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2024年度税制改正議論が始まる:所得減税と防衛増税が交錯

2023/11/21

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税制改正議論では所得減税の減税期間と所得制限の有無が争点

自民、公明両党は11月17日に、2024年度の税制改正を議論する税制調査会の総会をそれぞれ開き、税制改正議論を本格的に開始した。12月中旬頃に与党税制改正大綱がまとめられる見通しだ。

最大の注目点は、政府が閣議決定した定額の所得減税の具体策である。所得税と住民税の合計で4万円の減税を、来年6月から実施することは決まっているが、決まっていないのは減税期間と所得制限の有無の2点だ。

減税期間を巡って自公間では隔たりがある。自民税調の宮沢氏は「1年の減税にならざるを得ない」としている。一方、公明税調の西田実仁会長は「1年限りと決め打ちすべきではない」とし、経済状況次第で複数年の減税措置とする考えを示している。

他方、減税の所得制限に関しては、自民税調内では富裕層を対象から外すべきだとの意見が多い。他方、公明税調では所得制限に否定的な声も根強い。

最終的には、1年間の時限的な減税と年収1000万円~2000万円などの所得制限がなされる可能性を見ておきたい。

所得減税の費用対効果は小さく問題

1年間の4万円の定額所得減税で年収1000万円の所得制限、さらに扶養家族への4万円の給付金で総額は約3.6兆円、実質GDPの押し上げ効果は1年間で+0.12%に過ぎない計算だ(コラム「大枠が固まる総合経済対策。GDP押し上げ効果は減税・給付金で+0.19%、対策全体で+1.2%と試算:減税・給付金に大義はあるか」、2023年11月2日)。

減税・給付金の規模の割に経済効果は小さく、費用対効果の小さい経済政策だ。時限的な減税や一時金は貯蓄に回る割合が高いことがその理由の一つである。

政府は、景気浮揚のための措置ではなく、物価高で実質所得が減る中で可処分所得を増やす物価高対策と説明している。しかし、個人は物価高に賃金上昇が追い付かず、実質賃金の減少が長く続くことを警戒している。個人の景況観や消費行動は、こうした長期の展望に基づくところが大きく、この点から、一時的な減税や給付金は物価高対策となりにくい。他方、減税期間を伸ばせば、費用も増えるため、費用対効果はさらに低下してしまうだろう。

物価高によって生活が圧迫されていない所得層に対しても減税を実施するのは、効果の低い政策であり、減税を実施するならば所得制限は必要だろう。本来は、物価高に苦しむ低所得層のみを支援するセーフティネット策とするべきところだ。

防衛費増額議論は完全に迷走

昨年年末の与党税制改正大綱では、防衛費増額の財源を賄う防衛増税で、与党税制調査会の議論は大混乱に陥っていた。政府は、法人、所得、たばこの3税で2027年度に1兆円強の恒久財源を確保することを決めたが、増税に対する自民党内から強い反発が出たことで、2023年度税制改正に増税策を盛り込むことは見送られた。税制改正大綱では、開始時期を「2024年以降の適切な時期」との曖昧な記載に留められたのである。

その後も、増税策については自民党内からの批判が続き、着地点は見えなくなってしまった。そして今回、2024年度の税制改正に所得減税が盛り込まれ、増減税が同時に実施されることが政策の不整合との議論に押され、岸田首相自らが、2024年度に防衛増税を実施しない方針を示した。これによって、防衛増税の議論は一段と迷走してしまった。

今回の税制改正大綱に、2025年度以降の防衛増税の2025年度以降の具体的なスケジュールを書き込めるかどうかが注目点であるが、実際のところ難しいのではないか。2024年度の通常国会で防衛増税の関連法案を提出できないと2025年度から始めるのは難しいとされる。今回の税制改正大綱に2025年度の防衛増税実施が盛り込まれない場合には、その実施は2026年度以降になるだろう。その場合、5年間の防衛費増税策の最終時期である2027年度が迫ってくる。

安易に国債発行で賄うことは問題

所得減税と防衛増税とは目的が異なることから、本来は同時に実施しても、あるいは同時に議論してもおかしくはないところだ。しかし、岸田首相自らが議論の先送りを決めたことで、防衛増税の議論は完全に漂流した感がある。最終的に、増税は実施されない可能性が高まっていると考えられる。

その場合、2023年度から始まっている防衛費増額は、なし崩し的に国債発行で賄われていくことになり、その負担は将来世代へも及ぶことになる。

減税措置にしても防衛費増額にしても、その財源を国債発行増額で賄う場合、それは国民負担となる。それが、将来世代も含めた国民の負担増加に値する政策なのかどうかを十分に吟味すること、そして国債発行で将来世代も含めた国民負担を安易に高めることをせず、健全な財政運営を行う責任をしっかり負うことが、政府、国会には強く求められる。

(参考資料)
「与党税調、防衛増税の開始時期探る 減税の所得制限水準を検討 賃上げ・国内投資も議論」、2023年11月18日、日本経済新聞
「与党税調、所得減税で綱引き 知財優遇や減資対策も調整」、2023年11月18日、産経新聞

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