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米国SECによるNFT販売への証券法の適用

2023/09/01

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米国の証券取引委員会(SEC)は2023年8月28日、ロサンジェルスを拠点としてメディア・娯楽関連事業を営む Impact Theory, LLC (以下、インパクト社)が2021年10月から12月にかけて行ったNFT(non-fungible token、非代替性トークン)の販売は、無登録の証券募集であったとして排除措置命令(cease-and-desist order)を発出するための行政手続きを開始し、インパクト社がNFT販売によって得た収益の没収や民事制裁金の支払いに同意して和解したと発表した(注1)。

NFTとは、ブロックチェーン技術を用いて発行及び取引が行われる唯一性を有する電子データであり、近年、デジタルアートやトレーディングカード、会員証、記念品などとして幅広く活用されている。今回の事案は、SECがNFTの販売を無登録の証券募集だとして摘発した初めての例である。

インパクト社によるNFTの販売

公表されたSECの命令書によれば、本件の事実関係は概ね次の通りである(注2)。2021年10月13日から12月6日にかけて、インパクト社は「ファウンダーズキー(Founder’s Key、創業者の鍵)」と名付けたNFT(以下、キーNFT)を販売した。キーNFTには販売価格の異なる3つのランクが設けられており、それぞれ Legendary (伝説的な(鍵))、Heroic(英雄的な(鍵))、 Relentless (めげない(鍵))と名付けられていた。

それぞれのキーNFTには、図表に示すようなデジタル画像データが含まれており、50種類のシンボルマークから4つが選ばれて特定の位置に表示されることで唯一性が保たれるようになっていた。Legendary は1トークン当たり1.5~3ETH(イーサリアム、1ETHは2023年8月末時点で約25万円(注3))、Heroicは1トークン当たり0.75~1.5ETH、Relentlessは1トークン当たり0.05~0.1ETHで販売され、インパクト社は13,921個のキーNFTを少なくとも数百人に向けて販売し、約3千万ドル相当のETHを獲得した。

図表 インパクト社が販売したNFT

なお3つのランクの違いが具体的にどのような効果をもたらすのかはSECの命令書の内容からは定かでないが、購入者の間には、インパクト社による「エコシステム」の構築が進めば、高ランクのNFT保有者により多くの特典や権利が与えられるという期待があったものと思われる。

キーNFTの販売に先立ってインパクト社はボイスチャットやインスタントメッセージのやり取りに使われるディスコードを通じてキーNFTを紹介するライブイベントを開催したり、そうしたイベントのレコーディングを配信したりした。同じような宣伝活動は、ユーチューブを通じても行われた。

インパクト社は、それらのイベント等を通じキーNFTの潜在的な購入者に向けて、インパクト社の努力が実を結べば購入者は利益を得られるというメッセージを伝えようとした。例えば、インパクト社は、自社が「次のディズニーになろうとしている」と強調し、それはキーNFTの購入者に「途方もない価値」をもたらすとした。インパクト社は、キーNFTというプロジェクトは「当社が進めているあらゆることの未来をこじ開ける鍵」であり、「Legendary を入手することは『蒸気船ウィリー』を制作していた頃のディズニーに乗っかるようなもの」だと訴えかけた(注4)。

インパクト社は、キーNFTの販売によって得た資金を「開発」や「チームの強化」や「更なるプロジェクトの創出」に充てるとし、今後18ヵ月から24カ月の間にたくさんの「クール」なものが現れるが、それは今後5年間で出てくるもののほんの一部にしか過ぎないといったメッセージも送り出した。

SECの判断とインパクト社との合意内容

SECは、こうしたキーNFTの販売の実態から、当該NFT販売が1933年証券法でSECの登録を受けることが求められる証券の一種である投資契約(investment contract)の公募であったものと判断した。

その判断の根拠は、①資金の拠出、②拠出資金による共同事業、③事業による収益獲得の期待があり、④その収益獲得がもっぱら資金拠出者以外の他者の努力によること、という4つの要件を満たす場合には「投資契約」が売付けられもしくは提供されたものと考えられるという、1946年の連邦最高裁判所判決で示された「ハウイ基準」である。

その上でSECはインパクト社に対して次のような措置を講じるよう命じ、同社は当該命令に同意した。

  1. インパクト社が保有しまたは管理下に置いているキーNFTを2023年8月28日から10日以内にすべて廃棄すること。
  2. SECの命令書をインパクト社のウェブサイトやソーシャルメディア・チャネルにSECスタッフが反対しない形で10日以内に公示すること。
  3. キーNFTの将来の売買によってインパクト社がロイヤルティ収入を得られるような内容となっているスマートコントラクトやプログラム・コードを10日内に修正すること。
  4. 以上の措置を完了してから60日以内に、当該措置を講じたことを証明する書面をSECの法規執行局(Enforcement Division)に提出すること。

加えてSECは、インパクト社に対して50万ドルの民事制裁金を賦課するとともに、経過利息を含む約560万ドルの不当利得を没収または追徴するとした。なおSECによれば、インパクト社は2021年12月と2022年8月にキーNFTを買い戻すとの申出を保有者に対して行っており、2,936個のキーNFTを買い戻して770万ドル相当のETHを購入者に対して返還している。SECは、この事実を考慮してインパクト社との和解に応じたとしている。

本件の意義

これまでSECは、様々な暗号資産の販売をハウイ基準に照らして無登録の証券公募だと判断し、差止命令の発出や民事制裁金の賦課などを行ってきた(注5)。今回のキーNFTの事案もその延長線上にあるものに過ぎないと見ることもできるが、これまでSECによる摘発の対象となってきたトークンが、いずれも代替可能性(fungibility)を有するものであったのに対し、NFTの最大の特徴は各トークンの唯一性にあることから、それを証券とみなすことの妥当性への疑問も生じる。

これまでもSECによる「暗号資産潰し」とも言えるような摘発行動に対して批判的な姿勢を見せてきた「クリプトの母(CryptoMom)」ことへスター・ピアース委員とピアース委員と同じ共和党に所属するマーク・ウエダ委員は、今回のSECによる発表にあたって、NFTの販売に投資家保護の観点から懸念があることは否定できないものの、それだけでこの問題をSECの所管事項として良いのかどうかは疑問だとする声明を共同で公表した(注6)。

この声明で両委員は、SECはブランドを確立するといった漠然とした約束を掲げて転売価値が上がるからと言って時計や絵画や収集品を売る人達を摘発の対象とするのだろうかと述べ、キーNFTを安易に証券だと断じることへの懸念を表明している。また、両委員は、仮に今回のキーNFTの販売がハウイ基準が示す証券の定義にぴったり当てはまったとしても、無登録の証券募集に係る救済措置は、基本的には集めた資金の返還であるべきで、既にインパクト社が770万ドル相当のキーNFTを買い戻しており、その他の保有者も買取りを求める機会があったことを踏まえれば、摘発は必要なかったのではないかとも指摘している。

その上で、NFTという資産が多様な性質を持ち得ることを指摘し、証券法をどこまで適用すべきかとか今回示された発行者が保有するNFTの廃棄やロイヤルティ獲得に係るスマートコントラクトやプログラム・コードの修正といった措置がどこまでの先例性を有するべきなのかといった様々な疑問にSECとして答えていくことが必要だとの問題提起を行っている。

なお、今回の事案の意義を極度に一般化して「SECはNFTは証券だと判断している」と考えるのは行き過ぎだろう。冒頭で触れたように、NFTは既に様々な場面で実際に活用されており、それらの全てが証券発行による資金調達だとまでは、SECも考えていないだろう。

おそらく、今回摘発されたインパクト社のキーNFTがSECの注意を引いた理由の一つは、同社が潜在的な購入者の購買意欲をそそるような様々なメッセージを発出して将来の価格上昇への期待感を高めていながら、同社が手がける「プロジェクト」の具体的内容やキーNFTの異なるランクの明確な意義付けが欠けていたことにあるだろう。SECは、今回の摘発にあたって、証券詐欺であるとの主張をあえて控えたように思われるが、詐欺の臭いを感じ取ったからこそあえて摘発に踏み切ったものと考えられる。また、キーNFTが暗号資産交換所で他の様々な暗号資産と同様に売買されており、それがインパクト社に一定の収益をもたらしていたことも摘発を急がせたのであろう(注7)。

おわりに

日本でもNFTを活用する様々な試みが進められているが、NFTが金融商品取引法(以下、金商法)上の有価証券に該当する可能性はあるのだろうか。この点をめぐっては、NFTに収益分配の受取機能がある場合には、金商法上の有価証券の一つである集団投資スキーム持分(金商法2条2項5号)をブロックチェーンによりトークン化したものである電子記録移転権利(金商法2条2項3号)に該当する可能性を検討する必要があるとの指摘がなされている(注8)。もっとも、デジタルアートのNFTに見られるような転売時の利益配分機能を備えたとしても、当該NFTの作成者が転売時の売却代金の一部を受け取ることができるのは、当該作成者がNFTを保有しているからではなく、NFTの作成者であることを根拠としているので有価証券には該当しないと考えられ(注9)、現存するNFTが金商法上の有価証券に該当する可能性は小さいのではなかろうか。

むしろ日本では、NFTが資金決済に関する法律(資金決済法)に定められた暗号資産の定義に該当する可能性が重要な論点となる。仮にある者の作成したNFTが、暗号資産に該当することとなれば、当該NFTの販売行為が暗号資産交換業の登録を必要とする「暗号資産の売買」とされる可能性が生じるからである。

もっとも、この点については金融庁の暗号資産ガイドラインには、あるトークンが不特定の者に対する物品等の代価の弁済の手段とならない場合には暗号資産に該当しないという見解が示されており(暗号資産ガイドライン1-1-1①)、それほど大きな懸念はないものとも考えられる。

 

(注1)SEC Release "SEC Charges LA-Based Media and Entertainment Co. Impact Theory for Unregistered Offering of NFTs", Aug. 28, 2023
(注2)SEC, SECURITIES ACT OF 1933, Release No. 11226 / August 28, 2023
(注3)キーNFTの販売が開始された2021年10月当時のETHの価格は、1ETH=約43万円であった。
(注4)『蒸気船ウィリー』は、ディズニーが1928年11月に制作したミッキーマウスの短編映画シリーズの最初の作品である。
(注5)当コラム「暗号資産XRPをめぐる訴訟で米国SECが一部敗訴」(大崎貞和、2023年7月14日)参照。
(注6)SEC Statement "NFTs & the SEC: Statement on Impact Theory, LLC", Aug. 28, 2023
(注7)インパクト社は、キーNFTのセカンダリー取引が行われる毎に売買金額の10%のロイヤルティを得ていた。
(注8)GVA法律事務所=熊谷直弥=山地洋平編著『Web3ビジネスの法務』技術評論社(2023)154頁参照。
(注9)注8前掲書154頁参照。

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