エッジコンピューティングの求められる背景と使いどころ
執筆者プロフィール
システムコンサルタント 橋本 英憲:
2008年、外資系ITベンダーへ入社し、システム開発/エンハンスのプロジェクト経験を経て、2019年に野村総合研究所(NRI)へ入社。
専門は、システム化構想・計画の策定及び、ITアーキテクチャー策定。
システムコンサルタント 岡 泰青:
2018年、野村総合研究所(NRI)へ入社し、通信基盤のエンハンス/保守プロジェクトを経験後、複数のシステム化構想、ネットワーク構想支援や顧客企業のITサービス部門に対する伴走支援に従事。
専門は、システム化構想・計画の策定及び、ネットワーク構想。
システムコンサルタント 古館 茜:
2019年、国内大手メーカーへ入社し、ネットワークSEとして、設計・構築経験を経て、2023年、野村総合研究所(NRI)へ入社。入社後は、IT-BCP対策強化検討の支援や顧客企業のIT基盤開発・運用に対するコンサルティング業務に従事。
専門は、インフラ・ネットワーク設計・構築。
目次
はじめに
野村総合研究所ITアーキテクチャーコンサルティング部の橋本、岡、古館です。
近年、IoTの浸透に伴い、エッジコンピューティングが注目されるようになり、幅広い業界で実証実験や実用化が進んできています。今回は、エッジコンピューティングの導入を検討されている方に向けて、エッジコンピューティングとは何か、エッジコンピューティングの特徴、導入事例、導入時の留意事項と検討ポイントについて解説します。
エッジコンピューティングとは?
エッジコンピューティングとは、従来データセンタやクラウドで行っていた処理を、データを収集する端末(エッジ)、もしくは、端末の近くに配置したコンピュータなど、データの発生源の近くで処理を行うアーキテクチャのことを指します。
従来型IoTシステムの課題
近年、5Gによるネットワーク回線の高速化やデバイスの性能向上に伴い、センサー、カメラ、スマートウォッチなどのデバイスから大量のデータを収集し、ビジネスに活用するシーンが増えてきています。 従来のクラウド集約型のIoTシステムでは、IoTデバイスからアップロードされた全てのデータを、クラウドに集約し、クラウドの豊富なリソースを活用して集中処理を行っていました。そのようなクラウド集約型のアーキテクチャでは、全てのデータをクラウドに集約するため、以下の課題がありました。
<従来型IoTシステムの課題>
リアルタイムでのデータ処理が困難
デバイス↔クラウド間の通信がインターネットを介して行われるため、自動運転や工作機械の制御などミリ秒単位で、リアルタイム性を求められるデータ処理が困難。
プライバシーの保護が困難
常設したカメラなどで撮影した個人情報を含んだ画像データを全てクラウドに送信するため、プライバシーの保護が困難。
通信コストが高額になりやすい
デバイスで取得したすべてのデータをクラウドに送信するため、高精度のカメラ画像や、大量のセンサーデータなどを収集する場合などには、膨大なデータ通信が発生し、通信コストが高額になりやすい。
エッジコンピューティングは、そうした課題を解決する手段として、近年、様々な領域で幅広く活用されています。
エッジコンピューティングの特徴
従来のクラウド集約型のアーキテクチャが抱える課題を解決するため、エッジコンピューティングでは、デバイス、もしくはデバイスの近くに配置したコンピュータで処理を行うため、以下の特徴があります。
リアルタイムでのデータ処理が可能
デバイスに近い箇所で処理を行うため、ミリ秒単位でのレスポンスを実現可能。
プライバシー保護/セキュリティの向上
個人を特定可能な画像データや、移動情報などを、エッジで個人を特定できない情報に抽出したうえで、クラウドにアップロードするなどの対応を行うことで、情報漏えいリスクの低減が可能。
通信コストの抑制が可能
デバイス上でカメラ映像を基にした画像判定処理を行い、判定結果や特定時点の画像データのみをクラウドに連携するような仕様にすることで、通信コストの抑制が可能。
注)仮に従来の集約型のアーキテクチャ構成で、カメラで録画した画像(1920×1080)をクラウドに伝送した場合、通信量は、約6.75GB/時間となるため、定常的にデータを伝送する場合、月額無制限のSIMが必要となる。他方、エッジで処理を行い、処理結果のみをクラウドに伝送する構成とし、転送量を1GB/月未満に出来たと仮定すると、一般的なSIMの利用料※で試算した場合、約1/3程度に通信費用を削減することが可能。
- ※
クラウドへの一極集中の回避
エッジデバイスがそれぞれ分散して処理を行うことで、IoTシステム全体での安定性向上が可能。例えば、一部のエッジデバイスやクラウドサーバがダウンしたとしても、障害箇所を切り離してサービス継続が可能。
エッジコンピューティングの導入事例
エッジコンピューティングは、比較的新しい技術領域ではありますが、既に幅広い分野や業界で導入されつつあります。その例をいくつかご紹介します。
エッジコンピューティング導入時の留意事項
エッジコンピューティングのアーキテクチャでは、エッジにて高度な処理を行う必要があるため、従来型のアーキテクチャと比較して、以下の留意事項があります。
調達コストが高額になりやすい
デバイスやエッジサーバで画像判定など、高度な処理をリアルタイムで行うため、デバイスに高い性能が求められることが多く、また、利用シーンによっては、デバイスの設置台数も多数にわたる場合があるため、システムの調達・構築コストが高くなりやすい。
運用管理が複雑
エッジコンピューティングでは、従来のIoTシステムで求められるデバイスの監視やデバイスの鍵管理、デバイスのキッティング~配置、故障時の対応などに加えて、デバイス上で実行するアプリケーションや機械学習モデルの更新やアプリケーションの監視などが追加で必要となるため、従来の業務システムと比較し、運用負荷が高くなりやすい。
エッジデバイスに対するセキュリティ対策が必要
デバイスやエッジサーバの盗難やデバイスやエッジサーバへの不正アクセスなど、従来の業務システムとは異なるエッジコンピューティングのアーキテクチャ固有のセキュリティリスクを孕む。
エッジコンピューティング導入時の検討ポイント
前述の留意事項を踏まえ、筆者が考えるエッジコンピューティングのアーキテクチャを採用する際に、検討するべきポイントを紹介します。
必要なデバイススペックの早期見極め
エッジコンピューティングでは、システムの調達コストが高額になりやすいため、早期に投資対効果の成立性を確認することが肝要である。従来の業務システムの開発では、サーバのサイジングや機器の選定などは、基本設計フェーズで行うケースもあるが、そのような進め方をした場合、設計フェーズで膨大なコストが掛かることが発覚し、プロジェクトがとん挫することになりかねない。
そのため、エッジコンピューティング導入時には、企画構想などの上流フェーズで、PoCなどを通じて、要件を充足するために必要なデバイススペックの見極めを行い、早期に投資対効果の成立性を確認することが重要となる。
クラウドサービス活用による運用・保守負荷の軽減
エッジコンピューティングでは、従来のIoTシステムで求められる運用に加えて、デバイス上で実行するアプリケーションや機械学習モデルの更新やアプリケーションの監視などが必要となり、運用負荷が高くなりやすい。AWS、Azureなどのクラウドサービスでは、IoT/エッジコンピューティングを実現するための各種サービスが提供されており、これらのサービスをうまく活用することで、運用・保守負荷の軽減を図ることが可能である。
例えば、AWSでは、以下のようなサービスが提供されている。(2023年8月 執筆時点)
エッジ特有のセキュリティリスクを考慮したセキュリティ対策
エッジコンピューティングでは、デバイスの盗難やデバイスへの不正アクセスなど、セキュリティリスクが、通常の業務システムとは異なる。そのため、通常の業務システムで実施しているセキュリティ対策では不十分な場合が多く、システム構成や保有データを基に、想定されるリスクや脅威を網羅的に洗い出したうえで、それらに対するセキュリティ対策の検討が重要である。
それらの検討をする際には、情報処理推進機構(IPA)が発行している「IoTのセキュリティ設計の手引き※」などが参考になる。
- ※
おわりに
今回のブログでは、技術の進展により、今後、益々増大するデバイスのデータを効率的かつ安全に収集&活用するために重要となるエッジコンピューティングについて、ご紹介いたしました。エッジコンピューティングを導入する際には、「デバイススペックの早期見極め」、「クラウドサービス活用による運用・保守負荷の軽減」、「エッジ特有のセキュリティリスクを考慮したセキュリティ対策」が重要となります。これらのポイントを押さえることで、効果的にエッジコンピューティングの導入・運用を実現することができるでしょう。
NRIでは、さまざまな業界でのIoT/エッジコンピューティングに関する導入や運用のご支援をしております。
エッジコンピューティングの導入や運用でお困りの際には、ぜひご相談ください。
執筆者情報
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