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2年連続の年末日銀ショック

2023/12/21

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予想通りの政策修正見送りに市場は大きく反応

1年前の2022年12月の金融政策決定会合で、日本銀行はイールドカーブ・コントロール(YCC)の変動幅拡大を実施した。各種メディアはこれを「実質利上げ」と表現し、先行きの金利上昇観測が一気に強まった。

それまでYCCの見直しに慎重であった黒田前総裁の下で見直しが実施されたことから、2023年4月からの新総裁の下では、政策の見直しが加速するとの観測を、金融市場は強めたのである。その結果、ドル円レートは同日のうちに1ドル137円台から130円台まで大幅に円高が進み、さらに2023年1月には1ドル127円台に達した。

一方、2023年12月19日の金融政策決定会合では、日本銀行は政策修正を見送った。それは概ね事前予想通りであったが、金融市場はそれに予想外に大きく反応したのである。1年前の金融政策決定会合を受けた市場の反応とは逆方向であったが、市場が大きく反応したという点は共通している。

今回の決定会合を受けた市場の反応は、株高、債券高(長期金利低下)、ドル高円安だった。ドル円レートは1ドル142円台前半から19日の海外市場では145円の直前までドル高円安が進んだ。翌20日の東京市場でも、株高、債券高の流れは続き、10年国債利回りは会合前の0.68%程度から20日には0.55%と5か月ぶりの低水準にまで達した。

2024年1月の政策修正観測は相応に後退か

日本銀行の政策修正見送りは事前予想通りであったにもかかわらず、金融市場がこれほど大きくなったのは、決定会合が次回2024年1月のマイナス金利政策解除の観測を後退させたためだ。

今回の会合で政策修正は見送られても、緩和バイアスのフォワードガイダンス(金融政策方針)を見直すことで、2024年1月の次回会合でのマイナス金利政策解除の可能性を日本銀行が示唆する、と一部では予想されていた。実際にはフォワードガイダンスは修正されず、その期待は裏切られたのである(コラム「日本銀行の政策修正は後ずれへ:FRBの利下げが鍵」、2023年12月19日)。

さらに、植田総裁は会合後の総裁記者会見で、金融市場が足元で早期政策修正観測を強めるきっかけとなった、いわゆる「チャレンジング発言」について、政策修正を示唆したものではないことを明確に説明した。加えて、米連邦準備制度理事会(FRB)が利下げする前に日本銀行が急いで利上げするようなことは不適切、とその可能性を強く否定した。

そのため、2024年1月の次回会合でのマイナス金利政策解除についての市場の観測は相応に後退することになったのである(コラム「1月政策修正観測を冷やした日銀総裁記者会見:チャレンジング・ショックは終息:FRB利下げ前に動くのは不適切:政治混乱は政策の自由度を高める」、2023年12月19日)。これが、予想通りの政策変更見送りであったにもかかわらず、金融市場が予想外に大きく反応した理由だ。

日米の金融政策修正を受けて2024年は円高の流れが続く

今回の日本銀行の金融政策決定会合を前に、為替市場ではドル安円高が進んでいた。11月半ばに1ドル151円台後半と2022年のピークのドル高円安に近い水準から、会合直前の12月中旬には1ドル140円台と10円以上もドル安円高が進んでいた。

この際には、近い将来のFRBの利下げ観測と近い将来の日本銀行のマイナス金利政策解除の観測を、為替市場は同時に強く織り込んでいたのである。しかし実際には、FRBが利下げを行っている間、あるいはそうした観測が市場で強まっている際には、日本銀行がマイナス金利政策解除に動く可能性は低い。円高が急速に進むリスクを高めてしまうためだ。相いれない2つのイベントを同時に織り込む中で急速に進んだこの時期のドル安円高は、行き過ぎだった。

日本銀行の早期のマイナス金利政策解除の観測は行き過ぎだったと考えられるが、FRBの利下げ観測は今後も維持される可能性が高い。足もとでは一時ドル高円安に為替の揺り戻しは生じたものの、米国側の要因にけん引されて、ドル安円高の流れは今後も続くと見ておきたい。年内は1ドル140円~145円のレンジを固める動きとなるのではないか。

2024年春にも予想されるFRBの利下げの確度をより高く織りこむ過程で、そして実際に利下げが進む中で、2024年にドル安円高の流れが続くことが見込まれる。

他方、日本銀行のマイナス金利政策解除は10月など、2024年後半にまでずれ込むと筆者は予想しているが(コラム「日本銀行の政策修正は後ずれへ:FRBの利下げが鍵」、2023年12月19日)、マイナス金利政策解除やその先の日本銀行の政策正常化観測が、FRBの利下げを引き継ぐ形で、ドル安円高の流れを後押しすることが予想される。

そのため、2024年末のドル円レートは1ドル130円~135円と、比較的緩やかなドル安円高の流れが向こう1年間は続くものと見ておきたい。

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