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デフォルト回避後の米国債発行急増:事実上の金融引き締め効果

2023/06/05

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米国債発行急増で金利上昇

バイデン米大統領は6月3日、米政府の債務上限法の適用を2025年1月まで停止する「財政責任法」に署名した。これにより、米国債が史上初めてデフォルト(債務不履行)に陥る事態は回避された。

これは金融市場に大きな安堵感をもたらしているが、他方で新たな懸念も生じさせている。それは、米国政府による国債発行急増の影響だ。

6月1日時点で米財務省が保有する現金残高は、228.9億ドルとなった。昨年9月時点での現金残高が6,630億ドルと考えられることから、この水準まで現金残高を復元する正常化には、短期国債(T-Bill)を中心に政府債務を6,400億ドル程度増加させる必要がある。

6月には合計で1兆3,600ドルのT-Billと長期国債の償還、利払いが予定されている(コラム「米国債務上限問題・デフォルト懸念:「Xデー」は6月何日か?」、2023年5月25日)。米国財務省が、仮に1か月間で保有現金残高の正常化を図る場合には、6月の国債発行額(グロス)は、両者の合計で丁度2兆ドルに達する計算となる。

短期間でのT-Billの発行急増は、短期金利に上昇圧力をかけるだろう。あるいは、デフォルトリスクを織り込んで上昇していた1か月など短めの短期金利の低下を妨げる要因となる。これによって生じるドル高圧力は、円安ドル高傾向から日本株には追い風になる可能性がある一方、米国の金融資産の価格には幅広く逆風となる。

金融引き締めを代替する効果が生じる

さらに、T-Billの発行増加分を銀行が購入する場合には、資金が米連邦準備制度理事会(FRB)の中銀当座預金から政府預金に移り、その分、民間銀行の中銀当座預金が減少することになる。

現在FRBは、銀行から買い取った国債などの証券の保有残高を減らす、量的引き締め(QT)を実施している。T-Billの発行増加分を銀行が購入することで中銀当座預金が減少する場合には、FRBの負債である中銀当座預金に注目すれば、それはQTと同等の効果が生じることになる。つまり金融引き締め効果が生じるのである。

他方で、T-Billの購入者としてMMFも期待されている。MMFが、発行が増加したT-Billの購入する場合には、中銀当座預金が減少することはなく、QTの効果は生じないことになる。誰がT-Billの主な購入者となるかによって金融引き締め効果や金融市場への影響に差が出てくるのである。

FRBが金融政策を決定する際にも、デフォルト回避後のT-Billの発行増加は、重要な要因となるだろう。仮にデフォルトが生じていれば、金融緩和の実施を余儀なくされる可能性もあった。他方、デフォルトが回避されたことで、経済・物価動向を睨んだ金融政策を行うことができるようになり、その分自由度が高まったとも言えるだろう。

しかし、T-Billの発行増加や中銀当座預金の減少によって生じる、市中金利上昇や金融市場の動揺には、FRBも注意を払わなければならなくなる。またいずれも、金融引き締め策を代替する効果を生むことになる。この点も、6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、FRBが追加利上げを見合わせる可能性を高めることに働くだろう(コラム「米国デフォルト回避と5月分雇用統計:6月のFRB利上げは見送りか」、2023年6月5日)。

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