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岸田首相が経済対策の方針を表明へ

2023/09/25

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物価高対策は弱者救済策に抜本的な見直しを

岸田首相は25日、経済対策の柱を表明する方向だ。これを受けて、26日には閣僚に策定を支持する。今回の経済対策は多様な内容を含むが、その中核は物価高対策となる。日本経済新聞社が13~14日に実施した緊急世論調査によると、首相に優先してほしい課題のトップは「物価対策」となり、その回答比率は42%にも達していた。

先般の内閣改造は政権の支持率向上につながらなかったことから、この経済対策を政権浮揚につなげ、それを機に、岸田首相は秋にも解散・総選挙を検討する可能性が考えられる。毎回のことではあるが、経済対策は政治的な戦略を強く帯びており、その中で国民に最もアピールできるのが物価高対策だ。それを実現するために政府は、10月に臨時国会を召集し、相当規模の補正予算を編成する可能性が高い。

政府は、9月末に期限を迎えたガソリン補助金、電気・ガス代補助金の年末までの期間延長を既に決めている。補正予算で財源を確保したうえで、さらなる延長を検討しているのである。

ただし、物価高対策の補助金制度は、これで出口が見えなくなってしまった感がある。そのもとで、財政負担は膨らみ続ける。政府は新たに低所得者支援を検討するとしているが、物価高対策の補助金制度自体を大きく見直し、ガソリン購入者あるいは家計に対する一律の補助金ではなく、低所得者、零細事業者に絞った弱者救済的な補助金制度あるいは給付制度を抜本的に見直すべきだ。その方が、費用対効果は格段に高まるのではないか。

様々な施策を加えることで「バラマキ」との批判をかわす狙いも

自民党の一部からは、経済対策に「少なくとも15兆円、できれば20兆円ぐらいは必要になる」との声も出てきている。これは明らかに、「規模ありき」の考え方である。

しかし、4-6月期に需給ギャップがプラスに転じる中、経済対策で景気を刺激する必要性は乏しい(コラム「需給ギャップのプラス化と満たされたデフレ脱却4条件:政府はデフレ脱却宣言に慎重、日銀金融政策には影響せず」、2023年9月6日)。

従来、マイナスの需給ギャップを穴埋めするために、同額程度の経済対策を実施すべきとの議論が与党内からしばしば聞かれてきたが、現在、需給ギャップがプラスであるなかで、相当規模の経済対策が必要と考える理由は明確に説明されるべきだ。

そうした中、野党内からは、経済対策は「選挙対策のバラマキ」との批判が出ている。その批判をかわす狙いから、様々な経済施策を物価高対策に加えて、今回の経済対策案が作られた印象がある。

国民にアピールするには、規模を大きくすることが有効との考え方がある中、物価高対策以外も多くの施策を盛り込めば、規模が大きくなっても「バラマキ」ではないと主張することができるからだ。

緊急性の乏しい補正予算編成が常態化していることの問題

読売新聞が報じた骨子案では、「『物価高が国民生活に大きな影響』を与え、『消費の下押し』」を招いているとの危機感を示したうえで、構造的な賃上げと投資の拡大の流れを「より力強いものとし、『成長と分配の好循環』の実現を加速する」と強調されている。

具体的には、▽物価高対策と経済の足場固め▽構造的賃上げと投資拡大の流れの強化▽人口減少を乗り越えるための社会変革▽国民の安全・安心の確保――の4本柱が掲げられる。

これらには、日本経済の潜在力向上に資する重要な施策も含まれるが、それらを補正予算で実施する必要性、緊急性に乏しいものも少なくない。本来補正予算による財政支出は、本予算編成時に想定できなかった環境の変化に対応するための緊急措置である。他方で、補正予算は本予算ほどには国会、国民のチェック機能が働かないという問題もある。毎回のことではあるが、補正予算での経済対策が常態化しているのは大いに問題である。さらに、それが国債発行で賄われ、財政環境を一段と悪化させ、経済の潜在力を損ねることになっている。

リスキリング支援などを通じた構造的賃上げ策は重要だが。。。

対策には、労働者のリスキリング(学び直し)支援などを通じて構造的賃上げを促す施策が含まれる。それを補正予算のタイミングで実施することの妥当性の問題はあるが、労働市場改革を通じて生産性上昇率を高め、それを反映して賃金が上昇する環境を整えることは重要なことだ。仮にこのタイミングで実施するのであれば、実効性の高い施策となるようにして欲しい。

さらに、生産性向上などに力を入れる企業向けの補助金に関し、継続的な賃上げを支給要件にすること、スタートアップ(新興企業)育成の支援も検討される。

脱炭素、デジタル化、経済安全保障の観点から重要となる物資の供給力の強化策も検討されている。半導体や蓄電池、バイオ関連などといった重要物資を対象にして、初期投資に限らず5~10年の単位で企業の生産コストの負担を軽減する税制が検討される。

人口減対策となる社会変革では、自治体業務の効率化を図る「デジタル行財政改革」を推進する考えが検討される。長時間労働の是正によってトラック運転手の不足が懸念される2024年問題に対応するために、運転手の待遇改善や規制改革などが検討される。

資産運用業への海外勢の参入促進策は過去の政策を十分に検証する必要

さらに、資産運用業への海外勢の参入促進策も検討される。岸田政権は、2022年に「資産所得倍増計画」を打ち出し、その一環として少額投資非課税制度(NISA)の拡充・恒久化などが実施された。今回はその延長上で、岸田首相は、「(資産)運用の高度化を進め、新規参入を促進する」とし、資産運用特区をはじめとした各種の規制改革を通じて、運用能力が高い海外人材の受け入れなどを積極化する考えを示した。

外国資産運用の参入促進を促す施策自体は悪くないが、「資産所得倍増計画」では、個人の資金を日本株に向かわせ、それを日本企業の成長に活用すること、さらに企業の成長が株価上昇や配当増加を通じて個人の所得を増加させて、個人消費を刺激し、日本企業の成長を助けるといった好循環が想定されていたと考えられる。まずは、こうした国内での好循環を一段と促す施策を優先させるべきではないか。

また、海外の資産運用業の参入が、果たして日本の資産運用全体の高度化につながるかどうかや、海外資産を含めた個人の資産運用の拡大につながるかどうかは明らかではない。

さらに、英語のみで行政対応を完結できる「資産運用特区」の創設などは、今までも議論されてきた東京あるいは日本の「国際金融センター構想」の焼き直しとも映る。ただし、同構想やそれを実現するための施策は、過去に何度も尻つぼみとなり、またとん挫してきた。そうした過去の失敗を十分に検証したうえで、より実効性の高い施策を示さないと、今回も掛け声だけに終わってしまうだろう。

いたずらに規模を追求せず重要施策に絞り込むことが重要

補正予算を伴う今回の経済対策は、過去にないほどに多様な内容を含むものとなりそうだ。そこには、大規模対策となることが「選挙対策のバラマキ」との批判を覆い隠す狙いも感じられる。補正予算を伴う経済対策は、本来、緊急性のあるものに限るべきだ。それ以外の施策は、しっかりと議論をしたうえで、来年の本予算や税制改正で実現していくのが本来の姿のはずである。また、大規模の経済対策の財源を確保できず、安易に国債発行で賄うことになることも大いに懸念されるところだ。

いたずらに規模の大きな経済対策に膨れ上がらせることを避け、緊急性がある政策にしっかりと絞り込み、政治色を排し、国民生活の安定に資する経済対策となるよう、しっかりと議論されていくことが強く望まれる。

(参考資料)
「半導体の国内生産支援、経済対策に盛る…電気ガス・ガソリンの負担軽減も「重点的に」、2023年9月25日、読売新聞オンライン
「重要物資、長期で税優遇 半導体・蓄電池の生産強化 政府経済対策」、2023年9月24日、日本経済新聞

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