予想通りの高成長となった米国7-9月期GDP:FRBは長期金利上昇の影響を見極める
住宅投資と設備投資の優劣が逆転:企業ディレバレッジの始まりか
米商務省が10月26日に発表した2023年7-9月期の米国実質GDPは、前期比年率+4.9%の高成長となった。前期4-6月期の同+2.1%から成長率は2倍以上に加速している。これは、2021年10-12月期の同+7.0%以来の高成長である。事前予想の平均は同+4.2%程度だった。
7-9月期の成長率を最も大きく押し上げたのは、実質個人消費だ。前期比年率+4.0%増加し、成長率全体を+2.7%ポイント押し上げた。金利に敏感な実質耐久財消費が同+7.6%と、とりわけ高い成長率となったことは、昨年の秋から今年春にかけて、長期金利の上昇が一巡し、幾分低下したことの影響があるとみられる。また、金利低下の影響は、住宅投資にも表れている。実質住宅投資は同+3.9%と実に10四半期ぶりにプラスに転じている。
他方で注目されるのは、実質設備投資が同-0.1%と8四半期ぶりに減少に転じたことだ。投資分野では個人の住宅投資と企業の設備投資で優劣が逆転した形である。
リーマンショック以降、米国の個人は過剰負債の削減を進めた一方、企業は低金利下で逆に債務を増やした。その結果、個人消費や住宅投資など個人の支出は米連邦準備制度理事会(FRB)が急速に利上げを進める中でも予想外に安定を維持してきた。他方、過剰債務を抱える企業部門では、金利上昇に対する抵抗力が弱く、設備投資などを抑制し、債務の返済を優先するディレバレッジが生じやすい。今回のGDP統計は、その始まりを示した可能性もあるだろう。
長期金利上昇の影響で10-12月期以降の成長率は下振れへ
7-9月期の成長率は、春頃までの長期金利の低下を映して上振れたが、他方で、その7-9月期に、米国の長期金利は予想外に急速に上昇した。10年国債金利は、2022年初めには2%を下回っていたが、同年の秋には4%まで2%ポイント以上上昇した。その後、今春までには3.2%台まで低下したが、今年8月以降、上昇傾向が再び鮮明となり、足もとでは5%にまで上昇している(コラム「米国債メルトダウン:米国10年国債利回り5%に強い違和感」、2023年10月5日)。
この長期金利の再上昇は、財政悪化、国債発行増など需給要因によるところもあるが、それ以上に、7-9月期の成長率が再び加速し、それを受けてFRBが政策金利を高水準に長く据え置く姿勢を強めたことの影響が大きいだろう。
しかし、夏場以降の長期金利上昇の影響は、既に中古住宅販売の悪化に表れ始めている(コラム「FRBは長期金利上昇の住宅市場への影響を注視」、2023年10月24日)。当面は、金利上昇に敏感な住宅投資、個人消費の減速が進み、GDP成長率も異例の高水準となった7-9月期から顕著に下振れるだろう。
今までは、長期金利の上昇に敏感な住宅投資が悪化しても、それが住宅関連の個人消費に本格的には波及してこなかったが、労働市場の逼迫緩和が進む中、今度は個人消費の減速につながる可能性がある。さらに、過剰債務を抱え金利上昇に脆弱な企業部門が、債務返済を優先させて設備投資を抑え始めた兆候も見られ始めている。
世界の中央銀行の利上げは最終局面に
7-9月期の成長率は上振れたが、FRBは既にそれを踏まえた政策を進めてきた。さらに、成長率の上振れを映して長期金利が上昇したことで、それが追加利上げと同様の効果を生じさせ得る、とFRBは考えている。
そのためFRBは、長期金利上昇が経済、物価に与える影響をしばらく見守るはずであり、10月31日、11月1日の次回米連邦公開市場委員会(FOMC)では、追加利上げを見送る可能性が高い。12月の追加利上げの可能性はなお残るが、利上げは最終局面にあるだろう。
26日には欧州中央銀行(ECB)は、今局面で初めて利上げを見送った。物価上昇率がようやく低下を始める一方、景気情勢が厳しいユーロ圏と、物価上昇率の低下傾向は鮮明である一方、景気は上振れている米国の中央銀行が、ともに大幅利上げの後、様子見姿勢に入ってきたのである。
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