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政府の物価高対策の影響を強く受ける今後の物価動向(8月東京都区部CPI)

2023/08/25

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東京都区部8月コアCPI(除く生鮮食品)は昨年9月以来となる+2%台

総務省が25日に発表した8月分東京都区部消費者物価統計で、コアCPI(除く生鮮食品)は前年同月比+2.8%と7月の同+3.0%から低下した。事前予想の同+2.9%を下回った。上昇率が+3%を下回るのは昨年9月以来、11か月ぶりのことだ。

8月は電気代、都市ガス代の値下げが、コアCPIの前年比上昇率を0.29%ポイント押し下げた。他方、生鮮食品を除く食料の前年同月比は+8.9%と7月の同+9.0%を下回った。食料品価格の値上げの動きはなお続いているものの、その勢いは次第に鈍ってきている。

ただしより基調的な物価動向を示す食料(酒類を除く)及びエネルギーを除くCPIは、前年同月比で+2.6%と前月の同+2.5%から上昇しており、なおピークアウトは確認できていない。

前年同月比を個別品目で見ると、いかの+60.5%、プリンの+38.6%、鶏卵の+31.9%、あんパンの+16.7%など、一部食料品の価格の上昇が引き続き目立つ。他方、キャットフードの+41.3%、旅行の回復を反映した宿泊料の+18.1%などの上昇も続いている。

この先の物価は政府の物価高対策に大きく左右される

この先の物価は、引き続き政府の物価高対策に大きく左右される情勢だ。政府は昨年1月に導入したガソリン補助金について、9月の廃止を睨んで6月から段階的な削減を開始しており、その結果ガソリン価格は上昇を続けている。

原油価格(WTI)が1バレル81ドル、ドル円レートが1ドル145円でこの先推移する場合、8月末に全国平均のガソリン小売価格は平均で196円程度まで上昇し、補助金が撤廃される9月末には199円程度となる計算だ。この場合、消費者物価は合計で0.34%押し上げられる。

また、この先、原油価格が85ドル/バレル程度まで上昇し、またドル円レートが150円まで円安が進む場合には、9月末のガソリン価格は212円程度にまで達し、消費者物価を0.48%押し上げる計算となる。

しかしながら政府は、ガソリン補助金を延長する方向で既に調整に入っている。補助金延長により、ガソリン価格を再び170円程度で維持する施策が講じられる場合、補助金撤廃の場合と比較して消費者物価は0.27%低下する計算だ。

他方、1月に導入した電気代、ガス代の補助金制度も延長される場合、予定通りに9月に終了する場合と比べ、消費者物価は0.99%低下する。

両者を合計すれば、消費者物価への影響は-1.26%とかなり大きくなる。ただし、補助金制度の延長には多くの問題点がある点は改めて指摘しておきたい(コラム「政府はガソリン補助金延長と経済対策の2段階実施へ:ガソリン補助金延長で物価は0.27%低下、実質個人消費は0.13%上昇」、2023年8月23日)。

物価が安定的に2%を下回るのは2025年までずれ込む可能性

消費者物価上昇率は今後も低下傾向を辿る可能性が高い。他方、日本銀行の物価目標である+2%程度で安定する可能性は低く、2025年から2026年にかけて物価高騰前の0%近傍まで低下していくと予想する(図表)。

先行きの物価動向は、政府の物価高対策によって左右されるが、政府が今年9月末に期限を迎えるガソリン及び電気代・ガス代の補助金を延長し、2024年4月、2024年10月に2段階でそれらの補助金を削減するという前提のもとで物価見通しを改定した。

改定見通しでは、コアCPI(除く生鮮食品)の上昇率は、2023年度+2.6%、2024年度+1.9%、2025年度+0.9%となった。来年年初には物価上昇率は一時的に前年比+2%を割り込み、それが春闘での賃金上昇率を抑えることになると予想する。しかし、物価上昇率が安定的に+2%を下回るのは、2025年までずれ込む可能性があるだろう。また、実質賃金が安定的に上昇を始めるのは、2026年までずれ込む可能性がある。

日本銀行が、緩和的な金融政策を続け、中長期の物価安定にコミットしてこなかった結果、個人の長期のインフレ期待が大きく上振れてしまった、このことが、この先の物価上昇率の低下を緩やかなものにすると見る(コラム「物価上昇率は緩やかに低下もガソリン価格上昇は懸念材料(7月全国CPI)」、2023年8月18日)。経済の実勢以上に上振れる個人の長期インフレ期待は、賃金上昇への過大な期待とその失望を生じさせるなど、経済の安定に妨げとなる。

図表 コアCPI(除く生鮮食品)の見通し

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