株式会社野村総合研究所では、2003年より毎年、売上高上位の国内企業約3000社を対象に「ユーザ企業のIT活用実態調査」を実施しています。この連載では、最新の調査から、いくつかの設問をピックアップして集計結果をご紹介します。日本企業のIT活用動向を知るとともに、自社のデジタル化および情報化の戦略を考える一助としてご活用ください。
前回はIT費用の支出割合を「ビジネスの変革」と「ビジネスの維持」という観点から分析しました。今回は「社内人件費」「外部委託費」および「機器調達費・通信費」の3つの費目に分けて支出の割合を分析します。
本調査では、3つの費目を以下のように定義しています。
- 社内人件費:設計・開発、保守・エンハンス、運用等の業務やそれらの統括、マネジメント等に関わっている社員の人件費
- 外部委託費:設計・開発、保守・エンハンス、運用等の業務に関する外部委託費
- 機器調達費・通信費:機器の調達費、ネットワークの通信費、クラウド等のサービス利用費など、社内人件費・外部委託費に含まれないその他の費用
調査結果によると、2021年度実績では外部委託費の割合が44.1%と最も高く、機器調達費・通信費が32.4%、社内人件費が23.5%と続いています。(図1)
図1 IT費用の支出割合(2021年度実績)
次に2022年度予算について、2021年度の実績と比べた増減を費目ごとに尋ねました。調査結果では、全ての費目において、増加すると回答した企業が、減少すると回答した企業を上回っています。(図2)
社内人件費については、増加すると回答した企業は22.9%で、減少すると回答した企業は4.7%でした。外部委託費については、増加すると回答した企業は32.3%、減少すると回答した企業は10.0%でした。また、機器調達費・通信費については、増加すると回答した企業は32.3%、減少すると回答した企業は6.8%でした。
図2 2022年度予算の2021年度実績からの増減
以上の結果から、IT費用の中で外部委託費が占める割合は上昇する傾向にあると言えます。企業が設計・開発や運用などの業務を外部委託することについては、いくつかの理由が考えられます。まず、社内の人材が対応できない領域のタスクを、専門のスキルを持つ社外の企業に委託するという場合があります。また、社内のリソースでは量的に対応し切れないタスクを補完するために委託をするという場合もあります。外注コストが社内の人件費よりも安く、費用の削減を目的として外部への委託を進めるという場合もあります。
一方で、外部委託は有効な方法ですが、企業が継続的な事業推進や業務改革を進めるためには、外部委託に頼るだけでなく、社内の組織能力を高めることも必要になります。社内にどのような役割や専門性を持つ人材がどのくらい必要であるかを見極めた上で、外部活用の目的を明確にし、戦略的かつ計画的に活用していくことが重要だと言えるでしょう。
次のページ:日本企業のIT活用とデジタル化 - IT活用実態調査の結果から
第5回 日本企業は外部委託費を削減するためにどのような工夫をしているか
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