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日米金融政策の観測が交錯する年明け後の為替市場

2024/01/09

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年明け後の為替市場はドル高円安の流れに

年明け後の為替市場は、日米の金融政策に関する観測が交錯する中、比較的大きく変動した。ドル円レートは1月2日のオセアニア市場で、1ドル140円台で始まった後にドル高円安の流れが徐々に強まり、1月5日の米国12月分雇用統計発表後には1ドル146円直前までドル高円安が進んだ。

年明け後のドル高円安の流れを形作ったのは、2024年の米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げについて、慎重な見方が浮上したことだ。また、それを後押ししたのは、1月4日にFRBが発表した昨年12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨だ。

そこでは、政策金利はピークにある可能性が高く、2024年中に利下げが開始されるとの認識が示される一方、景気抑制的な政策スタンスを「当面」維持するのが適切、との見解で一致したことが確認された。

他方で、追加利上げの可能性はなお排除されていない中、数人のFOMC参加者は、現在想定されているよりも長く政策金利を据え置く可能性がある、と指摘している。「利下げを議論した」と発言した昨年12月のFOMC後の記者会見でのパウエル議長の発言を受けて、金融市場は2024年に6回程度の利下げを織り込んだ。しかし、この議事要旨の内容は、市場の利下げ観測を幾分後退させ、ドル高円安の流れを形作ったのである。

雇用者数は事前予想を上回るが雇用統計はミックスの内容

利下げ観測をさらに後退させることになったのは、1月5日に公表された米国12月分雇用統計だ。それは、米国の労働市場がなお良好であることを示唆するものとなった。

失業率は3.7%で前月比横ばいのなか、非農業部門雇用者数は前月比21.6万人増となり、事前予想の平均値17.5万人増を大きく上回った。医療、政府、建設、娯楽・ホスピタリティなどで雇用の増加が目立った。他方で、時間当たり賃金は前月比+0.4%と、事前予想の同+0.3%を上回った。

しかし、この統計の中には雇用情勢の悪化を示唆する指標も多くみられており、労働市場が徐々に冷えこんでいることも確認されたと言えるだろう。労働参加率(生産年齢人口に占める労働力人口(就業者+完全失業者)の割合)は0.3ポイント低下の62.5%と、実に約3年ぶりの大幅低下となった。同参加率は、比較的若い世代と中高年齢層で特に下げた。また失業者が仕事を探す期間は長期化し、家計調査に基づく雇用者数は前月比68.3万人減と2020年4月以来の大幅減少となった。

非製造業の景況感は下振れ

ところが、雇用統計の直後に発表された12月米ISM非製造業指数は予想外の大幅低下となり、雇用時計を受けて浮上した景気の楽観的な見方は再び修正されたのである。指数全体は前月比2.1ポイント低下の50.6となり、また雇用の指数は7.4ポイント低下し、43.3と2020年7月以来の低水準に達した。1月3日に発表された12月のISM製造業総合景況指数が14か月連続で50未満の縮小圏に留まったことと合わせ、米国経済の先行きに不安を生じさせた。

12月米ISM非製造業指数を受けて、再びFRBの利下げ観測が強まり、ドル円レートは1ドル143円台までドル安円高に振れた。

地震が金融政策に与える影響は小さい

一方日本では、1月1日に発生した能登半島地震が日本経済に与える影響について懸念が生じ、それが日本銀行のマイナス金利政策解除の時期を遅らせるなどの観測を金融市場で生じさせた。年初来のドル高円安の流れは主に米国の金融政策の見通しの修正によって生じたものであるが、一部はこうした日本側の要因によるだろう。

ただし実際のところは、能登半島地震が日本経済に与える影響はそれほど大きなものではなく(コラム「能登半島地震による経済損失について考える」、2024年1月5日)、そのため、日本銀行の金融政策に与える影響も小さいと考えられる。

金融市場では、地震の影響で日本銀行が1月の次回金融政策決定会合でのマイナス金利政策解除を先送りすることを余儀なくされるとの見方もあるが、そもそも地震とは関係なく、1月の会合でマイナス金利政策が解除される可能性は低いと考えられる(コラム「1月政策修正観測を冷やした日銀総裁記者会見:チャレンジング・ショックは終息:FRB利下げ前に動くのは不適切:政治混乱は政策の自由度を高める」、2023年12月19日)。

日本銀行のマイナス金利政策解除の時期は後ずれへ

日本銀行がマイナス金利政策を解除する時期は、最短では今年4月の会合だろう。3月中旬に春闘での主要企業の賃上げを確認したうえで、展望レポートで新たに2026年度を含む物価見通しを示すことができるのが、この4月の会合であるからだ。

しかし筆者は、マイナス金利政策解除の時期はさらに先送りされる可能性を見ており、2024年10月の決定会合でのマイナス金利政策解除を現時点でのメインシナリオと考えている。

春闘での賃上げが、2%の物価目標達成を実現するほどの水準に達しないこと、金融市場が3月のFOMCでの利下げを半分程度の確率で織り込む中、FRBが利下げに動く際、あるいはそうした期待が市場で高まる際には、日本銀行は円高リスクに配慮してマイナス金利政策解除には動けないと考えられることが理由である。

日本銀行は、FRBの利下げが一巡するのを待ってからマイナス金利政策解除に動くのではないか。現在、FOMC内で予想されているのは、2024年中に3回程度の利下げである。その場合には、日本銀行は今年10月の会合でマイナス金利政策解除に動くことが可能となる。他方、金融市場は2024年中に6回程度の利下げを予想しているが、その場合には、利下げ観測は年内いっぱい続き、日本銀行のマイナス金利政策解除は2025年に先送りされるだろう。

2024年は日米の金融政策の方向性の違いから緩やかな円高の流れに

FOMCが予想する2024年3回程度の利下げは、インフレリスクが低下する中、金融引き締めの程度を多少緩める微修正を意味する。他方、金融市場が予想する6回程度の利下げは、米国景気の減速傾向がより明らかになり、景気支援のための利下げという要素を含んでいよう。2024年のFRBの利下げ幅の鍵を握るのは、やはり今後の米国経済の動向である。日本銀行のマイナス金利政策解除も、その影響を強く受けるはずだ。

それでも、FRBが2024年中に利下げに踏み切る可能性は高い一方、2%の物価目標達成が見通せるかどうかは別にしても、日本銀行がマイナス金利政策解除など正常化を志向していることは変わりなく、2024年の為替市場はそうした日米の金融政策の方向性の違いから、ドル安円高となりやすいと見る。2024年末時点で1ドル130円~135円と比較的緩やかな円高進行を予想する。

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