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NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 日本企業のIT活用とデジタル化 - IT活用実態調査の結果から 第5回 日本企業の外部委託はどのように活用されているか

日本企業のIT活用とデジタル化 - IT活用実態調査の結果から

第5回 日本企業は外部委託費を削減するためにどのような工夫をしているか

2023/07/20

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株式会社野村総合研究所では、2003年より毎年、売上高上位の国内企業約3000社を対象に「ユーザ企業のIT活用実態調査」を実施しています。この連載では、最新の調査から、いくつかの設問をピックアップして集計結果をご紹介します。日本企業のIT活用動向を知るとともに、自社のデジタル化および情報化の戦略を考える一助としてご活用ください。

注目される調査結果のエグゼクティブサマリーはこちら

前回は、IT費用の支出割合を「社内人件費」「外部委託費」および「機器調達費・通信費」の3つに分けて分析しました。2021年の費用実績を見ると、最も支出割合が高かったのは「外部委託費」でした。本調査では、外部委託費を「システムの設計・開発、保守・エンハンス、運用等の業務にかかる費用」と定義しています。今回は、外部委託費を抑えるために、各社がどのような対策を実施または検討しているのかについてご紹介します。

企業が外部委託費の増加を抑える、または削減するために実施・検討している対策について尋ねました。図に示すように、「特に実施していない」あるいは「わからない」と回答した20%の企業を除いた、80%の企業は何らかの対策を実施・検討していることが明らかになりました。具体的な対策としては、「開発方法の見直し(パッケージ、クラウドの利用など)」と回答した企業が52.3%で最も多く、次いで「内製化(自社または情報子会社による設計・開発)の拡大」と回答した企業が39.3%でした。

図1 外部委託費を抑えるための対策

開発方法の見直し(パッケージ、クラウドの利用など)

開発方法を見直し、スクラッチ開発から既製のパッケージソフトやクラウドサービスの利用に切り替えることで、設計・開発・テスト・保守・運用に関わる作業を大幅に削減できる場合があります。パッケージソフト利用の場合、既に組み込まれている機能を利用できるため、設計・開発に必要な工数を削減できます。クラウドサービスの場合は、アプリケーション等を自社の所有から外部サービスの利用へと移行するため、保守・運用やサーバーの設置・管理に必要な工数を削減できます。このように、パッケージソフトやクラウドサービスなど外部事業者が提供する“ありもの”を利用することで、スクラッチ開発において外部に委託していた分の開発費用を抑えることができます。その代わり、抑えられた分の外部委託費用はパッケージソフトの購入費やクラウドサービス利用料に置き換わります。置き換えるうえで、外部委託費よりも利用料等の方が安価な場合は、システムに要するトータルの費用削減が期待できます。
ただし、この対策には注意が必要です。システムに要するトータルの費用を抑えるには、パッケージソフトやクラウドサービスを利用するうえで、カスタマイズや追加の開発を極力抑えることが大前提です。そのため、本対策は自社の独自性があまり必要とされない業務領域に対して適用されることが多いです。また、単純に現状の外部委託費とパッケージソフトの購入費やクラウドサービスの利用料の比較だけではなく、数年先の利用料等や移行コストを含め、費用を比較・検討することが必要です。

内製化の拡大

内製化を拡大し社内工数の割合を増やすことで、外部委託費の削減につながるケースもあります。内製化は、頻繁に改修するシステムや企業特有のプロセスやノウハウを活用しているシステム、独自のサービスや製品を提供している場合に多く取り入れられます。このようなシステムの開発を外部に委託すると、業務知識やシステムの把握等に工数をかけなければなりません。内製化を行うことで自社のエンジニアが開発に携わるため、システムの状態把握・確認に要する時間を短縮することが可能になります。

回答した企業の最も多い2つの対策を取り上げて、どのようにして外部委託費を抑えようとしているかについて触れました。このような対策には、委託費用削減に直接結びつく以外にもプラスの効果があります。例えば、既製のパッケージソフトやクラウドサービスを利用することで初期導入のスピードを上げることができ、スクラッチ開発よりも短期間でアプリケーションやシステムを提供できるようになります。利用実績の多い製品であれば、品質や信頼性の向上も期待できます。他方で、内製化を拡大した場合は、自社のエンジニアがシステム開発や保守・運用を進めるため、実践的なノウハウや知識・スキルを自社内に蓄積できます。これは、将来のプロジェクトのスピードと効率性の向上につながるでしょう。そして、自社のビジネスにより適したIT活用の推進や、自社を取り巻く環境の変化に対して柔軟に対応できる可能性があります。

委託先への非金銭的な価値提供

「委託先への非金銭的な価値提供(研修の実施、長期的な信頼構築など)」は、実施している企業の割合(5.9%)は多くありませんが、委託先と長期的な信頼関係を築き、パートナーシップを強化するのに有効だと考えられます。選択肢中にあるような委託先への研修の一例として、ドキュメントの作成方法やテストケースの作成ポイント等の指導が挙げられます。このような教育を行うことは、委託先にとって、委託された業務を効率的に実施できるようになるだけではなく、委託元の企業についての理解を深めることにつながります。長期的な信頼が構築できれば、委託元の企業の要件やニーズに対する理解度が上がり、コミュニケーションコストが下がることが期待できます。これらの効果によって、委託先における生産性が向上し、同じ外部委託費でもより多くの業務を行うことができるようになるでしょう。

以上を踏まえ、外部委託費を抑えるための対策を検討する際は単なる抑制効果だけではなく、併せて生じる様々な効果を考慮した上で、総合的に判断することが求められます。特にコスト削減額等の定量的効果に加え、定性効果を見落とさずに総合的に評価することが重要です。

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第6回 日本企業はITをどのような領域で活用しているのか

執筆者情報

  • 窪田 萌

    システムコンサルティング事業本部

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