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メタバースのビジネス活用

~2つのテクノロジートレンドから見る今後の可能性~

2023/03/02

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執筆者プロフィール

ITアーキテクチャーコンサルティング部 猫島 悠平:
2014年野村総合研究所入社。金融機関向けサービスのシステム開発・エンハンスを経験。
現在は、システム化構想・計画策定、PMO支援などのコンサルティング業務に従事。専門はシステム化構想・計画立案と実行支援。

はじめに

野村総合研究所 ITアーキテクチャーコンサルティング部の猫島です。

近年、メタバースが注目を集め、多くの企業が取り組みを発表しています。
しかしながら、これらの取り組みは一過性のものが多く、メタバースを活用したビジネス検討を社内で求められているお客様の中には、メタバースに対して懐疑的で、参入には時期尚早と考えている方が多くいらっしゃるのが現状です。

今回は、同じようなお悩みを持つ方に向けて、私がITアーキテクトとしてメタバースと関わる中で捉えた、メタバースのビジネス活用の可能性についてご紹介します。

メタバースのビジネス活用における課題

「メタバース(metaverse)」は、「Meta(超越)」と「Universe(宇宙)」を組み合わせた造語で、1992年に出版されたニール・スティーブンソンのSF小説『Snow Crash』で初めて登場しました。ユーザーは現実世界の物理的な制約から解放された3次元の仮想空間の中で、自分自身のアバターを介して自由に動き回り、他者との交流や、デジタルアイテムの売買などを行うことができます。EMERGEN Research社の調査によると、メタバースの市場は2028年にはグローバルで100兆円前後になると予測されています。

この高い成長性を期待し、国内でも多くの事業会社がメタバースに参入してきており、仮想空間上でセミナーやイベント開催、仮想店舗の出店など多くの取り組みが発表されています。しかしながら、これらは宣伝効果を狙ったものや、ナレッジ、データ収集目的の実験的な取り組みが大半で、自社のビジネスにとってインパクトある発表ができている事業会社はあまり多くありません。

なぜそのような状況になっているのか。メタバースのビジネス活用における課題は、2点あると考えられます。それは、「一般消費者を集められていないこと」と「マネタイズが出来ていないこと」です。ビジネスを継続するためには、仮想空間に常に人が集まっていることが求められますが、現状では実現していません。また、展開する商品やサービスについても現実世界の延長上のものにすぎず、消費者に代金を支払っていただくような価値をメタバース上で提供できていないのが現状です。

課題解消のキーはテクノロジーの進化

では、前述の課題は何が原因で、今後どのように解消していけるのでしょうか。それを考えるためには、メタバースがどのような構成要素で成り立っているのかを把握する必要があります。

以下の表は米Beamable社のCEOである Jon Radoff氏のメタバースバリューチェーンに関する説明を示しています。Jon Radoff氏はメタバースに求める体験や経済圏、それを可能にする技術や環境などの構成要素を7つのレイヤに分類しています。(※1)

1 Experience
(体験)
ゲーム、ソーシャル、eスポーツ、シアター、買い物、ゲーム、社会的体験、ライブ音楽などを体験できる環境・サービス
2 Discovery
(発見)
アドネットワーク、ソーシャルキュレーション等を通じて人々が体験を通じて発見すること
3 Creator Economy
(クリエイター経済圏)
デザインツール・デジタル資産マーケットプレイス等、クリエイターがメタバースのためにモノを作り、マネタイズするためのあらゆるもの
4 Spatial Computing
(空間創造)
3Dエンジン・VR・AR・XR・地理空間マップなど、物体と対話できるようにするソフトウェア。3Dエンジン、ジェスチャー認識、空間マッピングなど
5 Decentralize
(非中央集権環境)
エッジコンピューティング・AI・マイクロサービス・ブロックチェーンなど、エコシステムの多くを分散環境に構築・移行し稼働
6 Human Interface
(デバイス)
メタバースへのアクセスを助けるハードウェア。VRヘッドセットや高度なスマートグラスなどのデバイス
7 Infrastructure
(インフラ、通信)
5G・6G・半導体・クラウドコンピューティング・通信ネットワークなど

(※1)米Beamable社 Jon Radoff氏 「The Metaverse Value-Chain」
https://medium.com/building-the-metaverse/the-metaverse-value-chain-afcf9e09e3a7

この7つのレイヤのうち、事業会社が取り組む要素は、主に1.Experience(体験)、2.Discovery(発見)、3.Creator Economy(クリエイター経済圏)になります。一方、前述のビジネス課題の解決には、これらを下支えするテクノロジー関連レイヤ、すなわち4.Spatial Computing(空間創造)、5.Decentralize(非中央集権環境)、6.Human Interface(デバイス)、7.Infrastructure(インフラ、通信)の進化がカギを握っているため、これらの動向に注目しておくべきと考えています。

例えば、「一般消費者を集められていない」原因の一つに、6.Human Interfaceに該当するデバイスがあります。
メタバースの体験を楽しむためにはVRデバイスの没入感が必要ですが、現在のデバイスはコストが高く、サイズや重量の問題があります。一般消費者に、VRデバイスを普及させるには、低価格、小型、軽量化が必要です。

一方、「マネタイズが出来ていない」という問題の一因は、コンテンツです。上の表で言えば、1.Experience および 4.Spatial Computingが該当しますが、メタバース空間のリアルさに直結する4.Spatial Computing が重要だと考えています。VRデバイスを用意しても、利用したいコンテンツがないとマネタイズの問題は解消できません。逆に、魅力的なコンテンツがあれば、マネタイズの問題だけでなく、一般消費者の集客の問題も解消します。

ビジネス活用が進まない背景には、法整備や開発側の人材不足など他にもいろいろな要素が考えられますが、まず注目すべきはこの2つの要素(デバイス、コンテンツ)ではないでしょうか。以降では、「デバイス」と「コンテンツ」の技術動向と将来のアプローチについて事例を交えてご紹介します。

デバイスの進化(VRデバイス)

先ほど述べたように、VRデバイスは、ハードウェアの問題で、一般消費者にはまだまだ浸透していません。しかし昨今のデバイス技術の進歩は目覚ましいものがあり、この問題は次第に解消されつつあります。既に現時点において、いくつかの製品でデバイスの進化が確認されています。

MetaQuestProは、Meta社が2022年10月から販売を開始したVRデバイスです。フェイストラッキングと、アイトラッキングが実装されており、利用者の表情や視線がアバターに反映されるようになっています。これにより、仮想空間でのコミュニケーションが現実のものに近くなり、ビジネスの質を向上することが期待できます。例えば、感情や気持ちを伝えることが現実世界に近いレベルでできるため、接客や会議の質を高めることができるでしょう。また、アバターの行動や、視線・表情からユーザーの感情を分析することで、ユーザーの嗜好にあった居心地のよい空間を演出することも可能になるかもしれません。

また、HTC社が新たに発表したVIVE XR Eliteでは、バッテリーを取り外しメガネとして利用できるようになり、重量は従来のハイエンドモデルの約1/3になりました。外部電源との接続が必要となりますが、小型・軽量でバッテリーも気にせず利用できます。仮想空間上でのユーザーの滞在時間を長くすることに貢献できるでしょう。

価格については、ハイエンドモデルのデバイスでだいたい20万円前後(2023年現在)であり、残念ながら一般消費者が購入する価格帯には至っていません。しかし、Meta社の独り勝ちの状態だったVRデバイス市場にも、中国のメーカーが高性能なマシンを低価格で提供するなど、競争は激化しています。今後の市場規模拡大に伴い、さらに加速度的に低価格化が進む可能性は十分にあります。そのため、メタバースのビジネス活用を目指すためには、VRデバイスの動向やユーザーへの普及状況、普及層を注視しながら、最新のデバイスを使うことでどこまで課題が改善されているかを確認し、最新デバイスのPoCなどに取り組む必要があると考えています。

コンテンツの進化(空間創造)

空間創造の技術もかなり前進しています。例えば、Epic Game社のUnreal Engineのように空間を精緻に表現する技術はもちろんですが、今では現実世界のものを”手軽”に仮想空間へ持ち込める技術も進化しています。
2023年1月にロサンゼルスで開催された「CES 2023」でSONY社が公開した可搬型のボリュメトリックシステムは、7台のセンサーで囲んだ空間上の物体や人物を動きまで含めて簡単に3D映像化を実現できます。また、ロサンゼルスに拠点を置くMeetKai社はWebカメラがあれば、動画から物理空間を簡単にデジタル化できるソフトウェア・プラットフォームを発表しています。従来はスキャン装置などの高価な専用機器が必要でしたが、今ではiPhoneのLiDARセンサーを利用することでより精緻な3Dモデルの作成が可能となっています。

これらの技術の進化により、現実世界の商品を、仮想空間上に低コスト、短時間で持ち込むことができるようになります。仮想空間上で自社商品の魅力をユーザーに伝えることができ、現実世界の購買にもつなげられるようになるでしょう。
それを実現するためには、まず今ある自社商品からメタバースと相性の良いものを選別し、メタバースのメリットをどう活用してユーザー体験を向上させるのか、その体験にお金を払ってもらえるのかについて調査する必要があります。こうしたユーザーニーズ調査などを行いながら、検証を進めることが大切だと考えています。

おわりに

今回は、テクノロジーに関するレイヤであるHuman Interface(デバイス)とSpatial Computing(空間創造)のトレンドに注目することで見えてくるメタバースのビジネス活用の可能性について、事例と取り組み方をご紹介しました。メタバースはまだ黎明期にある新しい技術であり、メタバースバリューチェーンの7つのレイヤは多くのプレイヤーにより日々アップデートされています。

これらの技術が進化することで、近い将来、普及の準備が整うでしょう。その際、どのようにデバイスを活用し、魅力的なコンテンツを作り出すかは、自社の企画開発力にかかっています。最新技術を注視して、適切なタイミングで参入することで、メタバースの課題を乗り越え、ビジネスを軌道に乗せることができるでしょう。

このような最新動向に常に注意を払い、自社ビジネスに適用する方法を検討することは難しいかもしれませんが、NRIでは、自社でもメタバースを実践しつつ、業界の情報も広く取り揃えております。メタバースの活用などでお困りの際は、ぜひご相談ください。

執筆者情報

  • 猫島 悠平

    ITアーキテクチャーコンサルティング部

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