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連日の為替介入観測、米国利下げ観測で歴史的円安の終わりが見えてきたか

2024/07/16

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連日の為替介入実施の可能性

米労働省が米国時間7月11日(木)に発表した米国6月CPIは、事前予想を下回り、物価上昇圧力が着実に低下していることを裏付けるものとなった。この統計を受けて、米連邦準備制度理事会(FRB)が9月に利下げするとの見方が強まり、為替市場はドル安円高に振れた。

このタイミングを捉えて、日本政府は「円押し上げ介入」を実施した可能性が高いとみられる。短期間のうちに1ドル161円台後半から157円台まで4円以上もドル円レートが動くのは、通常の取引では考えられず、政府による為替介入が強く疑われる状況だ(コラム「米国6月CPIの下振れで金融市場はFRBの9月利下げをほぼ確信:日本政府は円押し上げ介入を実施」、2024年7月12日)。3兆円程度のドル売り円買い介入が行われた、との観測もある。

米国時間12日にドル円レートは、1ドル158円台後半から10分程度のうちに1ドル157円30銭台まで円高ドル安に振れた。前日ほどの大きな動きではなく、可能性が極めて高いとまでは言い切れないが、日本政府が連日ドル売り円買いの為替介入を実施した可能性が考えられる。

歴史的な円安は1ドル160円~165円で終焉か

2022年からの歴史的な円安の動きは、最終局面に近づいていると考えられる。為替介入の効果は一時的ではあるが、米国でFRBの利下げ観測が強まるというファンダメンタルズの大きな変化が生じていることが、円安を食い止める効果を生じさせている。

実際に、FRBが9月に利下げに踏み切ることを金融市場が確信すれば、ドル円レートは円高の流れに転じるきっかけとなるのではないか。そこに至るまでにはなお多少の時間があるが、それまで、政府の為替介入と日本銀行の円安けん制によって、時間稼ぎを行うことは可能だろう。

為替介入の効果が徐々に剥落する中、ドル円レートが再び1ドル160円台に乗せる可能性は十分に考えられるが、165円に到達する可能性はかなり低下したと見ておきたい。1ドル110円~115円から始まった歴史的な円安は、1ドル160円~165円までの約50円の幅で終焉するものと予想される。

日銀の追加利上げは最短で9月との見方は変わらず

円安の流れに歯止めがかかる中、7月の金融政策決定会合で日本銀行が円安阻止も狙って、追加利上げに踏み切るとの観測が、幾分後退している。

筆者は今回の円高方向への為替の変動がなくても、日本銀行の追加利上げの時期は最短で9月と考えていた。為替変動後もその見方に変化はない。日本銀行が9月に予想されるFRBの利下げまで円安の牽制効果を維持するには、政策を小出しに打ち出すことが有効であり、7月の決定会合で発表される国債買い入れ減額の具体策に追加利上げの実施を重ねることは避けるのではないか、と引き続き考えている。

円安がもたらす日本経済の2極化

現在、日本経済は2極化状態にある。グローバル企業を中心に企業の収益環境は良好だ。それを映して、株式市場も概して堅調である。他方、個人消費はかなり弱い状況にある。こうした2極化をもたらしている大きな要因が円安だろう。

円安はグローバル企業の収益を改善させ、株価を押し上げる。また、円安による物価上昇観測は、実質金利を押し下げ、株高やさらなる円安を促す。他方、円安による物価高懸念は、賃金上昇傾向が高まる中でも個人の消費マインドを悪化させている。

歴史的な円安の流れが終わり、円高の流れに変わるのであれば、こうした2極化は逆方向へと転じ、個人消費は回復に向かう一方、株価は上昇しにくくなるだろう。

急速なドル安円高のリスクも

ドル高円安が緩やかに修正されていくことは、個人消費を中心に日本経済にはプラスだ。しかし、FRBの急速な利上げによって進んだ大幅なドル高が本格的に修正される場合、緩やかな修正になるとは限らない。

この先、米国景気の減速が強まり、より急速な利下げ観測が浮上する場合、あるいは11月の大統領選挙でドル安を掲げるトランプ前大統領が再選される場合には、急速なドル安円高が生じる可能性がある。

その場合、急速な円高が日本のグローバル企業の収益を悪化させ、また日本の株価の大幅な下落を通じて、日本経済を悪化させてしまうリスクもある。

日本経済にとって望ましい、秩序だった緩やかな円安修正が起こるのかどうかは、保証されてはいない。

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