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日本企業のIT活用とデジタル化 - IT活用実態調査の結果から

第10回 日本企業はデジタル化投資判断においてどのような工夫をしているか

2023/09/21

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株式会社野村総合研究所では、2003年より毎年、売上高上位の国内企業約3000社を対象に「ユーザ企業のIT活用実態調査」を実施しています。この連載では、最新の調査から、いくつかの設問をピックアップして集計結果をご紹介します。日本企業のIT活用動向を知るとともに、自社のデジタル化および情報化の戦略を考える一助としてご活用ください。

注目される調査結果のエグゼクティブサマリーはこちら

近年、パンデミックによるテレワークの普及や、AI技術の進化などにより、社会の変化スピードがますます速まっています。各企業は、そういった変化のスピードに対応するため、より迅速に投資判断を行うことが求められています。
そこで本記事では、デジタル化投資に焦点を当てて、投資判断における課題と工夫について紹介します。

調査では、各企業がデジタル化投資の判断をする際に、従来の情報化との特性の違いから直面している課題について尋ねています。
ここでは、デジタル化と情報化について下記のように定義しています。

  • デジタル化:デジタル技術(Web, モバイルデバイス, IoT, AI, データ解析など)を活用した、製品・サービスの提供、体験価値の向上、ビジネスモデル変革や、その戦略策定など
  • 情報化:経営管理の高度化、経営情報の統合、業務の標準化・効率化などを目的とした、情報システムの企画、設計、開発、運用や、その戦略策定など

調査の結果、約6割の企業が「取組みの初期に効果を予測すること」、「効果を金銭的な価値で測ること」の難しさを課題として挙げています。(図1)

図1 デジタル化投資の判断にかかわる課題

取組み初期の効果予測が難しい点については、情報化投資の場合、目的が経営管理の高度化や業務の効率化など主に自社向けであるため、効果に影響を与える変動要素が限定的ですが、デジタル化投資は、自社だけでなく市場環境や顧客の行動、競合他社の動向など、不確実性が高く短期的に効果を捉えづらい要素に影響を受けることが要因と考えられます。また、デジタル化における技術的側面からも、AIの精度や解析に用いるデータの品質などが不確実性を生む要素となります。

効果を金銭的な価値で測ることが難しい理由は、情報化投資の場合、例えば情報システムの導入により削減が見込まれる人件費や設備費として効果を算出しやすい一方、デジタル化投資による効果は、顧客体験価値の向上や社会課題の解決など、定量化することが難しく、直接的に金額換算しづらいためと推察されます。

このように、デジタル化投資において取組み初期の効果予測や金銭価値の算出が難しい要因は、それぞれ効果創出に寄与する変動要素や効果の定量化の難しさによる「不確実性」に起因することが考えられます。

また、デジタル化投資の判断において工夫していることを尋ねたところ、「本格的な投資の前にPoCを実施し、投資や効果の見積もりを向上させる」と答えた企業が45.1%、次いで「最初に最小限の製品・サービス(Minimum Viable Product)を市場に投入して、段階的な成長を目指す」が30.2%となりました。一方で、「特に工夫はない」と回答した企業も28.0%と一定数存在する結果となりました。(図2)

図2 デジタル化投資の判断に関わる工夫

PoCは、製品・サービスについて技術的に実現可能か(技術検証)という観点だけでなく、顧客が価値を感じるか(価値検証)、ビジネスとして収益を見込めるか(ビジネス検証)といった観点で行うことが有効です。顧客の反応や収益性といった不確実性の高い要素に対する検証結果を効果予測に用いることにより、取組み初期における予測精度の向上につながります。また、効果の金額換算に対しても、製品・サービスに対して顧客がいくらまでなら払えるか、どの程度顧客数を獲得できそうかといった検証を行うことで、効果を定量的に把握するための指標にすることができます。

とはいえ、必ずしもPoCで想定した効果が得られるとは限りません。そのため、最初は最小限の製品・サービス(MVP)から提供し、顧客や市場の反応を常に捉えながら段階的に製品・サービスを改善していくことにより、投資対効果を高めていく視点も重要となります。

このように、デジタル化における「不確実性」を適切に評価し対処するためには、取組みを小さく始め、実際に製品やサービスを使う顧客から得られる反応をもとに効果検証・改善のサイクルを回しながら、製品・サービスを拡大していくことが重要です。デジタル化投資判断にお悩みの場合は、こういった工夫を取り入れてみてはいかがでしょうか。

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第11回 デジタル化への取り組み状況

執筆者情報

  • 長谷 知輝

    システムコンサルティング事業本部

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