い、との見方も示している。

さらにフィッチは、いわゆる奇手によってデフォルトが回避される場合でも、格下げが実施される可能性があることを示唆している。具体的には額面1兆ドルの政府硬貨発行や憲法修正第14条の解釈によってデフォルトを回避することは、「AAA」格付けに整合するとは思えない、と説明しているのである。

6月1日までに債務上限の引き上げあるいは債務上限法の適用停止が決まり、デフォルトが回避されれば、フィッチは米国債の格付けを最高位のAAAに維持するだろう。しかし、6月に入り財務省が一部の歳出を先送りする形で辛うじてデフォルトを回避する、あるいは政府が、「政府債務は問われない」とする憲法修正第14条の解釈を根拠に政府債務上限法を違憲として国債発行に踏み切る場合には、フィッチは米国債の格付けを引き下げる可能性があるだろう。

金融市場の記憶に残る2011年の米国債格下げの衝撃

2011年には、今回と同様に大きな政治的混乱の末、「Xデー」の数日前に債務上限は引き上げられ、デフォルトは回避されたが、その数日後に大手格付会社S&P社は、米国債の格付けを最高位のAAAから引き下げた。その結果、デフォルトは回避されたにも関わらず大幅な株安やドル安が引き起こされたのである。

金融市場にはこの時の記憶が強く残っていることから、デフォルトが回避されるかどうかだけでなく、その過程で混迷が強まり、あるいは異例の策によって辛うじてデフォルトが回避される場合には、再び大手格付会社による格下げが実施されることを強く警戒している。デフォルトが回避されても、しばらくの間は金融市場は警戒を緩めることはないだろう。

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