フリーワード検索


タグ検索

  • 注目キーワード
    業種
    目的・課題
    専門家
    国・地域

NRI トップ ナレッジ・インサイト コラム コラム一覧 大企業とスタートアップ、協業成功への道

大企業とスタートアップ、協業成功への道

~大企業の事業開発・企画部門が知るべきポイント~

2024/02/07

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

執筆者プロフィール

システムコンサルティング事業本部 板野 壮一郎:
1992年に野村総合研究所に入社。流通小売業のシステムエンジニアを経て、現在は流通小売業、物流業界等に対して、事業創出・業務改革、IT戦略、ITコンサルティング業務に従事。専門は、デジタルを活用した新事業創出、事業変革。

システムコンサルティング事業本部 森本 雅彦:
2018年に野村総合研究所に入社。物流業界に対して、事業創出・業務改革、プロダクトオーナー支援などのコンサルティング業務に従事。専門は、デジタルを活用した業務改革実行。

はじめに

野村総合研究所システムコンサルティング事業本部の板野、森本です。
近年、大企業とスタートアップ企業のコラボレーションにより、新しい事業やサービスが次々と生まれています。スタートアップ企業は、先進技術の活用やスピーディーな開発に優れており、大企業は、多くの顧客や豊富な経営資源を有している点が強みです。協業を通じて、互いの強みを活かすことで、強力なコラボレーションが実現します。
他方で、大企業とスタートアップ企業では、経営方針をはじめ価値観や文化、社内プロセス、リスクに対する考え方など、様々な点で違いがあり、失敗の原因になることがあります。大企業は社会への影響力やリスクを考慮して、意思決定までに多くの社内調整を行い、物事を慎重に進めようとします。スタートアップから見ると、「遅い」と感じてしまいます。大企業から見ると、リスクよりスピードを優先するスタートアップ企業の進め方は、「危なっかしい」と感じることでしょう。このような違いにより、互いの強みを活かし合うことよりも、いつのまにかに互いの弱みが前面に出てしまい、期待していた成果が生まれないケースも散見されます。

協業におけるつまずきと取るべきアクション

大企業とスタートアップ企業の協業は、新しいビジネス機会を創出する鍵となりますが、PoC(Proof of Concept)から製品実用化へのプロセスには、多くの課題に直面します。このプロジェクトの進行段階を4つに分け、それぞれの段階における主なつまずきと、それらを乗り越えるためのアクションについて解説します。

企画段階でのつまずき

①協業相手選びにおける検討不足
企業間の協業成功の鍵は、適切なパートナーの選定にあります。共通の目標に向かって努力できる相手を見つけることがこのプロセスの重要なステップです。しかし、時に企業間の期待や条件、体質が異なることにより、協業が困難となり、プロジェクトが中途で停止し、市場投入に至らないケースがあります。このような状況は、時間とリソースの浪費を意味します。
例として、ある大企業がスタートアップ企業のサービスに興味を持ち、協業を開始したケースがあります。大企業は、自社の要求に基づいてスタートアップのサービスをカスタマイズできると期待していました。しかし、スタートアップ企業は自身のビジョンの実現を優先し、他顧客への影響やビジネス成長の観点から、サービスの根幹部分のカスタマイズを拒否しました。彼らにとっては、自社サービスの核心を変更することは、ビジョンからの大きな逸脱となるからです。
この結果、協業はサービスの市場投入直前で頓挫しました。これは、大企業がスタートアップを単なるITベンダーと見なし、過去の成功体験に基づいて自社の要求が通ると誤解していたことが原因です。協業相手を対等なパートナーとして見ない姿勢は、協業をうまくいかせることができません。
このような事例から分かることは、プロジェクト開始前に双方の企業文化や条件を深く理解し合うことが重要であるということです。また、協業において双方が譲れないポイントを明確にし、歩み寄れる余地があるかどうかを企画段階で検討する必要があります。合意に至らない場合は、協業を見送ることも一つの選択肢です。

PoC実施段階でのつまずき

②PoC準備の遅れ
企業が新しいプロダクトやサービスを市場に投入する際、PoCの段階は極めて重要です。この段階での適切な準備が、プロジェクト全体の成功への第一歩となります。しかし、PoCの準備に時間をかけすぎることは、多くのプロジェクトで問題となっています。
PoCの準備に時間がかかりすぎると、最終的な製品やサービスのリリースが遅れることになり、市場でのチャンスを逃すリスクが生じます。この遅れは企業にとって大きな機会損失となり得ます。
この問題の根底には、PoCの対象サービスに関する要求水準と実現性の認識の違いがあります。例えば、大企業は時に、PoCであっても過剰な水準の要件を求めることがあります。これは、過去のプロジェクトの経験や自社の統制ルールに基づいています。一方で、スタートアップ企業は実現可能性を過大評価し、大企業の要求を安易に受け入れることがあります。これには、大企業の顧客数やアクセス数の規模に対応できるかどうか、社会的責任やインフラとしての堅牢性への理解が不十分であることが影響しています。
このような状況を放置すると、大企業の過剰要求は開発コストの増加を招き、一方でスタートアップの安請け合いはSLAの未達成や人的リソースの過剰な投入による組織の疲弊を引き起こすリスクがあります。
リスクを回避するためには、プロジェクトマネージャーが要件と実現性のバランスを取ることが重要です。大企業はサービスレベルを緩和するなど、歩み寄ることを検討すべきです。一方で、スタートアップ企業は、実際に達成可能なサービスレベルと時期を明確にし、現実的な計画を立てる必要があります。

③プロジェクト運営におけるコミュニケーション不足
PoC実施段階では、コミュニケーションや情報共有の不足が原因で、プロジェクト運営が適切に行われず、結果として使えないサービスや、既存システムとの連携が不十分な製品が生み出されてしまうことがあります。これは時間と費用の浪費に他なりません。
多くの大企業では、長年にわたるITベンダーとの取引により、特定のノウハウや暗黙知が形成されています。「相手が理解しているだろう」という前提でコミュニケーションを怠ることがあります。しかし、このような前提がスタートアップ企業にとっては理解しにくい場合があり、その結果、不明瞭なプロジェクト運営につながることがあります。スタートアップ企業がプロジェクトの目的や、現在の業務状況、関連するシステムの動きなどを十分に理解できない状況では、プロジェクトの進行が不透明になり、最終的には実際の業務に適合しない、既存のシステムとの連携が不十分な、特定のニーズにのみ最適化された製品が完成してしまうリスクがあります。プロジェクトが適切に進行しないと、最終的には実用性の低い「使えない」製品が生み出される恐れがあります。
プロジェクト運営の成功の鍵は、明確なコミュニケーションと適切な情報共有にあります。そのためには、プロジェクトマネージャーがサービス面とシステム面の両方から全体の状況を理解し、情報共有とコミュニケーションの仕組みを整える必要があります。これには、両社が必要な情報を明確にし、大企業が積極的に情報を提供し、スタートアップが必要な情報を適切に要求することが含まれます。プロジェクトマネージャーの役割は、プロジェクト運営においてコミュニケーションの架け橋として重要であり、それによってサービスの品質と効率が大きく向上します。

評価段階でのつまずき

④意思決定のスピードの違い
PoCの結果を評価し、実用システムへの開発を判断することが重要ですが、このプロセスでしばしば直面するのが、意思決定に時間がかかってしまうという問題です。
大企業とスタートアップ企業では、意思決定のプロセスが大きく異なります。大企業では意思決定者が多く、各段階での説明と審議に時間がかかります。これが結果として、次の段階への進行が遅れる主な原因となっています。一方、スタートアップ企業はリソースが限られており、大企業の意思決定プロセスの遅さによってプロジェクトの維持が困難になることがあります。このギャップにより、PoCの成果評価と実用システムへの判断が遅れ、市場リリースのタイミングを逸してしまう可能性があります。
このような状況に対処するためには、プロジェクトマネージャーの役割が重要です。プロジェクトマネージャーは、大企業側のステークホルダーとの事前の調整を行い、またスタートアップ企業のステークホルダーと密なコミュニケーションを取ることが求められます。特に、大企業の経営層やバックオフィス部門(会計、広報、法務など)との交渉を進めることや、スタートアップ企業のCEOやCTOなどの意思決定者との密接な連携が必要となります。プロジェクトマネージャーは、こうした意思決定のプロセスを円滑に進めるために、両社のステークホルダー間の橋渡し役としての重要な任務を担うことになります。

お互いの強みを活かす協業に向けて

大企業は市場への影響力や大規模な顧客基盤という強みを持っています。一方、スタートアップ企業は技術力や迅速な意思決定、柔軟な対応能力(アジリティ)を持っています。これらの強みを組み合わせることで、新たな価値を創造することが可能です。
しかし大企業とスタートアップ企業は、異なる文化を持っています。このことが、しばしば両社のコラボレーションがお互いの強みを活かすのではなく、弱みが表面化してしまい、協業がうまくいかない原因になることがあります。
成功への鍵は、お互いの企業が持つ強みを最大限に活かすチームマネジメントにあります。これには、サービスそのものを磨くスキル、多様なステークホルダーとの調整能力、サービスの成長に合わせた戦略を策定する能力、そして他社が真似できない技術力などが含まれます。
大企業とスタートアップ企業がこれらのスキルを駆使して、効果的なチームマネジメントを行うことで、両社が文化の違いを乗り越え、お互いの強みを活かすコラボレーションを生み出すことができます。
このようなコラボレーションを通じて、新しいサービスや革新的なアイデアが生まれ、市場に新たな動きをもたらすことが期待されます。大企業とスタートアップの協業は、それぞれが持つ独自の強みを活かし合い、共に成長していく素晴らしい機会となるでしょう。

本ブログの内容はいかがでしたでしょうか?
アンケートへのご協力をお願いします。

執筆者情報

  • 板野 壮一郎

    システムコンサルティング事業本部

  • 森本 雅彦

    システムコンサルティング事業本部

  • Facebook
  • Twitter
  • LinkedIn

NRI Digital Consulting Edgeの更新情報はFacebook・Twitterでもお知らせしています。

新着コンテンツ