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イスラエル、イランが初めての直接交戦:中東情勢緊迫化エスカレーションのリスク

2024/04/22

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イスラエルとイランは歴史上初めて直接戦火を交えた

イスラエルとイランとの間で報復の応酬が続いている。4月1日には、イスラエルによるとみられる、在シリア・イラン大使館への空爆が行われた。同国革命防衛隊の精鋭部隊「コッズ部隊」の将官ら13人が死亡した。これへの報復としてイランは13日に、ドローンや弾道ミサイルなど300発以上をイスラエルに向けて発射した。

そして19日には、イラン中部イスファハンでイスラエルによるとみられる報復攻撃が行われた。イスファハンの空軍基地近くで爆発音が聞こえ、また上空ではドローン3機が防空システムにより破壊されたという。

イスラエルとイランの対立は、1979年のイラン革命で反米政権が成立して以来、45年間続いている。しかし両国は、今まで互いに直接戦火を交えることは避けてきた。

ただしイランは、中東諸国に広く分散している親イラン勢力を使って、イスラエルを間接的に攻撃してきたのである。レバノンのシーア派組織ヒズボラ、イエメンの武装組織フーシなどが代表的であり、パレスチナ・ガザ地区を実効支配するハマスもまたイランと密接な関係にある。昨年10月のハマスによるイスラエルへの攻撃は、イランの指示によるものとイスラエルは考えている。

4月13日のイスラエルによるイランへの攻撃により、両国はお互いの領土を直接攻撃する新たなエスカレーションの局面に入った。

イランの核施設を標的にしなかった

4月13日のイランへの攻撃について、イスラエルは正式なコメントを出していない。その実態については、米国のメディアの報道によって明らかになった。

米ABCニュースは19日に米政府高官の話として、今回のイスラエルによる攻撃は、イランのイスファハン近郊ナタンツにある核施設を防護するレーダー設備が標的だったと報じた。イラン国外からイスラエルの戦闘機がミサイル3発を発射したとされる。

他方、米CNNテレビは、標的になったとされるイスファハン近郊の空軍基地では目立った被害はなかったと報じている。これは、衛星画像の分析によるものだ。

米ABCニュースによると、今回のイスラエルによる攻撃の目的は、イスラエルが核施設を損傷させる能力があることをイランに伝えることにあったと報じている。米紙ニューヨーク・タイムズは19日に複数の米政府関係者の話として、イラン攻撃前に米政府がイスラエルに対し、死傷者を極力出さない作戦にとどめるよう促していたと報じている。

イラン革命防衛隊幹部は18日に、イスラエルがイランの核施設を攻撃すれば、イスラエルの核施設を「最新兵器で攻撃する」と警告した。イスラエルは今回の攻撃で核施設を標的にしなかったのである。

両国ともにさらなる対立激化を望んでいない

イラン国営メディアによると、イランのアブドラヒアン外相は19日に、イスファハン上空で3機のドローンを迎撃したとし、被害はなかったと主張している。

イランが13日に、ドローンや弾道ミサイルなど300発以上をイスラエルに向けて発射したことと比べると、今回のイスラエルによる報復とみられる攻撃は、かなり抑制的なものと言えるのではないか。

他方でイランも、イスラエルによる攻撃を受けたとは説明していない。そして、イランはイスラエルに報復する計画はないとの報道もあるこうした点を踏まえると、イランによるイスラエルへの再報復は、直ぐには実施されないと考えられる。両国ともに、事態を大きく悪化させることを避けたいとの自制が明確に見られる。

なお残るエスカレーションのリスク

19日の金融・商品市場は、イスラエルによるイラン攻撃の報道で大きく変動した。攻撃の報道が伝わると、中東からの原油供給に悪影響が出るとの見方から原油価格が大幅に上昇した。WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物価格は、一時1バレル86ドル台まで上昇した。その影響もあり、日経平均株価は一時1,300円超の大幅下落となった。

しかしその後は、イスラエルの攻撃が限定的との見方が広がり、また、イランによる報復はなされないとの見方から、WTIの価格は下落に転じ、一時は82ドルを割り込む場面もあった。また、日本株以外の下落幅は比較的限定的であった。

19日の日本株の大幅下落は、中東情勢の緊迫化が引き金になった面はあるものの、その底流には、行き過ぎた金融緩和による過度な株価の上昇の調整、という側面が強かったのではないか(コラム「日本株急落:従来と異なる円安下での株価下落」、2024年4月19日)。

市場の混乱は比較的短期間で収束に向かったが、それでも、イスラエルとイランが初めて戦火を交えた意義は大きく、事態はエスカレーションの方向にあることは疑いはない。イランが、他国の新イラン勢力を使ってイスラエルに報復する可能性もあるだろう。 再び両国間の軍事的対立が強まり、イランが米国などへの打撃を念頭にホルムズ海峡の封鎖の可能性を示唆すれば、原油価格は高騰し、世界経済や金融市場に大きな打撃を与えるリスクは常に存在する。

(参考資料)
「イスラエルの標的は「イラン核施設のレーダー設備」か 米メディア」、2024年4月20日、毎日新聞速報ニュース
「イスラエル、イランを無人機で攻撃 核施設は標的とせず」、2024年4月19日、日本経済新聞電子版
「イランとイスラエルなぜ対立? 敵対45年で初の直接攻撃」、2024年4月15日、日本経済新聞電子版

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