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デザインのチカラで進めるDXプロジェクト

2023/10/12

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執筆者プロフィール

システムコンサルタント 辻 航平:
デザインファームを経て2020年野村総合研究所に入社。これまでUI/UXデザイナーとして幅広い分野におけるデジタルサービスのUI/UXデザインを実践。
新規サービスのデザインコンセプト創出、既存サービスのUI/UXデザイン改善、デザインシステム構築、デザインマネジメントまで一連のデザインコンサルティングに従事。HCD-Net人間中心設計専門家認定。

Q. 今日はよろしくお願いします。まず、ご自己紹介をお願いできますか?
A. 野村総合研究所 システムデザインコンサルティング部の辻 航平と申します。前職ではデザインコンサルティングファームでUI/UX(User Interface/User Experience)デザイナーとして、UI/UXの設計を手掛けていました。現在は、お客様企業がUI/UXデザインを行う際のご支援をしています。今でもPowerPointで資料を作るより、実際に手を動かしてFigma(Figma.incが提供するUIデザインツール)やAdobeで何かを作ることが好きです。
Q. 最近、UI/UXやCXという言葉をよく耳にします。
A. 商品・サービスや業務システムの開発では、これまでは機能や性能が重視されていましたが、今はそれに加えて、ユーザーにとって使いやすいデザインや良い顧客体験を提供することが求められるようになっています。顧客接点であるユーザーインタフェース(UI)とその接点が連なるユーザーの体験(UX)、さらに、それらを包括する提供しているサービス全体としての顧客体験(CX)、さまざまな視点でデザイン活動を実施して提供価値を向上させていくことが求められます。そして、「デザイン」も様々な定義が存在すると思いますが、対象のあるべき姿へワクワク感をもって変えていく行為だと私は考えています。デザインする対象の可能性を見出し、本質的な価値を可視化することでそれに触れた人にワクワクが広がっていく。そのような希望的な力をデザインは持っており、企業はその活動を取り入れて企業が創造する価値を高めていく必要があるのではないでしょうか。
Q. デザインを行う上で、デザイン思考やユーザー中心アプローチという考え方や手法が浸透しつつあると言われていますが、実際の現場ではどのような状況なのでしょうか?
A. それらは、質の高いUI/UXや顧客体験を作り上げるためには、有効な方法です。エンドユーザーが利用するtoC向けサービス、従業員が利用するtoE向けサービスなど、システムを利用するユーザーが存在するサービスを考えるプロジェクトには必須のアプローチと考えるべきでしょう。しかし、そういった手法を採用しているのは、まだ一部の企業にとどまっています。デザインを単なる「見た目」と考える人が依然として多いからです。そのため、デザイナーはコンセプト設計が終わった後、スタイリングの段階になってようやく参加するというプロジェクトも未だにあります。本来であれば、企画の最初の段階であるコンセプト設計からデザイナーが入り、プロジェクトメンバー全員でデザインを考えることが大事です。
Q. デザインはデザイナーが考えるものではないのですか?
A. 見た目だけの話ならそうかもしれません。UI/UXやCXを考える上では、メンバー全員がデザインマインドを持ち、デザイナーのリードのもと、どういうデザインにすればユーザーに対する価値を高められるかを議論することが重要なのです。
ただし、現場では「デザインはデザイナーがするもの」という固定観念が根強く残っていて、メンバーの意識がなかなか切り替わらないのが現状です。企業として、組織の文化や個人のマインドセットを変えていこうという取り組みが必要でしょう。
Q. なるほど。組織文化やマインドセットの変革が求められるのですね。コンセプト設計の段階からデザインを考えることでどのようなメリットが生まれるのでしょうか?
A. 最初からデザインを考えるメリットは、ユーザーの視点に立ったサービスのコンセプトを考える時に、創造的なアイデアが生まれるきっかけを与えてくれることです。デザイン思考では、ユーザーの思いに共感することから入ります。そうすることによって、ユーザー自身も気付いていなかったニーズや課題まで掘り起こし、真にユーザーが求めるサービスのコンセプトを作れるようになります。
Q. 注意すべきポイントはありますか?
A. ユーザー視点を忘れないことです。よくあるのは、最初はユーザーのことを考えていたが、プロジェクトが進むにつれて、サービスの機能や拡張性、業務フロー、実現可能性、コストなどの要素に気をとられてしまい、ユーザー視点が置き去りになってしまう場合があります。「誰のためのサービスなのか」という基本的な視点を忘れないように、開発全体を通して、ユーザーのニーズや課題に向き合い続けることが重要です。
Q. 具体的な事例があれば、紹介してもらえませんか。
A. それでは、新規業務サービスを考えるプロジェクトの事例をご紹介します。私はUI/UXデザイナーとして、コンセプト設計の途中からご支援に入りました。プロジェクトでは「経験が浅い営業担当者」をターゲットユーザーとする社内サービスの開発を目指していました。しかし、カスタマージャーニーとして示されたものは、単に手順を整理した業務フローのようなもので、ユーザーの課題やニーズと結びついていませんでした。
また、機能も総花的で具体性に欠け、メンバーもどこから手をつけるべきか見えていない状況でした。
Q まさに、ユーザー視点が欠けていたということですね。この状況をどうやって解決したのでしょうか?
A. 最初に取り組んだのは、改めてユーザー像を整理することでした。デザイン思考のフレームワークに沿って、ユーザーについての理解を深めていきました。具体的には、ユーザーが何に困っているのかをメンバーに意識させるため、これまでの検討資料やインタビューからユーザーの課題やニーズを抽出し、それをまとめたペルソナ(ターゲットとなる典型的なユーザー像)を作成しました。続いて、それぞれのペルソナの一連の行動や感情を時系列に挙げていき、カスタマージャーニー(サービス認知から利用に至るまでの顧客の旅)を作りました。そして、そのジャーニーの中に課題やソリューションをマッピングしていきました。
次の図は、プロジェクトの中でカスタマージャーニーを、3つのペルソナについて作成した例です。

Q. 具体的な成果や進展はありましたか?
A. ペルソナやユーザー体験を可視化することで、メンバーの間に共通認識が生まれ、サービスの機能の必要性や優先度について、ユーザー視点で考え、議論できるようになりました。続いて、画面のプロトタイプを作成すると、具体的な検討できるようになり、ユーザー視点での議論がどんどん活性化していきました。
Q. デザインを活用することで、よりよいサービスコンセプトを作ることができたのですね。
A. はい。その後、さらに詳細な検討に取り掛かりましたが、検討を進める中で、具体的にどうすればいいのか迷うこともありました。そこで、Figmaでユーザーが実際にシステムを使う際の流れを再現した画面プロトタイプを作成しました。これはユーザーが実際に製品を操作する際の一連の流れを画面上に描き出したもので、実際にユーザーが操作している様子を視覚的に確認することができます。キーとなる画面に関しては複数のパターンをターゲットユーザーに見せて、インタビューを実施し、ユーザーの反応を集めました。具体的なイメージを見せることで、ユーザーを巻き込むことができ、サービスの具体的な姿ができあがっていきました。
次の図は、画面プロトタイプを抜粋した例です。ユーザーは、オフィスではPCで、外出時にはスマホで利用シーンを想定し、一連のフローを可視化しました。紙芝居のように実際にユーザー視点で画面イメージや操作感を確かめることができます。

Q. この事例からどういう気づきがありましたか?
A. 1つ目は、初期段階からデザインを実践することによって、プロジェクトメンバーがユーザー視点で考えるきっかけが生まれ、また、デザイナーと一緒に活動することを通じて意識改革も進んでいくということです。
2つ目は、ユーザー像やサービス体験のイメージを、ペルソナやカスタマージャーニー、画面のプロトタイプという形で素早く可視化することにより、メンバーが同じ方向を向いて具体的な議論ができるようになるということです。
Q. なるほど。初期段階からデザインを実践することで、ユーザーにとっての本質的な価値を見出し、メンバー間での検討やその後の開発をスムーズに進められるようになるわけですね。デザインの役割は他にもありますか?
A. 重要な役割がもう一つあります。目指すべき世界観を可視化し、ストーリーとして伝えることで、プロジェクトについて共通理解や方向性を生み出すというものです。
Q. それは具体的にどういうことですか?
A. あるスマホアプリサービスで起こったことを紹介します。ユーザーの課題や必要な機能を明らかにするための様々な調査や議論に十分な時間をかけたことで、メンバーの間では目指すべき世界観を共有できていました。
次のステップとして、サービスに関する意思決定者に企画内容を説明して、新サービスの可能性を理解してもらい、GOサインをもらう必要がありました。しかし、ここで大きな問題に直面しました。説明資料はほとんど文字ばかりだったのです。これでは、サービスの本質的な価値を作っている世界観を短い時間でわかってもらうことは難しいことは明らかでした。
Q. 確かに、一つ一つの機能は説明できるかもしれませんが、新しい世界観をわかってもらうのは短時間では難しいかもしれませんね。
A. 私がプロジェクトに参加したときは、そんな状況でした。そこで、私は、チームが考えていた体験シーンをユーザーストーリーとして可視化しました。ユーザーが体験するシーンごとに、ユーザーが抱える課題やアプリ画面のイメージを紙芝居のような形でプレゼンテーションにまとめたのです。これにより、意思決定者もユーザーと同じ視点で、サービスを疑似体験することができ、サービスの可能性を理解してくれました。その結果、プロジェクトは次のステージに進むことができたのです。
例えば、上京した娘を心配している母親と、初めての一人暮らしで不安に思っている娘が、お互いのことを思ってギフトを送りあうというユーザー体験をストーリー仕立てで描いくことで、2人の気持ちや行動に寄り添いながら、サービスが提供する価値を、リアリティをもって理解してもらうことができます。

Q. ユーザー体験をストーリーとして可視化することで、サービスの世界観を伝えることができたのですね。
A. ユーザーストーリーの可視化は非常に効果的です。具体的なシーンやストーリーを見せることによって、サービスに関わるステークホルダーに対してもサービスのイメージをリアリティをもって伝えられます。それにより、彼らの興味を引き付け、サービスが作り出す世界観に共感してもらうことができるのです。
Q. ご紹介いただいた2つの事例を通じて、文字では伝えることが難しいサービスのコンセプトや世界観を、絵やストーリーとして可視化することは、プロジェクトの成功のカギとなることが分かりました。
A. 私は、デザインが持つ力を信じています。デザインは、最初に感じた「ワクワク感」を形にすることができます。様々な意見や事情によって、ワクワク感が失われていくこともあるかもしれません。しかし、デザインはワクワク感を呼び起こし、多くの人に共感してもらうことができる強力な武器なのです。

デザインは、サービス開発だけでなく、ビジネスの様々な場面で力を発揮します。私はUI/UXデザイナー兼コンサルタントとして、皆様と一緒に、ワクワク感を広げていけるよう、ご支援できたらと思っています。ご興味を持っていただけたら、ぜひご相談ください。

執筆者情報

  • 辻 航平

    システムデザインコンサルティング部

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