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全人代を読む:中国「国家データ局」設立の狙い

2023/03/17

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3月7日に開かれた中国の全国人民代表大会の会議では、国務委員兼国務院秘書長肖捷氏が国務院機構改革案を説明した。多くの省庁が統廃合され、国内外から大きく注目された。科学技術のイノベーションを促進するために、科学技術部を再編することを機構改革案のトップとして打ち出した。科学技術の国際競争の激化や外部からの先端技術の輸出規制という厳しい状況に直面し、科学技術の指導と管理システムをさらに合理化する必要があるとの中国指導部の危機感の表れでもある。こうした背景の中では、省庁レベルで唯一新設した機構は、「国家データ局」である。その設立趣旨について、肖捷氏の改革案の中では、データ資源とデジタル経済の重要性を強調したうえ、データの利活用の促進やそのための分野横断的な相互接続と相互運用の推進、デジタルインフラの配置と構築の推進と記している。

中国「国家データ局」設立の狙い

「国家データ局」設立の狙いについて、筆者は以下のように分析する。

① データをデジタル経済発展の要と位置付ける戦略的な布陣

中国では、データは、土地、労働力、資本、技術に加え、もう一つの重要な生産要素と位置付けられる。米国調査会社のIDCによると、中国では2025年までに48.6ZB1のデータが生成され、世界全体の27.8%を占めると予想している。データの国内総生産(GDP)成長への寄与は年平均1.5~1.8%ポイントになると予想されている。データをデジタル経済発展に必要不可欠な要素とし、その戦略的価値がますます重要になってきている。
今回「国家データ局」は、国務院の中核組織の「国家発展改革委員会」の配下に置かれる設計となっている。従来「中央サイバーセキュリティと情報化委員会弁公室」が担ってきたデジタル中国の建設立案、デジタル社会ガバナンスやデータ資源の利活用等の役割と、「国家発展改革委員会」が担ってきたデジタル経済発展やビッグデータ戦略の推進等の役割を統合する形となっている(図1)。周知の通り、国家発展改革委員会は、中国の経済政策全般の立案から指導までの責任を負う組織であり、各産業の管理監督や公共事業の認可など経済政策全体に強い権限を有している。その配下とすることは、データ安全等の守りの役割よりも、経済を発展させる役割のほうをより重視することを意味する。

図1:国家データ局の組織設計

出所:新華社の発表資料よりNRI作成

② データ戦略の実行役として権限を集約させる

中国は2022年12月に「データ要素をより活用するためのデータ基本制度の構築に関する意見」(通称「データ二十条」)を発表した。データの「価値化、資源化、資産化、資本化」という戦略を打ち出し、国主導でデータの権益確定、流通、取引、価値化を推進しようとしている。国家データ局は、この戦略の実行役として、データ取引の制度設計や、データインフラの構築に対する国の支援を充実させ、データ産業の発展を促進することを担うとともに、集約される権限を活用してデータのサイロ化を打破し、データ統合を実現させることである。
2015年9月、国務院は「ビッグデータの発展を促進する行動綱要」を発表し、ビッグデータが正式に国家戦略のレベルに引き上げられた。そこから数年間、北京、天津、広東、浙江、山東、貴州など十数省・市の地方政府が次々と独自のビッグデータ管理機関を設置した。それぞれの報告先と役割が異なっており、地域間でのデータ連携がうまくいかないという課題が露呈している。例えば、北京は2018年11月に「北京市ビッグデータセンター」を設立したが、これは北京市経済情報化局の配下にある。天津の「ビッグデータ管理センター」は、天津市党委員会インターネット情報弁公室の配下にある。 今回は、国家レベルで指揮系統を統一することにより、今後各地域でのデータ連携をより進めやすくする狙いもある。

国家データ局の主な役割

政府の発表から、国家データ局は主に以下二つの役割がある。

① データ要素基本制度の構築

一つ目の役割は、データ要素基本制度の構築を通じ、データ資源の発掘とデータの効率な流通の推進、社会ガバナンスや産業経済における実応用に立脚した革新的なデータ利活用を実現することである(図2)。その中心となっているのは、データの流通・取引制度の構築である。2020年頃から、中国ではデータ取引市場の育成に関する動きが活発となっている。2021年3月31日に北京国際ビッグデータ取引所、11月25日に上海データ取引所、2022年11月15日深センデータ取引所等、主要都市でビッグデータ取引所が相次いで開設された。 上海データ取引所の取引開始初日には、金融、通信、交通など8つの分野の20種類のデータ商品が取引された。その代表事例は、中国工商銀行上海支店と国家電網上海電力が電力データ商品に関する取引だ。このデータ取引により、銀行が電力情報などの公共データを活用してより正確な融資判断を可能にするが期待され、データの民間事業への活用が一歩踏み出した。また、深センのビッグデータ取引所は、設立2か月未満で、464件計 12億元(約240億円)の取引額を達成した。国家データ局の設立により、このような制度設計及び実装がさらに加速すると見込まれる。

図2:中国のデータ要素基本制度の制度設計

出所:NRI・中国信息通信研究院国際共同研究成果よりNRI作成

② デジタルインフラの建設

デジタルインフラとは、5G、AI(人工知能)、IoT、産業インターネット、クラウド・コンピューティングなどのデジタル経済と密接に関連するインフラのことで、従来の鉄道、高速道路、空港といった伝統的なインフラと区別し、ハイテク、スマート化、デジタル化という特徴を持つ。
この中では、人工知能産業の発展に欠かせないデータとコンピュータの計算と処理能力の整備が重要視されている。中国は、2025年までに、「東数西算」プロジェクト2等を通じ、データとネットワークの連携、データとクラウドシステムの連携などを実現し、電力や水道と同様、計算能力をオンデマンドで提供できるようにすることを目指している。国家データ局は今後このような国家プロジェクトの推進役として活躍されると見込まれる。

中国国家データ局の設立について、日本では「データ安全の強化」、「IT企業への規制強化」と解釈していることが散見される。図1で分かるように、「データ安全の強化」機能は、中央サイバーセキュリティと情報化委員会弁公室より国家データ局に移管していない。上記の解説通り、国家データ局の設立は、中国が持つビッグデータの優位性を発揮し、IT企業と協力して、デジタル経済のさらなる発展及び新しい国家競争力の構築を目指す戦略的な布陣である。

  • 1  

    データ量を示す単位。1ゼタバイトは1021バイト(10の21乗倍)。

  • 2  

    「東数西算」とは、中国のデータセンターの分散配置方針であり、その詳細は、「デジタル経済発展の要となるデジタルインフラ」(知的資産創造2022年2月号)ご参照ください。

執筆者情報

  • 李 智慧

    未来創発センター
    グローバル産業・経営研究室
    エキスパートコンサルタント

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