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日銀は次回会合でYCCの再柔軟化に踏み切るか

2023/10/25

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連日の10年国債利回り上昇でYCC再柔軟化観測が燻ぶる

日本銀行がイールドカーブ・コントロール(YCC)の枠組みで目標とする10年国債利回りは、24日に一時0.88%の水準まで上昇し、2013年以来の高水準を更新している。

これを受けて日本銀行は、臨時の国債買いオペを実施した。残存期間5年超10年以下、10年超25年以下を対象に、買い入れ額はそれぞれ3,000億円、1,000億円、合計4,000億円である。臨時オペは4日、18日に続いて10月に入って3回目となる。買い入れ額は、前回18日と同額だった。

さらに同日に日本銀行は、期間5年の共通担保オペを通知した。通知額は前回と同様に1兆円である。利回り上昇の抑制に向け、日本銀行の姿勢がより前傾化してきた。

10年国債利回りが連日高水準を更新する中、日本銀行が来週10月30・31日に開く金融政策決定会合で、7月に続いて日本銀行がYCCの追加の運用柔軟化措置に踏み切るとの観測が燻ぶっている。

YCCの枠組み維持と円安阻止との間で板挟み

10年国債利回りが事実上の上限である1.0%の水準まで上昇すれば、日本銀行は昨年と同様に国債の買い入れを急増させることを強いられる。それは日本銀行のバランスシートを肥大化させる、国債市場の歪みを拡大させる、財政ファイナンスの傾向を強めるなどの弊害を生じさせてしまう。

7月にYCCの運用柔軟化を実施した際に植田総裁は、それによって為替のボラティリティ低下も意図したことを明らかにしている。円安阻止の効果も狙ったのである。日本銀行は、このYCCの運用柔軟化によって、10年国債利回りの上昇余地を広げた。その上昇を容認することで、日米の長期利回り格差の拡大ペースを抑え、円安を食い止める効果を発揮することができるようになった。ところが、10年国債利回りの上昇余地ももはや狭まってきている。

YCCの枠組みを維持するために、日本銀行が臨時買いオペで国債をさらに買い入れることで、10年国債利回りの上昇をより抑え込むことは可能ではあるが、それを行えば、上記の国債買い入れの弊害に加えて、円安が進むという問題も起きる。

政府は1ドル150円を防衛ラインと考えていると推察されるが、日銀のオペをきっかけに円が1ドル150円を超えれば、為替安定を巡る政府との協調が崩れ、また、物価高圧力を強める悪い円安を引き起こしたとして、昨年の様に日本銀行は国民から批判を浴びる可能性もあるだろう。

日本銀行は、YCCの枠組み維持と円安阻止との2つの目的の間で板挟みとなり、身動きが取れなくなってきているのである。

このように考えると、事態が一段と悪化する前に、次回の金融政策決定会合で日本銀行が、YCCの事実上の上限である1.0%を引き上げる、あるいは変動幅を撤廃するなどの追加の柔軟化措置を実施する可能性は、強く否定できない状況とも言えるだろう。

長期国債利回りの上昇はYCCの再柔軟化観測の影響も

ところで、足もとでは、米国の10年国債利回りが5%に乗せた後にやや低下している。今までは、米国の長期国債利回りの上昇に引きずられて日本の長期国債利回りも上昇してきたが、足もとでは米国の長期国債利回りの上昇が一服するなかで、日本の長期国債利回りが上昇しているのである。これには、次回金融政策決定会合で日本銀行がYCCの再柔軟化に踏み切るとの観測が強く影響しているだろう。

期待インフレ率の変化などファンダメンタルズに裏付けされた長期国債利回りの変動は容認する一方、投機的な要因による変動は抑え込む、というのが日本銀行のYCCの運営方針である。日本銀行のYCCの再柔軟化観測に基づく長期国債利回り上昇は、投機的な動きと言える。そして、10月30日・31日の金融政策決定会合が過ぎれば、そうした観測は収まるのである。

今は踏ん張りどころか

また、日本の長期国債利回りの上昇を牽引してきた米国の長期国債利回りの上昇も、その持続性は不透明だ。米国の10年国債利回りが5%程度の水準にあることは、経済ファンダメンタルズに照らせばやや違和感もあるところだ(コラム「米国債メルトダウン:米国10年国債利回り5%に強い違和感」、2023年10月5日)。

夏場以降の長期国債利回り上昇は米国の住宅市場に悪影響が及んでおり、それが個人消費に波及すれば、米国景気の減速はより鮮明となって、それが米国の長期国債利回りを低下させる、また為替市場でのドル安円高傾向を促す可能性もある(コラム「FRBは長期金利上昇の住宅市場への影響を注視」、2023年10月24日)。

また、目先については、日銀のオペレーションがきっかけではなく、米国経済や金融政策姿勢の変化などをきっかけに、1ドル150円を超えて円安が進み、政府が本格的な為替介入に踏み切る事態に至ることも考えられる。

そうなれば、日本銀行としてはもはや150円を超えた円安のきっかけを作り、政府や国民から批判を浴びることを警戒して、長期国債利回りの上昇を抑え込むことに慎重な姿勢を続ける必要性も低下するかもしれない。

もう少し辛抱すれば、日本銀行にとっては、YCCの枠組み維持と円安阻止との目的の間で板挟みとなっている現状は打破できるのかもしれない。

再柔軟化を見送る確率の方がわずかに高いと今は見ておきたいが。。。

なんといっても、YCCの運用柔軟化からわずか2か月で再柔軟化に追い込まれることは、信認維持の観点からも日本銀行は避けたいところだろう。

以上のような多くの論点を踏まえて考えると、10月30日・31日の金融政策決定会合で日本銀行がYCCの運用の再柔軟化を実施するかどうかは、かなり微妙なところと言える。

現状では、再柔軟化を見送る確率の方がわずかに高いと見ておきたいが、これから1週間の状況次第で、可能性はどちらにも大きく振れ得るだろう。

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