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2050年までに「プラス5歳活躍社会」実現を

-持続可能な日本社会の実現のために必要なたった一つのこと-

2024/04/17

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国立社会保障・人口問題研究所が発表する「日本の将来推計人口(令和5年推計)」によると、日本の2050年の総人口は約1億468万人で、2020年よりも2,000万人以上が減る見込みである(図1)。人口全体のなかで65歳以上の割合を示す高齢化率は2020年に28.6%だったが、2050年には37.1%に達する見込みで、現役世代である生産年齢人口(15-64歳)100人が14歳までの子どもと65歳以上の高齢者をどれだけ養うかを表す従属人口指数(扶養負担度)も、2020年の68.0から2050年は89.0へと上昇する。将来の人口推計は数ある未来予測の中でも精度が高く、人口構成という意味では2050年の日本の姿はほぼ確定と言える。このままでは、2050年の日本は、現役世代1人で子どもや高齢者1人を支える社会になる。

図1 日本の総人口、各種人口比率、従属人口指数(2020年、2050年)

(出所)国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」よりNRI作成

ところで、日本を含む多くの国では、65歳以上を「高齢者」とするのが一般的だ。1956 年、国連が報告書で65歳以上の人口の比率を「高齢化率」と記載したことがきっかけだったと言われている。しかし、それから60年後の2017年、日本老年学会と日本老年医学会は「65歳以上=高齢者」とする定義に医学的・生物学的には明確な根拠はないと指摘している(注)
図2は、日本人の平均寿命(男女別)の推移である。きっかけとなった国連報告書が発表された1956年当時、日本人の平均寿命は65歳前後だった。このことから考えれば、「65歳以上=高齢者」が定着したことも理解できる。しかしその後、寿命は延び続け、現在は男女ともに80歳を超えている。寿命が約20歳延伸しても、引き続き「65歳以上=高齢者」が社会の前提となっているのが現状だ。
人口構成の変化、寿命延伸や加齢による身体機能の低下の遅延など健康状態の改善、さらには雇用環境の変化なども鑑みれば、暦年齢の65歳を基準とし続ける理由は現代において乏しい。

  • (注)

    日本老年学会・日本老年医学会「高齢者に関する定義検討ワーキンググループ報告書」2017年

図2 日本人の平均寿命の推移(男女別、1955~2022年)

(出所)厚生労働省「令和4年簡易生命表」よりNRI作成

この点を踏まえて、現状15歳~64歳である生産年齢人口を5歳延ばして15歳~69歳と定義し、従属人口指数を計算してみる。すると、当然ではあるが、指数はより低い水準で推移し、2050年であっても67.8にとどまる。2020年の従来の定義による従属人口指数が68.0なので、仮に生産年齢を5歳延伸することができれば、2050年の扶養負担度は2020年と同等水準にとどまることができる計算だ。

図3 日本の従属人口指数および生産年齢人口を5歳延伸した場合の従属人口指数の推移
(2010年~2050年)

(出所)国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」、
総務省「国勢調査」よりNRI作成

そこで、我々は、従属人口指数(扶養負担度)を2050年まで現状維持可能とする「あと5歳活躍できる社会」を、「プラス5歳活躍社会」と呼んでいる。そして、持続可能な日本社会の実現のために、制度の見直しとテクノロジーの活用促進などを進めることで「プラス5歳活躍社会」の実現を急ぐべきだと考えている。

まず急務なのは、65歳以降も働くことがきちんと報われる制度への変更である。
「65歳以降、働くことが報われない制度」の代表的なものは、65歳を超えても働いて一定の収入を得ると、受け取れる年金の額が減額されてしまう「在職老齢年金制度」である。現行制度では、就労しながら年金を受給している人で、賃金と年金の合計額(月額)が50万円を超えた場合、超えた分の1/2の年金の支給が停止され、受け取ることはできなくなる。さらに、年金の繰り下げ受給を選択し、年金を受け取っていない期間であっても一定収入があると受給開始後に得られるはずの割り増し分が減額される。年金受給に損得という概念はないが、保険料を支払い、年金を受け取る個人の立場からすれば、「働いて収入を得ると、受け取れるはずだった年金が減ってしまい損をする」と感じるのはしごく当然のことだろう。「プラス5歳活躍社会」を実現しようとすれば、65歳以上の年金の在り方については、早急の議論と見直しが必要であろう。
併せて、加齢に伴う身体などの能力低下をサポートできる技術や制度も検討すべきだ。

図3にあるように、従属人口指数は、この後2030年頃まで、現状水準をキープして推移する見込みだ。2030年以降は再び上昇して、2050年に89.0に到達するものの、少なくともこれから数年の間、日本の扶養負担度は小康状態となる。だからこそ、2030年までの数年間という期間を有効に使って、65歳を超えても、働きたい/働けるという人があと5年活躍できる「プラス5歳活躍社会」の実現に向けてアクセルを踏むべきだ。

執筆者情報

  • 武田 佳奈

    未来創発センター 雇用・生活研究室長

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