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持ち帰り容器再利用プラットフォーム、日本でも広まるか?

2024/04/24

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飲料・食品の持ち帰り容器が規制される?

今回はモノの入れ物、具体的には飲料・食品の持ち帰り容器に起きている変化を取り上げる。
EUで包装容器に関する規制が強化されようとしている。2024年3月、EUの理事会と欧州議会が包装・包装廃棄物規則案について暫定合意に達した。同規則案は包装廃棄物の削減、包装材のリサイクル、再利用の促進を義務付けるもので、その対象は幅広い。パレット等の輸送用容器に使われる包装材、冷蔵庫・洗濯機等の大型家電製品の輸送用梱包、アルコールおよびノンアルコール飲料の容器(アイテムレベル)、持ち帰り用の飲料容器や食品容器が含まれる。

持ち帰り用の飲料容器や食品容器は、消費者が日常生活で頻繁に接する。たとえば、コーヒーショップでアイスコーヒーを持ち帰る時、ファストフード店でハンバーガーを持ち帰る時、飲食店の料理を自宅等にデリバリーしてもらう時などだ。使い捨て容器が使われることが多い。

今や新型コロナウィルス感染拡大の影響が弱まり、在宅勤務が一時よりは減った。しかし、コロナ禍が始まる前に比べれば在宅勤務は増えている。在宅勤務が増えると外食回数が減る一方、飲料・食品の持ち帰りや料理デリバリーの回数が増える。それに伴って自宅で使い捨て容器廃棄物が増える。廃棄物は、燃やすにせよ埋めるにせよ環境に負荷を与える。容器廃棄物削減という社会課題に取り組んでいる、興味深いスタートアップがいる。本稿ではそれを紹介し、日本で飲料・食品容器の再利用が広まるかを考えてみたい。

飲料・食品用の再利用容器のレンタルサービスを提供するVytal社

1.Vytal社が提供しているサービスの概要

Vytal社は、2019年にドイツで設立されたスタートアップである。持ち帰りやデリバリーで発生する使い捨て容器の廃棄物削減を狙って、飲料・食品用の再利用可能な容器をレンタルするサービスを飲食店等に提供している(以降、Vytal社が提供するサービスに加盟している飲食店を「Vytal加盟店」と称す)。飲料・食品といっても、大きさや形はさまざまだ。Vytal社のレンタルサービスでは、幅広い種類の容器が用意されている点が興味深い。大型・中型・小型のボウル、中仕切り付きボウル、寿司用容器、ピザ用容器、ハンバーガー用容器、大型・中型・小型の飲料用カップ等である。寿司用容器とは、日本の食品スーパーマーケット等の寿司売り場で見かける、あの皿と透明のふたである。

2.利用者へのメリット

Vytal社が提供するレンタルサービスは、利用者それぞれにメリットがある。Vytal加盟店は使い捨て容器を使う場合と比べて、容器に関わる費用を3割削減できるという。他方、消費者は「使い捨て容器廃棄物を捨てて、環境に負荷を与える」という、いわば罪悪感に近い感情から解放される。Vytal社が提供する再利用容器を使う消費者が増えると、Vytal加盟店が増え、さらに消費者が増えるというネットワーク効果が生まれることも期待できる。

3.容器包装廃棄物法の改正の影響

ドイツで容器包装廃棄物法が改正され、2023年1月から持ち帰り用の飲料・食品を販売する一定規模以上の飲食店・ケータリングサービス事業者等は、「顧客が使い捨て容器か再利用容器かを選べるようにすること」が義務となった。この法改正の影響もあり、ドイツのVytal加盟店数は約六千に達している。Vytal社はKFCやドミノ・ピザ等の大手外食チェーンと提携しており、大企業にサービスを提供できるケイパビリティをも備えている。

4.利用者は、飲料・食品用の再利用容器レンタルサービスをどう使うのか?

工場から製品を出荷する際には、パレットが使われることが多い。Vytal社が提供するサービスは、そのパレットレンタルのサービスと似ている。その概要をサービスの利用者である消費者とVytal加盟店の立場で説明する(図を参照)。

図 Vytal社の再利用容器レンタルサービスの概要

  1. 消費者が注文する時
    Vytal加盟店でドリンクを持ち帰りで注文したい消費者がいるとする。まず消費者は、スマートフォンにダウンロードしたVytal社のアプリで、ドリンク用の再利用可能カップのレンタルを申し込む。後述するがレンタル料は基本的に無料である。そして、Vytal加盟店に行き、ドリンクを持ち帰りで注文する。その際に既に再利用可能カップのレンタルを申し込んだことを店員に伝える。消費者はドリンクの代金を支払い、再利用可能カップに注がれたドリンクを手にする。販売時に再利用可能カップに印字された二次元バーコードがスキャンされ、「そのカップがVytal加盟店から消費者へ移った」ことがVytal社のシステムに記録される。
  2. 消費者が使用済み再利用容器を返却する時
    ドリンクを買った消費者は店外にドリンクを持ち出し、それを飲む。使用済みの再利用可能カップは、ドリンクを買った店等に設置されている回収箱に返却する。回収箱に据え付けられたスキャナーで、再利用可能カップに印字された二次元バーコードが読み取られ、「そのカップが回収箱に格納された」ことがVytal社のシステムに記録される。消費者は買った店以外の場所にある回収箱に返却しても構わない。返却する人は消費者本人以外でも構わない。消費者は再利用可能カップを手にしてから14日以内に返却すれば、レンタル料を支払う必要はない。
    消費者が再利用可能カップのレンタル期間を延長したい場合、無料レンタル期間の終了前にVytal社に連絡すれば少額の費用負担でそれができる。一方、Vytal社への連絡なしで無料レンタル期間が過ぎると、飲料用容器ならば4ユーロ、食品容器ならば10ユーロが消費者に課金される。その場合、再利用容器は消費者の所有物となる。
  3. Vytal加盟店
    一方、Vytal加盟店はVytal社から再利用容器を無償で受け取る。容器レンタル料の支払いはない。その代わりVytal加盟店は再利用容器使用を選んだ消費者に対して使われた再利用容器の数量に応じて、Vytal社に再利用容器の使用料を支払う。Vytal加盟店は回収箱に返却された使用済み再利用容器を洗浄し、店舗内に保管し、次の販売に備える。

Vytal社のビジネスモデルの特徴

一般的にレンタルビジネスで収益を上げる場合、レンタル資産の回転率の高さ、その回収率の高さの二つが重要となる。Vytal社の場合、レンタル資産である再利用容器は、消費者の手に渡ってから平均で5日以内に回収され、その回収率は99%に達するという。

このVytal社のビジネスモデルの特徴が二つある。一つめは、消費者が再利用容器レンタル料を直接払っていないことだ。ドイツでは瓶・缶・ペットボトル等の飲料容器のデポジット制度が普及している。再利用可能容器で一本につき8~15セント、使い捨て容器で一本につき25セントである。Vytal社の再利用容器を使う場合、このデポジットが基本的に発生しない。そのため、消費者にとってVytal利用のハードルが低いといえる。また、買う商品が飲料・食品の場合、購入して数時間以内に容器は返却可能になる。無料レンタル期間が2週間と設定され、平均で5日以内に容器が回収されていることで、高い資産回転率を維持できていると考えられる。

二つめの特徴は、容器レンタルビジネスにつきまとう容器の回収・洗浄作業に、レンタルサービス提供者自身が関わっていないことである。たとえば、パレットレンタルの事業では、レンタルサービス提供者が回収・洗浄を担うことが一般的である。しかし、Vytal社が回収・洗浄に関わっているのは、全体のわずか2%にすぎないという。前述のとおり、使用済み容器の回収作業は消費者によって行われ、使用済み容器のほとんどはもとのVytal加盟店に戻るという。使用済み容器の洗浄作業はVytal加盟店が担うため、Vytal社自身が専用の洗浄設備を用意する必要はない。既存の資源で賄えるのだ。

日本で飲料・食品容器の再利用は広まるか?

このVytal社のレンタルサービスは、ヨーロッパではドイツのほか11カ国に、さらに中米のメキシコとドミニカ共和国にも広まっている。アプリ登録ユーザー数は50万人にのぼる。国によって容器デポジット制度の有無、消費者の購買行動の違いがあると思われるが、これだけの数の国に展開されている事実をふまえると、この飲料・食品用の再利用容器レンタルサービスは、スケールする可能性が高いビジネスモデルと呼べるのではないだろうか。容器再利用プラットフォームと称しても差し支えないだろう。

さて、日本で飲料・食品容器の再利用が広まる可能性はどうだろうか。日本人は食品衛生への意識が高い人が多いと聞く。コーヒーショップから持ち帰りする飲料の容器、食品スーパーマーケット等で販売される弁当・寿司・惣菜やファストフード等の食品の容器は、使い捨てがほとんどだ。

飲料・食品の持ち帰りや料理デリバリーの容器にプラスチックが使われることが多いが、日本の一人当たりのプラスチック容器包装廃棄量は米国に次いで世界で二番目に多い。環境省が毎年行っている「容器包装廃棄物の使用・排出実態調査」の中で、家庭から出る廃棄物の実態が把握されている。サンプル調査であるため絶対量の変化はわからないのだが、構成比の変化がわかる。その調査によれば、家庭ゴミの容積全体に占めるプラスチック類容器ゴミの割合が10年前から約1割増えていることがわかる。

日本に容器廃棄物を減らす目標がないわけではない。2019年5月に日本政府が「プラスチック資源循環戦略」を策定した。そこにマイルストーンとして「2025年までに容器をリユース・リサイクル可能なデザインに」「2030年までに容器包装の6割をリユース・リサイクル」が示されている。つまり、目標は既にあるのだ。

冒頭で言及したEUの包装・包装廃棄物規則案に、2040年の達成目標の案が書かれている。「再利用可能な容器または詰め替え可能な飲料のシェアを8割に」、「再利用可能な容器または詰め替えが可能な食品製品のシェアを4割に」という意欲的な内容だ。

飲料・食品容器は日常生活で頻繁に接するがゆえ、短期間で消費者が行動変容を起こすことは容易ではないと思われる。飲料・食品の使い捨て容器の廃棄物削減は、中長期にわたって取り組むべき課題である。ドイツの改正容器包装廃棄物法のように、使い捨て容器と再利用容器の選択肢を用意するといった工夫することを含め、中長期目標の達成に向けて具体的なアクションを起こすべき時期が来ているのではないだろうか。

参考資料

執筆者情報

  • 水谷 禎志

    産業ITイノベーション事業本部 産業ナレッジマネジメント室

    エキスパートコンサルタント

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