フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 消費財流通での2次元バーコード活用の動き

消費財流通での2次元バーコード活用の動き

2023/05/31

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

世界で起き始める2次元バーコード活用

店舗のレジで聞こえる「ピッ」。商品外装の1次元バーコードがスキャナーで読み取られるときの電子音だ。今から50年前にアメリカの小売店で初めてこの音が鳴った。
この聞き慣れた「ピッ」に変化が起きようとしている。2027年以降、米国の小売店舗のPOSレジで2次元バーコードが読み取られるようになる。その取り組みはSunrise2027と呼ばれ、今から1年前の2022年5月のコラムで取り上げた。その後の1年で、消費財流通で2次元バーコードを活用する動きが世界のあちこちで起きている。依然として消費財流通での2次元バーコード活用に関して「静か」な状態が続いている日本にも、いずれこの動きが届くかもしれない。そこで世界で起きている変化を紹介する。

Sunrise2027を全世界に広げるAmbition2027

最初に取り上げるのはAmbition2027。これは米国で進むSunrise2027を、いわば全世界に広げようとする動きだ。Ambition2027を主導しているのはGS1である。

2次元バーコード移行を全世界で進めるには、各国企業がGS1標準や2次元バーコード移行の先進事例を理解することが必須である。そのための啓発活動が重要だ。2023年2月、2次元バーコード移行の実証実験を立ち上げるための啓発ドキュメント、「パイロットツールキット」が公開されるに至った。
このパイロットツールキットに書かれているのは、「2次元バーコードを使って、どのような問題を解決するのか」「現在の業務をどう変える必要があるのか」「社内外で巻き込むべきステークホルダーは誰か」といった一般的な問いへの回答だ。企業で2次元バーコード移行プロジェクトを推進するリーダーにうってつけの内容である。
筆者がAmbition2027という用語を初めて知ったのは、2022年9月に行われたGS1のオンラインイベントだった。そこでパイロットツールキットの言及はなかった。「パイロットツールキット」が短期間で用意されたことをふまえると、共通の啓発ドキュメントを用いて2次元バーコード移行を加速しようとするGS1の強い意気込みが感じられた。

中国・浙江省での2次元バーコード移行プロジェクト

次に取り上げるのが、中国の2次元バーコード移行プロジェクトだ。場所は浙江省。JETRO調査によれば、その人口は2021年末で6,540万人と、日本の総人口の半分強にあたる。2022年5月、浙江省市場規制管理局、GS1中国およびGS1の3者が、浙江省内で2次元バーコード移行プロジェクトを立ち上げることを共同発表した。市場規制管理局は食品安全の監督・管理を担う政府機関であり、プロジェクトの狙いは食品安全強化だ。そのため、商品外装の2次元バーコードには、商品識別コードのほか、ロット番号や有効期限といった動的情報が埋め込まれる。
プロジェクト開始時点で参加が見込まれたのは約7千社のメーカーと約200の店舗。それが2023年2月時点では約7万社のメーカーと約5千の店舗が参加。現時点でおそらく世界一の規模と呼んで差し支えないと思われる。
浙江省のプロジェクトはAmbition2027の最先端事例とみなせるだろう。が、これには背景があると筆者はとらえている。中国では食品安全を強化するために、2015年に改正食品安全法が施行され、食品関連事業者に対しトレーサビリティの記録が義務化された。同じ頃に政府によって国家IoT公共サービスプラットフォームが構築。その後、2021年には浙江省で食品トレーサビリティシステムが稼働を開始。浙江省で2次元バーコード移行の大規模実験が実現したのは、法律面および技術面で土台があったことが大きいと思われる。

新たな法規制をきっかけとする2次元バーコード活用の兆し

Sunrise2027もAmibition2027も法規制ではない。1次元バーコードから2次元バーコードに移行するか否かの選択は企業に委ねられている。つまり、任意である。一方、このような任意の取り組みとは異なり、新たな法規制をきっかけとして2次元バーコード活用が進みそうな兆しがある。米国のFSMA204とフランスの容器包装規制の2つを紹介しよう。

1)食品トレーサビリティの記録・保持を義務化した米国

1つめは米国の食品安全強化法(FSMA;Food Safety Modernization Act)。米食品医薬品局(FDA;Food and Drug Administration)が同法第204条に基づき、高リスク食品を取り扱う食品関連事業者に対し、トレーサビリティ記録・保持を義務付けた。略称はFSMA204。高リスク食品とは野菜・果物・魚類・甲殻類など主に生鮮品である。その最終規則が2022年11月にFDAから公表され、2023年1月に発効した。2026年1月に食品関連事業者でのトレーサビリティ記録・保持の義務化が始まる予定だ。

表1 FSMA204のトレーサビリティ追加要件の最終規則の概要

要件 食品関連事業者は、高リスク食品に関する重要追跡イベントについて、重要データ項目を含む電子ソート可能なスプレッドシートを、FDAが要請した期間分、あるいは、トレーサビリティロットコード付きで提供しなければならない。
重要追跡イベント 入荷、加工、出荷など食品サプライチェーンに関わる事業者で発生していて、追跡が必要と判断されるイベント。
重要データ項目 重要追跡イベントと指定された業務で記録が必要なデータ項目。「出荷」であれば、事業者、商品、ロット番号、出荷した場所、出荷先を識別する情報などが含まれる。

出所)FSMA Final Rule on Requirements for Additional Traceability Records for Certain Foodsより作成

実は、最終規則にデータを捕捉する手段に関する規定はない。つまり、1次元バーコード、2次元バーコード、電子タグを使っても使わなくても構わない。しかし、FDAは食品安全を強化するためにテクノロジーやその他ツールの活用が重要と認識。さらにFDAは、企業がサプライチェーンパートナーと情報を共有するために現在利用できる技術を使うことを奨励している。日本と同様に米国でも食品業界には中小企業が多い。記録データの要件と読み取り装置の普及度合いをふまえると、2次元バーコードをスマートフォンで読み取るという方法が、最も広くかつ早く広まる可能性が高いと思われる。

2)容器包装のリサイクル情報開示を義務化したフランス

2つめはフランスの容器包装規制、「フランスの循環経済のための廃棄物防止法」に基づく政令2022-748。狙いは、廃棄物を発生する製品に関する情報の透明性を向上させ、それら製品の循環性を促進すること。2023年1月、飲料・加工食品や日用品など容器入り製品を販売する企業に対し、容器包装ラベルにリサイクルロゴとリサイクル情報の2つを加えることが義務化された。この義務化は大企業から始まった。中小企業やその他の中小企業に至るまで、今後2年間で義務化対象が段階的に拡大されていく予定だ。
消費者は、スマートフォンで製品パッケージ上の2次元バーコードをスキャンすると、製品パッケージのラベル印字で表示される場合より、詳細な情報を得られるという。この法規制に則り、企業はこの「環境品質および特性に関する製品シート」を、集約された形式で自動処理システムにより容易に再利用できるよう、電子的手段で一般に公開する責任を負っている。P&G、ユニリーバ、ペプシコ、カルフール等の大手消費財企業のホームページを訪れると、「環境品質および特性に関する製品シート」が掲載されていることがわかる。
「環境品質および特性に関する製品シート」に示されているのは製品容器のリサイクル情報である。具体的には、堆肥化可能性、包装に含まれる再生材料の質量割合、再利用可能性、リサイクル可能性といった項目である。これらは「デジタルプロダクトパスポート」に求められる項目に非常に近い。デジタルプロダクトパスポートとは、循環型経済のステークホルダー間の情報交換を支援するために設計された、製品データとライフサイクル情報の管理ツールのことである。
デジタルプロダクトパスポートといえば、循環型経済を目指す欧州委員会が2022年3月に「持続可能な製品のためのエコデザイン規制案(ESPR;Ecodesign for Sustainable Products Regulation)」を発表した。しかし、これに食品、医薬品、飼料は含まれていない。つまり、フランスの容器包装規制は、ESPRを補完するものといえるのではないだろうか。

法規制で可視化されるデータを活用した価値創造

米国のFSMA204とフランスの容器包装規制は、ともに持続可能性を高めるための法規制である。机上の話だが、仮にフランスの容器包装規制と同等のものが米国にあったとしたら、どうなるだろうか。米国のFSMA204とフランスの容器包装規制の両方の影響を受けると想定される商品は、現時点では「プラスチック容器入りの、すぐに食べられる野菜サラダ」くらいである。米国のFSMA204では原材料のサプライヤー、メーカー、流通、小売が対象であり、ロット番号に代表される動的情報が含まれる。一方のフランスの容器包装規制では、メーカー(容器入り製品を作る)、小売(容器入り製品を売る)、消費者(空になった容器を捨てる)、回収事業者(空容器を仕分けし回収する)、再生事業者(空容器を再生する)の範囲が対象であり、動的情報は含まれない(図2参照)。

図2 米国のFSMA204とフランスの容器包装規制のカバー範囲

持続可能性を高める取り組みは今後増えるだろう。ひょっとすると「容器包装リサイクルを視野に入れたトレーサビリティ義務化」が起きたりするのではないだろうか。妄想がすぎるかもしれないが、それは製品外装の2次元バーコードをスキャンしたら、中身だけでなく容器のトレーサビリティ情報も得られるような状態だ。
2023年6月上旬に米国のGS1組織、GS1 USが主催する年次イベントGS1 Connectが行われる。約50あるセッションのうち、2割がトレーサビリティ・2次元バーコード関連だ。「トラッキングとトレースだけでなく、革新と変革を」「コンプライアンス(食品トレーサビリティ義務化)を超えて」と、興味を惹かれるセッションが並んでいる。FSMA204を契機として、2次元バーコードを用いて可視化されるデータを活用し、価値創造につながるアイデアが出てくるのではないだろうか。

日本の「外」で変化が起きていることをおわかりいただけたと思うが、では日本国内はどうか。冒頭で、日本では依然として2次元バーコードに関して「静か」な状態が続いていると述べたが、実は萌芽事例が登場している。2023年1~2月、2次元バーコードを用いたダイナミックプライシング実験が経済産業省によって行われた。狙いは食品ロス削減。対象となった商品は、食品スーパーマーケットで販売される、販売可能期間が比較的短い加工食品だ。2次元バーコードとして採用されたのがGS1 Data Matrix。これはQRコードと比べて印刷サイズを小さくできるのが特徴の1つだ。GS1 Data Matrixに埋め込まれたデータはGS1標準に則った商品識別コード(GTIN)と消費期限日の2つだ。このGS1 DataMatrixが日本国内のPOSレジで読み取られたのは、これが初めてという。
2023年は、商品外装の1次元バーコードが初めてPOSレジのスキャナーで読み取られてから50年目の節目にあたる。日本にも変化の兆しがある。持続可能な社会に向けて、消費財流通での2次元バーコード活用がさらに広がることを期待したい。

参考資料

執筆者情報

  • 水谷 禎志

    産業ITイノベーション事業本部 産業ナレッジマネジメント室

    エキスパートコンサルタント

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

新着コンテンツ