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不動産事業×生成AI ~ 今知っておきたい適用事例とユースケース検討フレーム~

2023/10/06

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ChatGPTが2022年11月30日の公開から3ヶ月で推定1億2300万のアクティブユーザーに到達するなど、生成AIが急速に普及し始めています。日本企業においても、事業部門・システム部門を問わず、生成AIの活用検討が急速に進んでいます。
各企業の生成AIに関する取り組みは、主に「①ユースケース検討」、「②社内システム環境作り、ルール作り」、「③それらを含めたPoC」の3つに大別され、特に筆者の周りでは「ユースケースはどこから検討し始めたらよいか?」「先行事例は?」といった「①ユースケース検討」に関するご相談を多くいただきます。
そのため、本記事では、不動産業界を例に、生成AIの「ユースケース検討フレーム」と「適用事例」について記載します。

執筆者プロフィール

産業ITコンサルティング二部 栗山 勝宏:
1998年大手システムインテグレーターに入社後、2007年NRIに入社。一貫して、業務変革を伴うシステム上流工程、システム導入時のユーザー側活動支援、大規模開発PMOなどのITコンサルティングに従事。
2012年以降は、それらに加えてデジタルを活用した事業変革・新事業創造、顧客接点変革、業務改革・業務改善などのコンサルティングに従事。
経済産業大臣認定 中小企業診断士。

不動産業界における生成AI適用事例(中国)

国内の不動産企業において、試行運用を除いて、全社として事業や業務に生成AIを適用・運用している事例を筆者は把握していません(2023年9月現在)。現在の国内事例の多くは「従業員が調べものなどにChatGPTを利用している」といった個人作業レベルに留まります。一方、中国では、デジタルに関する国の後押しに加えて「不完全でもはじめてみる、使ってみる」という国民性に因るものか、生成AIの適用事例が多く生まれています。そのため、本稿では、中国の事例を紹介します。

事例1:諸葛启航科技有限公司(中国)、不動産住宅動向レポートの自動生成

不動産テック企業である諸葛启航(蘇州)科技有限公司(以下、諸葛科技)は、Webで公開されている「不動産市場データ」を10分単位でクローリングするとともに「業務提携先から提供されるデータ」をインプットし、自社がもつアルゴリズム「センチメントインデックス市場価格予想モデル」を用いることで、「不動産住宅動向レポート」を自動生成し、社外発信まで行っています。
現在、生成される「不動産住宅動向レポート」は、50都市・8万戸を対象とした「物件別価値レポート」、「都市別住宅価格予想レポート」、「不動産市場予想レポート」の3種です。

物件別価値レポート

都市別住宅価格予想レポート

不動産市場予想レポート

出所:诸葛找房Webサイト(https://kandianshare.html5.qq.com/v2/news/4687270931044323650)よりNRI北京キャプチャ(日本語のレポート名はNRIにて追加)

なお、現在のレポートは“地域別”や“物件別”の一律な市況レポートに留まっているものの、諸葛科技は個人利用の地図アプリを提供する百度地図との事業提携を始めたことから、今後は個人の行動データを捕捉できるようになる可能性があります。その場合、“個人別”の不動産紹介レポートの自動生成が可能となるかもしれません。

これらの技術や事例は、日本の不動産業界においても住宅やオフィスの仲介相談やコンサルティング業務にも活用したり参考にできそうです。将来的には不動産仲介業務の大幅な効率化、ひいては現在の仲介事業のディスラプトにつながる可能性があります。

事例2:上海品覧数据科技有限公司(中国)、対話形式で建設図面の生成

不動産テック企業である上海品覧数据科技有限公司(以下、品覧科技)は、過去のビルや住宅の施工図や設計図面、建設に関する各種規定やルールを生成AIに学習させています。建設・設計に関わる要求事項をチャット形式で入力すれば、ビルや住宅の施工図や設計図面が自動生成されるサービス(AlphaDraw)を提供しています。

対話(チャット)形式で建設要求を入力

オンラインで図面を生成

多人数での同時編集

レンダリング

出所:上海品览数据科技有限公司Webサイト(https://www.pinlandata.com/zht/)よりNRI北京キャプチャ(日本語補足はNRIにて追加)

同社は、本サービスの利用により、図面作成コストを10分の1までに削減可能とアピールしています。

本サービスは、日本の不動産業界においても、設計図面作業の完全自動化までは直ぐには難しくとも、土地公募入札時の初期案の検討や容積率の計算等には十分活用できそうです。

事例3:壹仟零壹芸網絡科技有限公司(中国)、対話形式で建設・景観・装飾デザイン画像を生成

建設テック企業の壹仟零壹芸網絡科技(北京)有限公司(以下、壹仟零壹芸)は、生成AIに過去の建設・景観・装飾データや外壁・壁紙・家具等のデータを事前学習させています。建設・景観・装飾に関わる要求事項をチャット形式で入力すれば、それらのデザインが自動生成されるサービス(ALDGPT)を提供しています。

チャット形式で室内の装飾デザイン要望を入力
(実際は中国語で入力)

要望入力で実際に生成された室内装飾デザイン画像

チャット形式で室内の建設デザイン要望を入力
(実際は中国語で入力)

要望入力で実際に生成された建設デザイン画像

出所:壹仟零壹芸ALDGPT(https://www.aldbim.com/design/messages/@aldgpt)を使い、NRI北京にて入力した要求事項(実際は中国語入力)と生成画像

上に示した装飾デザイン・建設デザインは、実際にNRI北京社員がALDGPTに要求入力した結果、出力されたデザインです。この社員は装飾・建設については全くの素人です。素人であってもここまでの精度のデザイン画像が生成できることがご理解いただけたと思います。
ALDGPサービスでは、「建設」「装飾」「景観」など生成するデザインの種類(生成する機能)をあらかじめ分けることで、生成精度を高めていることが特徴です。

このサービスは、日本の不動産業界では、著作権等の問題があり、マンションパンフレット作成に適用するといったレベルまでは直ぐには難しくとも、デザイン会社や広告代理店へのイメージ伝達等には十分使えそうです。
実際に国内でも一部の食品メーカーが、商品パッケージのデザインを発注する際に要望伝達手段として生成画像を利用しているといった事例も出始めています。

事例4:万翼科技有限公司(中国)、CAD図の設計欠陥チェック・レポート自動生成

不動産テクノロジーの研究開発を行う万翼科技有限公司(以下、万翼科技)は、過去の建設図面や建設欠陥情報、各種設計基準や規制基準データを生成AIに事前学習させています。チェック対象となる建設図面を入力すれば、図面上の欠陥を発見し、レポートを自動生成してくれるサービス(AI審図)を提供しています。

建設図面の分析と欠陥チェック

欠陥対象となった箇所例(ドアの駐車スペース干渉)

出所:万翼科技 Webサイト(https://mp.weixin.qq.com/s/RBRUWkZL8L4-I5Rxa6rp7Aおよび36氪Webサイトhttps://baijiahao.baidu.com/s?id=1754238426338190023)よりNRI北京キャプチャ

「AI審図」は、2020年6月に国家住建部(日本における国土交通省)から重点支援プロジェクトに指定されています。そして、2021年1月に、深セン市住建部は、住宅建設に関する図面検査は全て「AI審図」でレビューすることを推奨する発表を行いました。このことにより「AI審図」は、深セン市における実質的なデファクト設計チェックツールとなり、2023年までに1330の企業と660のプロジェクトで利用され、これまでにレビューした設計図面は53万にものぼります。

生成AIユースケースは5つの視点で考える

筆者がクライアント企業とユースケースについてディスカッションした経験上、生成AIユースケースの検討は、5つの視点の掛け算が効率的かつ効果的と言えます。
5つの視点とは、「①できるようになること」、「②DX分類」、「③事業領域・業務領域」、「④保有するデータ」、「⑤現状の課題」です。(図1)

図1:生成AIユースケース検討フレーム

視点①:できるようになること(Input、Process、Output)

まず、ユースケース検討にあたっては、生成AIで「何が変わるのか」「何ができるようになるのか」を理解し、検討メンバー間で共有しておく必要があります。
筆者は、大まかに捉えると生成AIで「できるようになること」は、下記の3点と考えています。(図2)

  1. 「Input」データが非構造データであっても事前学習(pretrained)や引用(paraphrase)が可能なこと
  2. 「Process」が自然言語でも操作可能なこと
  3. 「Output」がゼロから生成(generate)可能なこと

例えば、前述の事例2「対話形式で建設・景観・装飾デザイン画像を生成」は、Processを自然言語で対話的に操作することで、デザイン業務を変革させた事例と言えます。

図2:生成AIでできるようになること(視点①)

視点②:DX分類(事業変革、フロント業務変革、バック業務変革)

生成AIのユースケースは、事業そのものを変革することから、小さな業務タスクを効率化するものまで様々です。
それらを同時に検討すると検討が発散してしまい、収束させることが難しくなります。
NRIでは、DXを「DX2.0」、「DX1.0f」、「DX1.0b」に分類・定義しています。「DX2.0」はデジタルによるビジネスモデル変革を、「DX1.0f」は既存事業における顧客向け活動のデジタル化、「DX1.0b」は既存事業における企業内活動のデジタル化と定義しています。(図3)

図3:DX分類(視点②)

これらを生成AIユースケース検討のフレームに当てはめると頭の整理がしやすいかもしれません。
例えば、「DX1.0b」領域であれば、賃貸借契約書の書面不備の自動チェックなどが考えられます。「DX2.0」領域であれば、生成AIにより住宅賃貸仲介対応を全て自動化し、そのサービスを公開、そのシステム利用料で収益を得るビジネスモデルに転換するといったことも考えられるでしょう。

視点③:適用候補の事業領域・業務領域

ユースケースの検討に際しては、適用候補を絞ることも必要です。大手不動産であればグループ会社も含めて、アセットとしては住宅・ビル・商業施設・物流倉庫などを取り扱い、事業領域としては開発・流通(販売・仲介)・管理を担っていることと思います。また業務領域も契約管理や請求業務、経理処理から人事関連まで様々です。生成AIがどこをターゲットにするかの絞り込みが必要です。

図4:不動産事業のアセット×事業・業務全体図(出所:NRI RE-DXフレームワーク)

なお、筆者は、生成AIの不動産業界での適用は2015年ごろに流行した「不動産テック」と同様、住宅仲介領域から広がると考えています。理由は、不動産事業の中でもアセットを保有しないため比較的変革しやすい事業であることと、一般消費者向けの事業であるために消費者側からの変革要請が強いためです。

視点④:保有するデータ・取得可能なデータ

視点①では、生成AIによってできるようになることとして「1.Inputデータが非構造データであっても事前学習や引用が可能なこと」をあげました。その前提に立つならば、生成AIのユースケースは「データ」からの検討も必要であり有効です。自社保有データとしては、テキストデータであれば「賃貸借契約書」や「業務マニュアル」、トランザクションデータであれば「賃貸借契約データ」や「募集賃料・成約賃料」、その他データであれば「物件図面」や「竣工時写真」などがあると思います。また取得可能なデータとしては、「賃貸募集データ」、「地図データ」などがあり、それらはクロール(収集)が可能です。これらを使って生成AIで何ができるかを考えることが検討における視点の一つです。例えば、前述の事例1「不動産住宅動向レポートの自動生成」は自社が保有・収集可能なデータを上手く活用した例と言えるでしょう。
なお、自社のみが保有するデータを生成AIで活用した場合は、他社との差別化にもなります。また、生成AIを実際の事業や業務で使う場合は、いかに「Goodデータ」(生成AIが解釈可能かつ論理矛盾がないデータ)を大量に集められるかによりその成否が分かれるといっても過言ではありません。

視点⑤:現状の課題

生成AIを活用すれば、現状の業務課題、例えば「賃貸借契約書のチェックに時間が掛かっている」、「テナント賃料請求にルール適用ミスが発生している」といった課題を解決できるかもれません。
また、単なる業務効率化や業務品質向上だけでなく、聴覚障害者や視覚障害者向けに、賃貸契約前の重要事項説明時の「動画生成による手話説明」や「音声生成による重要事項説明(または点字文章の自動生成)」も現状の課題の解決策になるかもしれません。

先行事例

5つの視点に加えて、前述したような事例も参考にすると、より現実的かつ有益なユースケース検討ができます。
本記事では不動産業界の事例を紹介しましたが、他業界の事例であっても「できるようになったこと」や「用途」を正しく理解できれば、参考になります。
例えば、視点⑤で紹介した「重要事項説明の手話動画生成」の例は、中国のテレビ放送(他業界)での手話自動生成の事例に着想を得たものです。

倫理・法規制

最後に、ユースケース検討後に生成AIを実際の事業や業務で使用する場合に忘れてはいけない問題として倫理・法規制があります。例えば、新築マンション販売のパンプレットに生成AIが作ったマンション画像を載せたら、他社のマンションと酷似していた、といった問題や、オープンな環境で生成AIを活用したら、いつの間にか自社の機密データが社外に公開されていた、といった問題も発生する可能性があります。
そのため、実際の事業や業務で生成AIを活用する場合は、使用データや利用環境などを考慮する必要があります。
この生成AIに関する守りの要素(倫理・法規制・ガバナンス・ルール・環境等)は、本ブログの別記事にて詳しく紹介する予定です。

まとめ

いかがでしたでしょうか?今回は、生成AI×不動産業界をテーマに、生成AIの「適用事例」や「ユースケース検討フレーム」について取り上げました。
生成AIを単なる業務効率化だけでなく、他社との差別化に使おうとする場合、先行する適用事例の調査だけでは不十分です。本稿に記載の「ユース検討フレーム」を参考に、自社ならではの生成AI活用ビジネス・業務を生み出していただければ幸いです。

NRIでは、不動産業界やユースケース検討に留まらず、生成AIの適用・導入支援を行っています。生成AIの適用・導入でなにかお困りの際は、ぜひご相談ください。

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