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物価上昇率の低下傾向を兆す6月東京都消費者物価:日銀はいつ2%の物価目標の早期達成を諦めるか

2023/06/30

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食料品値上げの動きが鈍り始めたか

総務省が6月30日に発表した6月東京都区部消費者物価指数(CPI)は、事前予想と比べてかなり下振れた。コアCPI(除く生鮮食品)は前年同月比+3.2%と前月の同+3.1%を上回ったものの、事前予想の同+3.4%程度を大きく下回った。また、より基調的な物価動向を示すコアコアCPI(除く生鮮食品及びエネルギー)は、2か月連続で季節調整済前月比+0.2%と比較的低位に留まった。

さらに、コアコアCPIの前年同月比は+3.8%と、前月の同+3.9%から低下している。同指数の前年同月比上昇率が低下したのは、実に2022年1月以来1年5か月ぶりのことである。これは、基調的な物価上昇率にようやくピーク感が見られ始めたことを示唆していよう。

基調的な物価上昇率にピーク感が出始めたのは、食料品(除く生鮮食品)価格引き上げの動きがやや鈍り始めたことが理由だ。同価格は6月に前年同月比+8.9%と高水準ながらも、前月と同じ水準に留まったのである。原材料価格の上昇分を食料品価格に転嫁する動きはなお続いているものの、その勢いはやや落ち始めた可能性がある。

CPIは当面、電気料金改定の動きで振れる

政府の物価高対策によって、2月の電気料金は全国コアCPIベースで前月比0.8%程度低下した。7月分の全国コアCPIの前年比上昇率は再び高まることが避けられない。それは、電力大手7社が電気料金を引き上げるためだ。それによって、CPI全体は前月比+0.42%、コアCPIは前月比+0.44%押し上げられる計算だ。

ただし、8月分では、燃料費調整制度のもとで再び電気料金引き下げが行われる。それは8月のコアCPIを0.1%程度押し下げることが予想される。さらに、9月には政府が1月に導入した物価高対策での電気料金への補助金が半減される見込みだ。それは10月の全国コアCPIを0.4%程度押し上げることが予想される。

このように今後の全国コアCPIは、電気料金に関わる政府の政策変更や電力会社の料金改定によって大きく振れる展開となる。そうした中でも、コアCPIの前年比上昇率は低下傾向を辿っていくことになるだろう。

最大の不確定要因は為替動向だ。円安が一段と進む場合には、コアCPIの前年比上昇率の低下はより先送りされることになる。10%の円安進行には、物価(個人消費デフレータ)を1年間で0.15%程度押し上げる効果がある(内閣府、短期日本経済マクロ計量モデル(2022年版)による)、(コラム「まだ見えない歴史的物価高騰の終りと日本銀行の2つの道(4月CPI)」、5月19日)。

日本銀行が予想するコアCPI2%割れは2024年半ばまで後ずれか

6月東京都区部CPIを反映させて、全国コアCPIの筆者の予測値を改定した。為替は1ドル145円で先行き横ばいの前提だ。

日本銀行は、原油など商品市況の上昇の影響が剥落することなどから、今年度半ばにかけてコアCPIの前年比上昇率は顕著に低下し、+2%を割り込むと予想している。しかし筆者の見通しでは、+2%を割り込む時期はさらに後ずれし、2024年半ばである(図表)。植田総裁も、物価上昇率の低下が後ずれしていることを認めている。

他方で日本銀行は、コストプッシュによる一時的な物価上昇率の上振れが一巡した後、賃金上昇を伴うより持続的な形でコアCPIが再度上昇率を高めていくと予想している。そこで2%の物価目標の達成が見通せるようになれば、政策の修正を行うことになる。ただしこの見通しについても、植田総裁は自信が持てないと正直に語っている。

図表 全国コアCPIの予測

来年の春闘後に日本銀行は2%の物価目標の早期達成が難しいことを宣言か

実際には、コアCPIの前年比上昇率が今年度半ばにかけて急速に低下した後に急速に反転するといった、ダイナミックな動きとはならないのではないか。筆者は電気料金改定の振れを伴いながらも、コアCPIの前年比上昇率は緩やかに低下傾向を辿り、2024年半ばに2%割れ、2024年年末頃に1%割れとなった後、次第に0%に接近していくと予想する。

コアCPIの上昇率が低下傾向を辿る一方、来年の春闘でベアが今年の2%超を明確に下回ることが確認されれば、来年4月に発表する展望レポートで、日本銀行は先行きの物価上昇率見通しを下方修正し、また新たに公表する2026年度の物価見通しを2%を大きく下回る水準に設定したうえで、「2%の物価目標を早期に達成することは見通せない」と宣言すると予想する。

そのことは、金融緩和が長期化することを意味するが、その長期戦に備え、副作用を軽減するための見直しに着手するきっかとなるとみておきたい。

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