日本銀行は次回会合で国債買い入れ減額計画を決定:日本銀行の円安恐怖症
次回7月の会合で、後1~2年程度の国債買い入れの減額計画を決定
6月14日に開かれた日本銀行の金融政策決定会合で、日本銀行は、次回7月の会合で、今後1~2年程度の国債買い入れの減額計画を決定すると発表した。金融市場では、今回の会合で具体策が決定されると、事前に広く予想されていたことから、金融市場は今回の決定に肩透かしにあった形だ(コラム「日本銀行は国債買い入れ減額へ」、2024年6月13日)。
3月の会合で日本銀行は、長期国債の買い入れを毎月6兆円程度のペースで行う方針を示していた。この6兆円は長期国債の償還のペースに概ね見合ったものであり、そのもとで、日本銀行の長期国債の保有額は概ね一定に維持されてきた。
ただし、5月に日本銀行は、定例の国債買い買い入れオペで買い入れ額を減額した。その影響などから、5月の長期国債買い入れ額は4.5兆円ペースまで低下した。その結果、保有国債の残高も減り始めていた。国債買い入れの減額計画は、こうした現状を追認する性格のものでもあり、金融市場にはサプライズではない。
円安への配慮が滲む決定
今回の会合では、とりあえず減額の方針を頭出し、減額への期待を持続させることで、日本銀行は円安けん制を狙ったように見える。今回具体策まで打ち出せば、材料出尽くしで円安がさらに進んでしまうリスクを意識した可能性もあるのではないか。
前回会合では、政策変更が見送られ、また総裁の記者会見での発言が、円安容認と受け止められたことで、その後1ドル160円まで円安が急速に進んだ。その結果、円安を警戒する政府と日本銀行の間で軋轢が生じたとも報じられている。こうした経験を踏まえ、同じ失敗を繰り返さないことを強く念頭に置いたのが今回の決定のようにも見える。
追加利上げは9月か
次回7月の決定会合で、日本銀行が具体的な国債買い入れの減額計画を公表するのであれば、同じタイミングで追加利上げを実施することは控える可能性が考えられる。追加利上げの時期は、最短で今年9月の決定会合と引き続き見ておきたい。
国債大量保有の弊害は大きい
3月のマイナス金利政策解除時に、日本銀行は「短期金利を主たる政策手段とする」と宣言した。長期国債の買い入れ増減は、金融政策の主たる政策手段という位置づけではなくなり、経済・物価情勢の変化に合わせて長期国債の買い入れを増減させるような政策は行わない、と日本銀行は説明している。
日本銀行が大量に国債を保有し、バランスシートが肥大化している状況には、国債市場を歪める、財政規律を緩める、短期金利引き上げとともに日本銀行の民間銀行への利払いを拡大させ日本銀行の財務を悪化させる、といった深刻な問題がある。そのため、日本銀行は長期国債の買い入れを減額し、保有国債の残高を削減していく方向を目指していることは間違いない。
国債買い入れの「柔軟な枠組み」としての機能は維持されるか
しかしながら、急速な保有国債の残高の削減は長期金利を大きく押し上げ、景気に悪影響を与えるリスクもあるため、慎重な対応も求められる。次回の会合で決定される減額計画は、本格的な量的引き締め(QT)と言えるほどの急速な国債残高の削減にならないと見ておきたい。本格的なQTは、短期金利の引き上げが一巡した後になるのではないか。
米連邦準備制度理事会(FRB)の政策正常化の例を踏まえると、長期金利上昇リスクなどに配慮し、国債需給の激変を避けるために償還分の半分程度を再投資し、比較的緩やかに残高削減を進めることが、日本銀行の場合についても予想されるところだ。その場合、現時点では毎月3兆円程度のペースまで、長期国債の買い入れ額を一気に減少させることになるが、その可能性は低いだろう。短期金利の引き上げと本格的なQTを同時に進めることは、長期金利を上昇させてしまうなどリスクが高い。日本銀行が敢えてそうした大きなリスクを取る必要性、緊急性はないのではないか。
他方で、経済・物価情勢、金利動向、為替動向に合わせて長期国債の買い入れ増減を微調整するといった、「柔軟な枠組み」としての機能は維持されるのではないか。短期金利はこの先緩やかに引き上げられていくだろうが、急速に引き上げることは経済、金融市場への影響、政治や世論の反応を踏まえれば、簡単ではない。また、環境が変化しても短期金利を引き下げる余地はまだない。そこで、環境次第で長期国債の買い入れを増減させ、長期金利の変化を通じて経済・物価、為替に影響を与えるという柔軟な政策の機能を、日本銀行はしばらく保持するとみておきたい。
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