米国10月雇用統計は予想比下振れるも評価は難しく:FRBの緩やかな利下げ観測が継続
11月のFOMCでは0.25%の利下げの可能性
米国労働省は11月1日、10月分雇用統計を発表した。11月5日の大統領選挙、11月6・7日の米連邦公開市場委員会(FOMC)前に発表される最後の主要経済指標であり、大いに注目を集めた(コラム「ハリケーンでかく乱される米経済指標:FOMCや大統領選挙にも影響」、2024年10月31日)。
非農業部門雇用者数は前月比1万2,000人増となり、事前予想の約11万人増を大幅に下回った。しかし、この数字はストライキやハリケーンの影響で大きくかく乱されており、それらの影響を除いた基調は明確に分からない。精度の低い統計となったため、同統計に対する金融市場の反応も比較的限定的だった。
雇用者数が事前予想を大きく下回ったことを受けて、共和党のトランプ氏は、バイデン政権の失策の結果と主張するだろう。他方ハリス氏は、雇用者増加数の下振れは一時的なものである一方、そうした影響を受けにくい失業率が低水準を維持していることをバイデン政権の経済政策の成果、と主張するだろう。いずれにしても、今回の雇用統計は大統領選挙に大きな影響を与えないだろう。
他方、雇用統計は11月6・7日のFOMCの利下げを促す可能性が考えられる。前回9月のFOMCで米連邦準備制度理事会(FRB)は0.5%の大幅利下げに踏み切ったが、その後発表された経済指標は9月分雇用統計などを中心にやや上振れたことから、0.5%の大幅利下げを続ける可能性は高くないだろう。現状では、11月そして12月のFOMCではそれぞれ0.25%の通常幅での利下げが実施されると見ておきたい。
次回11月分雇用統計で労働市場の基調5万2000人増、政府は4万人増だった
10月の非農業部門雇用者数の前月比1万2,000人増は、2020年12月以来の小幅な増加となった。米航空機大手ボーイングのストライキや大型ハリケーンの被害といった一時的な要因が大きく影響した。
ただし、ハリケーンの影響がどの程度出たのかは分からない。労働統計局は、一部の産業でデータの集計がハリケーンの影響を受けた可能性があるとの見解を示したが、その影響を数字で表すことはできないと説明している。
10月の雇用者数は小売、運輸・倉庫、娯楽・ホスピタリティなどで減少した。これらはハリケーンの影響によるところが大きいとみられる。また、製造業の雇用は4万6,000人減と、2020年4月以来の大幅な落ち込みとなった。ボーイングの従業員約3万3000人のストなどが影響した部分が大きいとみられる。
他方、10月の雇用増加分のほぼ大半は医療関連と政府部門で生じた。ヘルスケア関連は5万2000人増、政府は4万人増だった。
ハリケーンの上陸はヘリーンが9月26日、ミルトンは10月9日だった。ミルトンの上陸日は10月雇用統計の調査期間と重なるため、雇用者増加数に大きく影響した可能性がある。
雇用者数のデータは事業所調査に基づいて算出され、その月の12日を含む1週間に従業員が勤務しなかった場合や、雇用されていても悪天候の影響で勤務できなかった場合には、雇用者としてカウントされない。
他方、失業率を計算する家計調査では、スト参加の労働者や悪天候で一時的に休業を強いられる労働者は雇用者としてカウントされるため、失業率はこうした一時的な要因の影響を受けにくい。10月の失業率は4.1%と9月と同水準だった。
他方、ハリケーンの影響で一時的に職を失う労働者は低賃金の比率が高いと見られることから、それは平均賃金を引き上げる方向に働くと考えられる。1月の時間当たり平均賃金は前月比+0.4%と9月の+0.3%を上回り、前年同月比も+4.0%と9月の+3.9%を上回った背景には、そうした要因があったと考えられる。
雇用者数を算出する事業所調査での回答率は47.4%と、1991年以来の低水準となった。ハリケーンの影響で回答できなかった企業が多かったと見られる。ただし、労働統計局はその後も毎月調査を継続するため、10月の回答率も通常水準の90%程度まで上昇することが予想される。そのため、10月の雇用者数は今後大きく修正される可能性がある。
こうした点も含め、12月上旬に発表される11月分の雇用者数と修正後の10月分の雇用者数を均してみれば、ストライキやハリケーンの影響を除いた雇用情勢の基調的な動きが概ね把握できるだろう。それは、12月のFOMC、あるいはそれ以降のFRBの金融政策の見通しに大きな影響を与える。
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