フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 経済対策は真水で10~15兆円規模か:暫定経済効果推定でGDP1%強

経済対策は真水で10~15兆円規模か:暫定経済効果推定でGDP1%強

2023/10/24

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

経済対策の規模は減税、補助金を除き10数兆円規模か

政府が来週末を目途に取りまとめる総合経済対策の概要が、報道を通じて徐々に明らかとなってきた。テレビ東京が24日に報じたところによると、国費は岸田総理が与党に検討を指示した期限付き所得税減税などの税収増の還元策を除き、現時点での試算で10数兆円規模となる見通しだという。

昨年10月に閣議決定された前回の経済対策では、事業規模が71.6兆円、財政支出が39.0兆円だった。このうち財政支出は、国の歳出(国費)と地方の歳出、さらに財政投融資からなる。財政投融資は付加価値の押し上げに直接寄与する、いわゆる「真水」には含まれない。従って、財政支出のうち国と地方の歳出の合計を「真水」とみなすことができる。また、既に本予算に計上されている予備費を利用する部分は追加的な景気浮揚効果とはみなさずに、補正予算規模を「真水」とみなす考えもある。

ちなみに昨年10月に閣議決定された経済対策では、国・地方の歳出37.6兆円に対して、補正予算規模は29.6兆円と約79%となった。

所得減税4万円、非課税世帯給付7万円:総額2兆円でGDP押し上げ効果は+0.05%

他方、岸田首相が与党に検討を指示した期限付き所得税減税と非課税世帯への給付金を組み合わせた措置について、テレビ朝日は24日、所得減税4万円と非課税世帯への7万円の給付金が検討されていると報じている。

国税庁の「令和4年民間給与実態調査」によると、2022年の給与所得者数は5077.6万人であるが、そのうち非課税対象に概ね相当するとみなされる年間所得100万円以下が全体の7.8%である。そのため、課税対象者は4,679.1万人となる。この課税対象者に一人当たり4万円の減税が実施されると、その総額は1兆8716.4億円となる。

他方、厚生労働省が発表している「2022年国民生活基礎調査」によると、2021年の総世帯数は5191.4万である。このうち非課税対象に概ね相当するとみなされる年間所得100万円未満が全体の5.4%であり、その数は280.3万世帯となる。この非課税対象世帯に7万円の給付が実施されると、その総額は1962.1億円となる。

課税対象者への4万円の減税と非課税世帯への7万円の給付が実施される場合、その合計は、2兆678.5億円となる。それが1年間の実質GDPを押し上げる効果は、+0.05%程度とかなり限定的だ(コラム「岸田首相は期限付きの所得税減税を検討:5兆円でGDP押し上げ効果は+0.12%」、2023年10月20日)。

ガソリン、電気・ガス補助金を来年春まで延長:総額2.9兆円でGDP押し上げ効果は+0.07%

他方、ロイター通信等によると、総合経済対策の政府原案では、年末で期限が切れるガソリン補助金を来年4月まで延長し、同じく年末で期限が切れる電気・ガス料金の補助金についても来年4月末まで延長したうえ、5月には補助金を縮小するとしている。

ガソリン補助金は昨年1月から今年9月末までの予算総額が6兆2,000億円であったこと、電気・ガス代補助金は、今年1月から9月までの予算総額が約3兆1,000億円であったことを踏まえ、それぞれ来年年初から4月末及び5月末まで延長する際に計上される予算総額は、ガソリン補助金が4か月分で約1兆1,800億円、電気・ガス代補助金は5か月分で約1兆7,200億円、合計で約2兆9,000億円となる。 これを家計の一時的な所得増加による経済効果とみなす場合、実質GDPを1年間で+0.07%押し上げると試算される。所得減税及び給付金の効果と合計すれば、+0.12%となる。

経済対策は「真水」で総額15~20兆円規模か:GDP押し上げ効果は暫定計算で+1.2%

以上より、岸田政権が税収増の還元策と位置付ける、期限付き所得税減税及び給付金とガソリン、電気・ガス代補助金の総額は、概算で5.0兆円となる。

税収増の還元策を除く国の歳出規模が、報道されているように10数兆円規模であるなら、税収増の還元策を加えた経済対策の総額は、真水(財政支出のうち財政投融資を含まない部分とする)で15~20兆円規模と大まかに見積られる。

最後に、現時点で得られている情報に基づき、経済対策の経済効果を大胆に推定してみよう。経済効果の試算では、内閣府の計量モデル(短期日本経済マクロ計量モデル(2022年版))を参照した(コラム「岸田首相は期限付きの所得税減税を検討:5兆円でGDP押し上げ効果は+0.12%」、2023年10月20日)。

現時点では仮置きの前提が多いが、15~20兆円の中間となる総額17.5兆円規模の真水という想定の下、それが1年間の実質GDPを1.2%程度押し上げると想定した(図表)。

税収増の還元策及び物価高対策と位置づけられる所得減税と給付金、ガソリン及び電気ガス代補助金延長だけでは+0.12%程度の実質GDP押し上げ効果しか期待できないが、その他の企業向け施策、特に投資的支出に多くの予算が割かれれば、景気浮揚効果はこの計算結果よりも高まっていく。

ただし、実際にはこのような短期的な景気浮揚効果を狙うのではなく、経済効率、生産性を高め、先の成長期待を高めることを通じて企業の設備投資を誘発するような施策がより重要だ。そうした成長戦略により力点を置いた経済政策運営を期待したい(コラム、「岸田首相の所信表明演説:経済重視の姿勢を強くアピール」、2023年10月23日)。

図表 経済対策の概要と経済効果の想定

執筆者情報

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn