内閣改造は派閥バランス重視で骨格維持:保守派重用で財政健全化、金融政策正常化の制約に
刷新感が演出されるも骨格は維持
本日正式に発表される内閣改造、自民党役員人事が固まった。閣僚19人のうち女性の登用は5人と過去最多に並び、また初入閣が11人と多くなった。この点においては、刷新感が演出された人事になったと言える。岸田首相は東証プライム上場企業の女性役員の比率を2030年までに30%以上とする目標を掲げるなど、民間に女性登用を呼びかけており、政権内でも女性登用を推進することが求められていた。
しかし、主要ポストで6人が留任となり、また派閥のバランスに配慮した登用となったことで、現在の内閣の骨格は維持されたと言える。
岸田派が党内第4位であるなか、岸田首相は脆弱な政権基盤を派閥バランスに配慮した布陣で補い、安定した政策遂行を狙う。また、党内の支持を得て来年秋の総裁選での再選を目指すための布陣、という狙いも考えられる。
今回の内閣改造では、衆院当選5回以上、参院当選3回以上の閣僚未経験者、いわゆる「待機組」の登用を大幅に増やした。こうした人事は刷新感を演出し、国民にアピールできる一方、リスクもある。前回2022年8月の内閣改造では、初入閣9人のうち8人が待機組だったが、失言などで3人が辞任に追い込まれた。初入閣者は国会での答弁が不安定である可能性があり、また、スキャンダルなどのリスクを事前にチェックする「身体検査」が不十分となりやすい。
経済政策は維持か
骨格が維持された新体制の下で、岸田政権の経済政策には大きな変化は生じないだろう(コラム「内閣改造では派閥のバランス重視で安全運転の布陣が継続か:財政・金融政策は現状維持」、2023年9月11日)。経済政策に強く関わる閣僚ポストでは、財務大臣、経済産業大臣、国土交通大臣、経済安全保障大臣、デジタル担当大臣、官房長官が留任となった。
ただし、岸田首相の最側近である木原誠二内閣官房副長官が、週刊誌報道の影響で今回外れたことの影響が出てくるかどうかは、注目の一つである。
岸田首相が政権発足当初の左派色の強い経済政策から、新NISA制度につながった資産所得倍増計画、構造的賃上げを目指すリスキリングを含む三位一体の労働市場改革などが成長重視の経済政策に軸足を移す際に大きな役割を果たしたのがブレーンの木原氏であったと考えられる。
そして、保守色が強い安倍派が重用されたことも、この先の岸田政権の経済政策に影響するだろう。参院枠を除けば、安倍派の閣僚は4名と最多である。
国債発行増加が経済の潜在力を低下させる可能性
自民党内最大派閥の安倍派を中心に、保守派重視の内閣改造、党役員人事が維持された結果、経済政策では財政拡張の圧力は今後も続くだろう。岸田政権は、防衛費増額や少子化対策の財源として増税、社会保険料引き上げを模索しているが、そうした動きは保守派に阻まれており、最終的にはなし崩し的に国債増発によって財源が確保されていく可能性がある。
それは、将来世代の負担となり、その結果、将来の民間需要見通しの低下が企業の投資、雇用を慎重にし、経済の潜在力を低下させてしまう恐れがある。それは、岸田政権が目指す成長重視の経済政策には、逆風となってしまう。
また、足もとで日本銀行の政策金利引き上げ観測が強まる中、財政環境の悪化懸念には、長期金利の上昇など金融市場を不安定化させるリスクも残る。
保守派が日本銀行の政策修正を一定程度制約する構図も続く
さらに、保守派重視の内閣改造、党役員人事が維持されることは、日本銀行の金融政策の正常化には一定程度の制約となるだろう。
以前より、保守派からは、日本銀行の緩和姿勢や2%の物価目標を堅持することを強く求める声が出されている。政権運営には保守派の協力が必要であることから、岸田政権もそうした保守派の意見を無視できず、またそうした政治的圧力から日本銀行を守ることもできないのが現状と考えられる。
植田総裁のインタビュー記事をきっかけに、足もとでは早期利上げ観測が浮上し、長期金利が上昇した。これには、円安をけん制する狙いもあるとされているが、安倍派の世耕参院幹事長は、「(利上げの前提となる)本当の意味で2%の物価目標に届いていない点で日銀と見解の相違はない」、「為替政策に金利を使うのは禁じ手」と政策修正観測が出ている日本銀行の動きを強くけん制している。
今回、保守派を重用する形での内閣改造、党役員人事となったことで、日本銀行は、金融緩和維持を求める政治的圧力に引き続き晒されることになる。それでもいずれは政策の修正を行うだろうが、それまでにより時間がかかることになるのではないか。金融市場では来年年初にもマイナス金利解除を予想する向きが増えているが、政治的圧力も考慮すれば、実際にはもっと後ずれする可能性が高いと見ておきたい。
こうした点から、今回の人事は、現状の金融・財政政策が維持されるとの金融市場の見方を強める材料となりやすい。その結果、短期的には円安、株高、債券安の反応を生じさせやすいだろう。
しかし、金融政策修正の遅れが、金融市場の動揺などの副作用が先行き顕在化するリスクを高めること、国債発行増加が経済の潜在力低下につながるリスクがある点を考えれば、より長い目で見れば今回の人事は株式市場に逆風となり、金融市場の安定性を損ねることになる可能性も考えられるところだ。
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