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ビットコインETF 機関投資家にも間口が拡大 米SECは上場承認も不信感

2024/02/26

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以下は、毎日新聞出版『週刊エコノミスト』2024年2月20・27日合併号に掲載された拙稿を毎日新聞出版様のご許可を得た上で、そのまま転載するものです。

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米証券取引委員会(SEC)がビットコインETFの上場を一転して承認した背景には一つの判決があった。

暗号資産(仮想通貨)の代表格ビットコイン(BTC)の現物を運用対象とする11本のETF(上場投資信託)が1月10日、SECに承認された。承認翌日には早速取引が始まり、取引初日に7億ドル(約1000億円)を集めた。さらに開始6日間で約9万5000BTCが保有され、運用資産総額は40億ドル(約5900億円)に迫る勢いとなっている。

図表 1月11日から米国で取引が始まったビットコインETF11本

取引は「取引所」とも呼ばれる暗号資産交換業者を介して活発に行われている。2017年12月には、米国の先物取引所でのビットコイン先物取引も始まった。こうした中で浮上したのが、ビットコイン現物を裏付け資産とするETFの構想だった。

投資信託は多くの投資家から資金を集め、株式や債券から不動産や暗号資産に至るまでさまざまな資産への投資・運用を行う仕組みの金融商品だ。いつでも換金できるという一般的なオープンエンド型投信は、設定(買い付け)や解約(換金)する場合の価格は、純資産価値を基に1日1回確定する基準価額になる。

対して、原則は運用会社に換金請求できず、証券取引所の市場で売買される投信がETFだ。上場することで換金性・流動性が確保される。市場での取引価格は純資産価値と一致するとは限らないが、毎日の基準価額でしか買い付けや換金ができないオープンエンド型投信とは異なり、日中の価格変動を反映した売買が可能だ。

そこで、ビットコインを保有する信託が、信託の管理・運用などの成果を受ける権利「受益証券」を発行する形でETFを組成するアイデアが生まれた。米国では規制監督当局であるSECが上場を承認するが、SECは18年3月、証券取引所によるビットコインETFの上場申請を認めないという決定を下した。SECによる不承認の理由は、要約すれば「ビットコインの現物市場では詐欺や相場操縦のリスクが大きく、かつETF上場を目指す証券取引所が十分に取引量の大きい規制された市場との間で市場監視協定を結んでいない」というものだった。その後、23年までに複数の証券取引所が十数件にのぼるビットコインETFの上場申請をしたが、SECは一貫して上場を承認しなかった。

◇先物ETFの上場先行

他方、ビットコインの先物ETFについては、21年10月の「プロシェアーズ・ビットコイン・ストラテジーETF」を皮切りに、23年8月までに計5本の上場がSECによって承認された。これは、ビットコイン先物市場が米商品先物取引委員会(CFTC)の監督下にある先物取引所によって運営されており、先物ETFを上場する証券取引所との間で市場監視協定を結ぶことが可能だったからだ。

ただし、先物ETFでは、裏付け資産とする先物の期限が満了する月(限月)が来るたびに、次の限月の先物への乗り換え取引が必要で、運用コストがかさむ。ビットコイン現物を取得して保有し続けるだけの現物ETFに比べて非効率だ。そのため現物ETFの上場が引き続き求められた。

そして、1月10日にはNYSE(ニューヨーク証券取引所)アーカなど3証券取引所からのビットコイン現物ETF11件の上場申請が一括承認された。SECは各証券取引所が、ビットコイン先物市場を持つ先物取引所と包括的な市場監視協定を結んだことを承認の理由とした。SECが姿勢を一変させた背景には、23年8月の一つの判決がある。現物ETFの上場申請をめぐって資産運用会社がSECを相手取って起こした訴訟で、裁判所はSECがビットコイン先物ETFの上場を承認しながら現物ETFの上場を認めないのは恣意(しい)的で、予測不能な行政行為だとして、SECの決定を無効とした。

再検討を迫られたSECは、現物市場と十分な相関関係にあるビットコイン先物市場を運営する先物取引所と市場監視協定を結んだ証券取引所は、現物ETFを上場できるという考え方を打ち出したのだ。長年にわたって否定されてきた現物ETFの上場実現は、ビットコイン、ひいては暗号資産市場全体にポジティブな出来事と受け止められ、ビットコイン価格の急騰につながった。

米国では22年11月、大手暗号資産交換業者FTXが経営破綻し、その経営者が詐欺を行ったとして23年11月に有罪判決を受けたこともあり、暗号資産交換業者に不信感を抱く投資家も少なくない。ただ、現物ETFを使えば、個人や機関投資家は直接保有せずとも、ビットコインへの投資が可能になる。株式やETFの取引でなじみのある証券取引所に現物ETFが上場されれば、ビットコイン投資が拡大するという見方もある。

◇日本の投資家は利点薄く

とはいえ、SECはビットコイン現物ETFをめぐる政策は転換したが、ゲンスラー委員長が「ビットコイン自体を承認または推奨したわけではない」との声明文を同時に発表し、不信感を隠さない。投機的で不安定な資産であることや、マネーロンダリング(資金洗浄)などの違法行為にも使用されているなどとして問題点を挙げ、リスクに注意するようくぎも刺している。

また、他の暗号資産、とりわけイーサリアムをベースに組成される多様なトークンについては、無登録で違法に募集された有価証券だとして厳しく取り締まる姿勢を示す。リップルやコインベース、バイナンスといった暗号資産業界のビッグネーム企業に対する訴訟も継続中だ。こうした暗号資産全般に対するSECの冷ややかな態度が、早期に変わることは期待しにくい。

日本の暗号資産市場では、暗号資産交換業者は資金決済法に基づく登録制となっており、顧客の保有するビットコインなどの暗号資産が厳格に分別管理されるなど、投資家保護のための規制が整備されている点で、米国とは環境が大きく異なる。今のところ現物、先物ともにビットコインETFは存在しないが、法規制の観点だけからいえば組成も可能だろう。

もっとも、現状でも暗号資産交換業者を通じて、誰もがビットコインに手軽に投資できる。事実、国内でのビットコインの現物取引は活発だ。今回米国で上場されたビットコイン現物ETFに、国内の証券会社を通じて投資することも可能になるかもしれない。

しかし、暗号資産規制に詳しい弁護士は、米国上場現物ビットコインETFは、課税上の取り扱いが国内の一般的なETFとは異なり、収益が総合課税の対象となる可能性があると指摘しており、投資家にとってのメリットはあまり期待できない。

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