株式会社野村総合研究所では、2003年より毎年、売上高上位の国内企業約3000社を対象に「ユーザ企業のIT活用実態調査」を実施しています。この連載では、最新の調査から、いくつかの設問をピックアップして集計結果をご紹介します。日本企業のIT活用動向を知るとともに、自社のデジタル化および情報化の戦略を考える一助としてご活用ください。
企業がデジタル化を推進していく上では、そのための体制作りが重要です。前回のブログでは、デジタル化を推進する部門の有無を取り上げました。今回は、デジタル化の推進について責任を持つ役職者の有無について取り上げます。一般に、企業の中で経営の立場からデジタル化を推進する役職者をCDO(Chief Digital Officer、最高デジタル責任者)と呼び、近年、その重要性が注目されています。
なお、CIO(Chief Information Officer、最高情報責任者)とCDOの役割の違いには注意が必要でしょう、CIOは従来の情報化の立場から経営情報の統合や業務プロセスの最適化を担うのに対し、CDOは、デジタル技術の適用によるビジネス価値の向上や企業のデジタル変革を担います。変革を推進する上では、両者の連携も重要です。一般には、CDOが事業戦略の観点からデジタル化を推進し、CIOが企業内のインフラ整備の観点から、それを支えることになります。
NRIが実施しているIT活用実態調査では、各企業に対し、全社のデジタル化の推進について責任を持つ役職の有無を尋ねています(以下では、この役職を「CDOなどの役職」と略して記します)。その結果、CDOなどの役職を置く企業は、回答企業の26.2%でした。この割合は、2021年の調査では18.9%、2020年の調査では15.8%で、2年間で約10ポイント増加したことになります(図1)。このことは、デジタル変革を実行する上で、企業の体制整備が進んできた結果として受け止めることができます。なお、売上高の規模別に見ると、規模が大きい企業ほどCDOなどの役職を置く割合が高くなっており、売上高が1000億円以上の企業に限るとその割合は38.1%です。
図1 全社のデジタル化の推進について責任を持つ役職を置いているか
ただし、CDOなどの役職を置く26.2%の企業について詳しく見ると、その半数以上でCDOなどの役職をCIOと同じ方が担当しています(図2)。一般にCDOなどの役職をCIOが兼務することについては、メリットとデメリットがあります。例えば、デジタル化戦略を従来の情報化戦略とシームレスに連携させながら推進できることは、両者を1人が兼務することの大きなメリットです。一方で、時間と労力が分散され、役職者がデジタル変革に全力を注ぐことができないということはデメリットになり得ます。
図2 デジタル化の推進に責任を持つ役職とCIOの関係
※デジタル化の推進に責任を持つ役職を置くと回答した企業のみを対象
調査では、さらに各企業のCIOがデジタル化関連の活動に時間を割く割合を尋ねています。この値は、回答企業全体の平均で36.9%でした。CDOなどの役職を兼務しているCIOに限るとこの値は45.9%で、デジタル化関連の活動に割く時間がやや多いと言えますが、それでも活動時間の半分に達していません。デジタル化を強力にかつ迅速に推進したい場合には、デジタル化に関わる活動に十分な時間を割けないことが足かせとなる可能性があります。
このため、CDOなどの役職をCIOが兼務する場合は、デジタル化戦略を担う専門性の高いスタッフのリソースを十分に確保し、自身の限られた時間を重要な意思決定に使えるように体制を整備する必要があるでしょう。また、システムの維持や安定的運用といった「守り」の業務に時間と労力を取られすぎないよう、ミッションの優先順位を明確にしておく必要があるでしょう。
次のページ:日本企業のIT活用とデジタル化 - IT活用実態調査の結果から
第9回 デジタル化推進部門における現在および今後の課題とはなにか
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