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Web3の実現の鍵となるパブリック・ブロックチェーンの高速化(前編)

2023/10/26

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Web3とは

Web3とは新しいインターネットの世界観のことです。インターネットの黎明期には、人々は静的なウェブページを閲覧するにとどまっていました。そこから2004年頃になるとSNSサービスが普及し始め、個人が相互にコミュニケーションを取ることができるようになり、ユーザは閲覧に加えて発信もできるようになりました。こうした情報の閲覧と発信ができる現在のインターネットはWeb2.0と呼ばれています。
一方で、GAFAに代表されるプラットフォーマーが利便性の高いサービスを提供することで、ユーザのデータが特定の事業者に集中してしまうなど、Web2.0ではサービスを運営する事業者側にデータの取り扱いやサービス内容の決定に関する権限が偏ってしまうという指摘があります。このような指摘を踏まえ、個々の参加者のアイデンティティやデータの所有権が特定のプレイヤーに依存しない、水平的なインターネットであるWeb3の概念が生まれました。Web3に関するより詳細な説明について以下をご覧ください。
https://www.nri.com/jp/knowledge/glossary/lst/alphabet/web3

図:Web3による非中央集権制

Web3とブロックチェーン

Web3ではその理想を実現するために、特定のプレイヤーに権限が偏らないよう、非中央集権性を重視します。この非中央集権性を実現するために有効な技術のひとつとして、ブロックチェーンがあります。
ブロックチェーンでは、取引の記録をブロックと呼ばれる単位にまとめ、記録します。各ブロックは1つ前のブロックの内容を表す「ハッシュ値」と呼ばれる値を持っており、これを使ってブロックがチェーンのようにひと続きに連なった構造をしています。このチェーン状のデータのコピーを「ブロックチェーン・ノード」と呼ばれるコンピュータ複数台がそれぞれ保管することで、取引の記録が分散保管されます。ブロックチェーン上の記録は削除することができず、追記や更新をしたい場合には新しいブロックを生成する必要があります。同ブロックは、コンセンサスアルゴリズムと呼ばれる合意形成アルゴリズムを用いて複数のブロックチェーン・ノードによって内容が検証され、合意に達した内容を含むブロックだけが正当なブロックとしてチェーンへ追加されます。
過去の取引記録を連続的に含み、ブロックがすべてのノードで分散保管されているという仕組みにより、ブロックチェーンは情報の改ざんが困難である(対改ざん性が高い)という特徴を持っています。さらにノード間の合意形成を必要とすることから特定の参加者に権限が集中しておらず、非中央集権性が高いという特徴もあります。
これらの特徴が、中央銀行など特定の権威の裏付けを必要としない暗号資産に向いていることから、ブロックチェーンはビットコインなどの暗号資産の基盤技術となっています。暗号資産の文脈では、誰がどの暗号資産をどのくらい保有しているのかという情報がブロックチェーン上に記録されており、取引のたびに情報が追記され、世界中の誰もが参照できるようになっています。なお、ブロックチェーン上に個人の氏名が直接記録されているわけではないため、第三者が具体的に個人を特定することは比較的難しく、プライバシーはある程度保たれています。
Web3の世界では、このブロックチェーンを利用することで非中央集権を実現し、個人や組織による情報の独占的な利用を防ぐことが期待されています。

パブリック・ブロックチェーン

ブロックチェーンにはパブリック・ブロックチェーンと、パーミッション・ブロックチェーンの2種類があります。
パブリック・ブロックチェーンは、ブロックチェーン・ネットワークを形成するコンピュータを制限しないため、誰でもネットワーク運営に参加することができます。ビットコインなどの暗号資産は基本的にパブリック・ブロックチェーンを使って実現されています。誰でもブロックチェーンに参加でき、特権を持った管理者がおらず、非中央集権性が高いことが特徴です。
パーミッション・ブロックチェーンは、自社または企業グループなどの特定の組織がブロックチェーンを形成するコンピュータの参加を制限するブロックチェーンです。信頼できないコンピュータが参加することをはじめから制限しているため、合意形成の手間を簡略化できるメリットがあります。一方で、特定の組織が参加者を制限できるため、パブリック・ブロックチェーンに比べて非中央集権性は低くなります。

図:ブロックチェーンの分類

パブリック・ブロックチェーンの課題

非中央集権性が高く、Web3に適しているパブリック・ブロックチェーンにも課題があります。それは信頼できないコンピュータによる不正を防ぐために、ブロックの合意形成処理を都度行う必要があるということです。

ここからはより具体的に課題を理解するために、ブロックチェーン発展の経緯を振り返ります。
ブロックチェーン技術はビットコインの登場とともに、注目されるようになりました。ビットコインは、暗号資産の取引以外で利用するのが難しい、柔軟性の低いブロックチェーンでした。その後、ブロックチェーン上で任意のプログラムを実行可能にした新しいパブリック・ブロックチェーンが登場してきました。これらのブロックチェーンではスマートコントラクトと呼ばれるプログラムを動作させることが可能になり、暗号資産の取引以外の様々な用途にブロックチェーンを活用できるようになったことを意味します。その中でも歴史が長く、現在でも多くの開発者によって様々な改良が行われているパブリック・ブロックチェーンにイーサリアムがあります。Web3でもイーサリアムは有力なチェーンとされています。

イーサリアムは人々が自分のデータを自分で管理・共有できることを理想としているため、非中央集権性を重視した仕組みになっています。一方で非中央集権性の高さゆえに合意形成の処理に時間がかかるため、1秒あたりに処理できるトランザクション数(TPS:Transactions Per Second)が低くなっています。トランザクション数とは、ひとまとまりのデータやタスク(トランザクション)の処理をできる数のことです。現在のイーサリアムは1秒間に15件程度を処理することができます。VisaやMastercardなどのクレジットカード決済は数千TPSと言われているため、その1/200程度しか処理できないことになります。さらにイーサリアムを使う何千というアプリケーションがこのリソースを共有することになるため、Web3を実現するには性能が足りません。この問題はイーサリアムのスケーラビリティ課題と呼ばれており、パブリック・ブロックチェーンにおける課題の代表例です。現在、この課題解決のために様々な取り組みが世界中で行われています。
次回は同課題へのアプローチと最新状況、NRIの調査・検証で得られた知見をご紹介します。

次ページ:Web3の実現の鍵となるパブリック・ブロックチェーンの高速化(後編)

執筆者プロフィール

太田 好則:
金融システムの ネットワーク・システム基盤設計・構築・運用維持管理に従事後、プライベートクラウドの設計・構築・運用維持管理 および パブリッククラウドを活用した データ分析基盤のサービス化を担当。現在はリーダーとして クラウド統制ソリューションの企画・開発・運用に加えて、ブロックチェーンの R&D や 支援業務を担当。

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