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自民党新総裁に石破氏が選出:地方創生を中核に据えた成長戦略の推進に期待:財政・金融政策の正常化も後押しか

2024/09/27

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金融市場は円高・株安に反応

9月27日に行われた自民党総裁選では、決選投票で石破氏が高市氏を破って新総裁に選出された。10月1日の臨時国会で首相に選出される予定だ。

この決定を受けて、金融市場では円高、株安、債券安が進んだ。特に先物市場での株価の下落は顕著だった。ただし、これを持って株式市場は石破政権をネガティブに評価しているとは言えないだろう。あくまでも短期的な反応に過ぎない。

金融市場が事前に、日本銀行の利上げに反対する一方、積極財政を掲げている高市氏の勝利を織り込んでいたことの反動という側面が強いだろう。株式市場としては、石破氏が金融所得課税の見直しに言及したことや、法人税、所得税の一部増税に言及していること、財政健全化を掲げていることから、それらが経済や株式市場に悪影響を与えないかどうかを懸念している面があることは確かだろう。しかし、全体的には安定した経済政策運営をしてくれるというプラスの期待感の方がその懸念に勝るのではないか。

石破氏が掲げる一部の増税策は、余裕のある企業、個人に負担を求めることで、財政や社会保障制度の持続性を高め、弱者をより支援することができるというリベラルな発想に根差しているように見受けられる。石破氏自身も「経済あっての財政」として、経済に配慮して財政の健全化を進める考えを示している。

日本銀行は金融政策の自由度を維持

石破氏は、個人消費に打撃を与える物価高の一因である円安を修正する観点からも、日本銀行の利上げを支持している。さらに、日本銀行の独立性を尊重する姿勢だ。これらは日本銀行にとっては歓迎すべきものだ。石破政権の下で、日本銀行は金融政策の自由度を維持し、自らの判断で正常化を進めていくことになるだろう。

政府の政策ではないが、日本銀行の金融政策の正常化による円安修正こそが、弱さが目立つ国内消費の回復を助ける、短期的には最も重要な経済政策となるのではないか。

この先、日本銀行の金融政策の正常化を制約する可能性があるのは、政治的な圧力ではなく、円高進行による物価見通しの上振れリスクの後退、あるいは下振れリスクの上昇、米国経済の下振れ、などだろう。

物価高対策、経済対策はピンポイントで

石破氏は、物価高によって国民生活が圧迫されていることを踏まえ、追加の物価高対策、経済対策の必要性に言及している。この点から、新政権のもとで、秋には補正予算編成を伴う経済対策・物価高対策が打ち出されることが予想される。能登地方の災害も、補正予算編成を後押しすることになるだろう。

これこそが、新政権の財政政策姿勢を占う、最初の試金石となるのではないか。石破氏は弱者支援のリベラルな考えが強い一方、財政健全化を重視していることを踏まえると、バラマキ的な政策にはならないのではないかと想定される。低所得者や零細企業を集中的に支援する形の補助金制度に修正されていく可能性もあるのではないかと考えられる。仮にそうなれば、望ましいことだ。

アベノミクスの総括が必要に

一般に、新たな政策を検討する際には、過去の政策の功罪をしっかりと検証することが必要だ。しかし長きにわたって大きな影響力を持ってきたアベノミクスについては、岸田政権、菅前政権共にその評価を避けてきたように見える。石破政権には、アベノミクスの総括を是非行って欲しい(コラム「自民党総裁選ではアベノミクスの功罪の評価を」、2024年8月30日)。実際、石破氏は、アベノミクスの功罪の検証をすることが必要と主張している。

アベノミクスとは、第2次安倍晋三内閣が打ち出した経済政策であり、デフレからの脱却を目的として大胆な金融政策(第1の矢)、機動的に財政政策(第2の矢)、民間の投資を喚起させる成長戦略の実施(第3の矢)からなる。このうち第3の矢は重要な政策であることは疑いがない。

他方、本来は第3の矢を側面から支える裏方の役割であるはずの第1の矢、第2の矢が、むしろ前面に出てしまい、しかも長期間実施されたことがアベノミクスの大きな問題点だったと思う。主客が逆転してしまったのである。

行き過ぎた金融緩和の一つの弊害は、急速な円安という形で表面化している。日本銀行は今年3月から金融政策の正常化に着手している。それによって円安は修正されつつあるとみられるが、既に見たように、石破氏はそうした日本銀行の政策を支持している。

石破氏は8月7日に発行した著書「保守政治家 わが政策、わが天命」(講談社)の中で石破氏は、「『アベノミクス』」とは一体何だったのか、その功罪についてきちんと評価すべき時期が来たのではないでしょうか」と述べている。

また石破氏は、問題は、禁じ手でもあった異次元の金融緩和を「延々と10年続けてしまったこと」であり、その結果、「国家財政と日銀財務が悪化」したとしている。金融緩和については、「アベノミクスの3本の矢であった成長戦略につながる構造改革を大々的に実施して、生産性の向上を図ることこそが、日本経済の病に対する治療法だったのではないでしょうか」としている。

さらに、「日銀財務の悪化、財政規律の麻痺、銀行の体力低下などマクロ的な危機にどう対処するか」、「経済財政諮問会議から一歩進んだ組織を常設して、いわゆる経済安全保障に加えてマクロ経済運営について危機に備えた体制を作っておくべきだと思います」と、新たな組織の創設も提言している。

アベノミクスについての評価は、自民党内でも様々であろうが、日本経済の再生に向け新政権下で経済政策をしっかりと前に進めるためには、石破氏には公約通りに、まずアベノミクスの功罪の検証を進めて欲しい。

財政健全化の重要性

日本銀行が金融政策の正常化に踏み出す中、財政政策の正常化の動きは明確でない。財政環境悪化、政府債務の増加は、将来世代の負担の増加をもたらし、企業の先行きの成長期待を下げてしまうという弊害を生むだろう。

財政再建を短期的に実現することは難しいが、まずそうした方向性を確認し、自民党内で共有することが重要だろう。また財政再建が後戻りしないような制度、法律などの仕組みを作ることも検討されるべきだろう。さらに、経済の成長力を高めるように政府支出の中身を吟味する「ワイズスペンディング(賢い支出)」の考え方は、成長力向上にも資するものであり、それは税収増加を通じて財政健全化にも貢献することが期待されるところだ。

既に見たように、石破氏は財政健全化の方針を打ち出している。総裁選では、財政支出を拡大させることで、成長率が高まれば、税収も増加するため、増税を実施することなく財政再建が進むといった楽観論も出されたが、過去にはそのような議論が続けられる中、財政環境は一方的に悪化を続けてきたという事実を重く受け止める必要がある。財政再建は、歳出抑制、増収、成長力強化の3点をバランスよく進めることで実現を図るべきだ。

成長戦略の更なる推進に期待

石破政権の経済政策では、アベノミクスの第3の矢に相当する、企業の投資を引き出すような成長戦略の推進を最も期待したい。それこそが、労働生産性の上昇、実質賃金の上昇を通じて、国民生活の改善につながるのである。

石破氏は、地域創生、地方経済の活性化を長らく掲げており、それが石破政権の成長戦略の中核となるのではないか。

石破氏が9月10日に公約を発表した際には、冒頭で「地方における可能性を最大限に引き出していく。もう一度、地方創生の原点に立ち返る」と決意を語った。また別の場では、「いつの時代も国を変え、歴史を変えるのは地方であり、庶民、大衆だ。地方には大きな可能性がある」と地方の重要性を改めて熱く語っている。

石破氏は、「地方創生2.0」構想を掲げる。次世代インターネット技術「Web3.0」を活用して地域間の情報格差をなくし、地方への企業進出を後押しする。デジタルと地方創生の組み合わせで、東京一極集中の是正を実現する構想だという。

石破氏は、「農業、漁業、林業、サービス業に活性化を促し、雇用と所得を創出することが肝要だ」とも強調している。また、地方の人口減対策として婚姻率を上げる重要性を指摘する。地方に、結婚適齢期の女性が男性よりも少ない点を問題とし、「若い女性に選ばれる地方とは何かということに絞ったプロジェクトの展開を図りたい」と女性目線で地方創生を語るという独創性を持っている。

石破氏は、地域経済活性化、少子化対策、東京一極集中是正という3つの成長戦略を統合したパッケージの構想を抱いているようにも見える。つまり、「地方創生2.0」、「農業、漁業、林業、サービス業活性化」を通じて地域経済を活性化し、若い女性に選ばれる地方を作る。それによって、若い女性が東京に流れずに地方に残るようにし、地方主導で出生率を高めるといった姿だ。こうした施策は歓迎するところであり、今後もさらなる具体策の肉付けに期待したい。

他方で、石破政権には岸田政権の成長戦略も是非引き継いでほしい。それらは、「資産運用立国実現プラン」を通じ「貯蓄から投資へ」の流れを加速すること、「三位一体の労働市場改革」で、労働生産性向上と産業構造の高度化を実現すること、「外国人材確保(外国人実習制度改革と特定技能制度拡充)」を進め、労働供給と需要創出を促すこと、「インバウンド戦略」でインバウンド需要を地方に呼び込むこと、などである。

また石破政権の経済政策には、小泉氏のグループも影響力を与える可能性があるだろう。総裁選で「聖域なき規制改革」を掲げた小泉氏が、ライドシェアの全面解禁などの推進で石破氏の規制改革を一層促し、経済政策全体の厚みを増すことにも大いに期待したい。

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