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イントレプレナーのススメ

ー会社や上司の壁を突破するには、まず自分を変えよう・前編ー

2023/04/05

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大企業では「新規事業の立ち上げがなかなか進まない」という問題が起きています。この原因として、組織が大きすぎて、スタートアップのように迅速に動くことが難しい、新規事業の立ち上げ経験のある意思決定者がいないなどがよく挙げられますが、それだけが原因であるかは疑問です。私たち自身が向き合うべき本質的な問題は、もっと別のところにあるのではないでしょうか。
そこで本記事では、野村総合研究所(NRI)で「バンクディスプレイ」の事業立上げを担当するコンサルタントの須藤に、大企業の新規事業を立ち上げる際に立ちふさがる壁とその突破方法について話を聞きました。前後編の2回に分けてインタビュー形式でお届けします。前編では、新規事業立上げ初期で肝となる部分の1つである「アイデア着想」の壁について取り上げます。

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執筆者プロフィール

システムコンサルティング事業本部 DX事業推進部 須藤 大:
大手通信事業者と金融系企業を経てNRIに入社。
前職までは、新規事業立上、コンサルティング営業、サービス企画、業務改革、金融や公官庁向け大規模インフラ構築プロジェクトなど幅広い分野で20年ほど従事。
NRIでの専門は、当社が提唱するDX2.0(ビジネスモデル変革)及び DX3.0(パラダイム変革)を加速するべく、今までにないデジタルサービスの確立や様々なパートナーとの共創を通じた社会課題解決に関する事業推進を当社グループ横断的に担う部門で、全国の地方銀行と地域活性に向けた取組みとした「バンクディスプレイ」事業の立上などに従事。

はじめに

――これまでの経歴や新規事業との関わり・経験を教えてください

須藤:私がはじめて新規事業に携わったのは大学1年目のときです。ピザのデリバリーを行う会社を興しました。初めは資金が無かったので自宅で作って配達するところから初め、半年ほどして資金が出来てきたので業種を居酒屋に変更し、店舗を借りて実店舗としての運営に取り組みました。曜日ごとにメニューや客単価を変えて、若手、富裕層、ファミリーといった職業・年齢の異なるいろいろな客層に向けたサービスを提供した事で時期・曜日・時間帯に関係なく常にお客様を集める事ができました。

その後企業に入って、大手の通信事業者や金融系の企業を経験しました。企業に入ったばかりの20代の頃は、社内の業務改革といった利益改善につながる部分の仕事やコンサルティング営業などをしていましたが、徐々に新規事業の立上げに関わるようになりました。

NRIに入ってからは、全国の地方銀行と地域活性に向けた取組みとして、「バンクディスプレイ」という銀行が自行で運用するスマートフォンアプリ・ネットバンキング・ATM・デジタルサイネージなどのメディアを活用して、地域の取引先企業等から広告を受託する事業に参入する際、必要となるデータの分析や広告営業、広告運営などを支援する新規事業の立上げを行っています。

――学生で起業された後は、大企業で事業立上げに関わられたのですね。かなり環境が変わられたと思いますが、勝手が違うと戸惑われたことはありましたか?

私自身では、学生時代に立ち上げた経験はかなり活用できていると思っています。基本的なところは共通していて、それを大企業側にカスタマイズしているという感じで、何かが大きく変わってしまったということはないですね。

ただ、周りを見ているとある種の固定概念のようなものがあって、なかなか進まないなあと感じることはあります。

新規事業立上げを阻むアイデア着想の壁

――例えば、どんなことですか?

そうですね。アイデア着想の段階で情報収集が必要になるのですが、その情報収集のやり方が既存事業の枠からでていないんですよ。

まず、アイデアをぶつける相手が違っているんですね。

例えば、広告単価が月5,000円の安価なWEB広告の新規事業を考えた場合、それを月20万円以上の従来型の案件がメインの大手広告代理店に話を聞きに行ってしまう感じです。そういうところでは、高い客単価の中での発見しか得られない。たしかに同じ業界ではあるんですが、扱う単価が全く違うので、そこでは「推進は難しい」という否定的な意見がでやすくなる。

なんでそこへ聞きに行ってしまうかというと、いままでの既存ビジネスの延長線上での関係者にアプローチしてしまうから。新事業の特性にあった相手ではなくて、これまで同様、大手企業からまずはヒアリングしようとする。

――たしかに、その発想はあるかもしれませんね。

行きやすいから行くと言うだけです。

新規事業は新しい取り組みなわけです。例えば価格帯が異なるとお客様の層が変わってくることも多い。ある業界の事業だから、同じ業界に聞きに行こうという考えが間違っているわけではないのですが、そこに留まってその意見だけがすべてになってしまうと、事業化しても成功しないねっていう判断に持っていかれるケースが結構あるかなと思います。

新しい事業のお客様はどういう相手なのか、そこをしっかりイメージするところから始まるんじゃないのかと思います。

――そうですね。では、その収集先の相手をどう探して、聞きに行けばよいのでしょうか?

お客様のイメージができていたら、そのお客様自身やお客様を対象としてビジネスを行っている相手と直接話をするのが適切です。

先ほどの月5,000円WEB広告の例であれば、顧客で言うと中小企業や個人事業主で、ビジネス相手で言うと単価が近い電柱広告やバスなどを扱う媒体社や広告代理店となります。このような相手に直接話を聞きに行くことは重要となります。
さらにそこから得たヒントでフレキシブルに頭を使い、発想を広げたり・縮めたりしながら、収集先を変えたり・広げたりしていくのが良いと思います。
イメージ的に言うと「自分で街を探索しながら白紙から地図を作っていく」感じです。

大手企業の場合、「接点がないので行けない」という理由で既存の関係性がある企業にしか行かない傾向にありますが、これでは事業構想は「絵にかいた餅」のままで改善されていかないでしょう。

――収集するタイミングみたいなものはありますか?

タイミングについては「分からないことが出たタイミング」になります。新規事業の場合、やりたいことが何となくあるがまだ出口が見えていない、という段階でも、収集しにいって良いと思います。

例えば、初期段階のモヤモヤした状況で話をすると、うまく伝わらないことがあるかもしれませんが、自分が何か目的も持って、誰かのために事業を立ち上げたい。さらに、立ち上がった後の運用も自分がリードするというくらいの想いを持っていれば、聞く側にもそれが伝わるものです。聞く側もしっかりと付き合ってくれるはずです。
それと、自分が知っている事や考えている事などはオープンに話す事も重要でしょうか。もちろん会社の機密情報や個人情報はNGですが、ある程度オープンに話さないと相手も話してくれません。これは情報のgive&takeの精神が必要ということです。相手が数枚上手で「そんな事知っているよ」と言う事もあるかもしれませんが、不思議と信頼関係が出来上がったりします。
事業が固まる前は「これは新規事業だから、ネタがバレたら競合他社に真似されるから話せない」と思う方もいます。同じことを考えている人が世の中に数千いたとしても、構想段階の話だけでは価値が無く、それを事業として立ち上げられるかどうかが肝になります。もちろん事業内容にもよりますが、守秘性をあまりにも意識しすぎる必要はないと思います。

――話を聞きに行くときに気を付けるべきことはありますか?

先ほどの目的や想いを持たずに「ただ勉強させてもらいたい」とか「事業化出来ても自社と取引できる企業規模じゃないから情報をもらうだけ」というスタンスで聞きに行く人は敬遠されますね。
特に後者の場合が多くありますが、工夫をすればやり方はあると思いますので柔軟に考えてます。
ある程度アイデアが固まっていない場合は、飛び込んでいくのが難しいですが、私なら、例えば関係者が一同に集まる展示会を活用する事もします。ブースを回ってピンとくる企業に「こんなこと考えているのだが、御社のお客様に受け入れられるかな」など、片っ端から聞きます。2日間で50社以上と会話できるので、ポイントや課題が整理されたりします。

大企業の担当者が陥りやすい「情報収集における課題」

――実際、大企業では手っ取り早く情報収集にネットを利用することが多いと思われます。

以前、ある事業立上げの一環で何人かでチームを組んで「体験学習」のテーマに取り組んだことがありました。その際、同様のテーマを扱った事業についてWEB上でかなり調べたのですが、結局は「どのような特徴を持ち、どれくらいの集客があるのか」や、口コミサイトにある程度の評価程度の情報しか見つけられませんでした。ビジネス的に成立するかどうかという話になると行き詰まってしまったのです。

そこで、私は「直接聞けば良いのでは?」と提案しました。

つまり、サービスを提供しているイベント会社に電話をかけ、「サービスを利用したいお客様」の立場から質問しました。すると、窓口の女性が丁寧に教えてくれ、どのような客層に、どの程度受け入れられているかについて詳しく教えてくれました。さらに、実際にイベントに参加し、自らが客として運営側の状況や参加者の反応を聞いてみると、その事業の仕組み、優れている点、課題などが明確になってきたのです。

――これは、当たり前にできそうでできない話ですね。できる人とそうでない人は何が違うのでしょうか。コミュニケーション能力だけの問題ではない気がします。

単なる消費者として、会話の中で聞けることは結構あります。ふらっと出かけて世間話の中から情報を吸い上げることも大切なことなのです。ただし、1件2件聞くだけでは効果は少ないので、あらかじめ聞くターゲットと人数を決めて実施する必要があります。

でも、大企業ほどそこに発想がいかない人が多いのかもしれません。情報は、名刺を出して、会社の看板を使ってアポイントをとって収集するものだという思い込みができている方もいらっしゃいます。

――このような思い込みが、自分自身の行動を制限しているのですね。

まとめ ~自らの行動を変えることでアイデア着想の壁は打ち破れる

アイデア着想の壁は、新規事業で誰もがぶつかる課題です。有望なアイデアをどうやって見つけるかを日々悩む担当者は非常に多いと考えられます。その解決方法として様々なフレームワークや発想法が議論されていますが、それ以前の問題として、最も基本的な「情報収集」の部分に課題があることが少なくないです。そして、その課題は自分自身の行動や考え方をほんの少し変えるだけで解決できるのです。

情報収集のやり方を間違えていたら、すべての土台が崩れてしまいます。まずは自分を変えることから初めてみてはいかがでしょうか?

後編も、引き続き新規事業立上げを阻む壁について取り上げていきます。次回は企画を立ち上げて審議にかける際の「意思決定者の壁」と、実際に事業化する上で問題となる「会社の壁」についても伺っていきます。

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ー会社や上司の壁を突破するには、まず自分を変えよう・後編ー

執筆者情報

  • 須藤 大

    システムコンサルティング事業本部 DX事業推進部

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