コーポレートガバナンス・コードとは
コーポレートガバナンス・コードとは、上場企業が行う企業統治(コーポレートガバナンス)においてガイドラインとして参照すべき原則・指針を示したものです。「Corporate Governance」の頭文字を取ってCGコードと略す場合もあります。この原則・指針によって、企業が透明性を保ち、適切に企業統治に取り組んでいるかどうか、外部からでも明確に分かるようになります。日本では2015年に策定され、2018年に1回目の改訂。その後コロナ禍を契機に、企業がガバナンスの諸問題にスピード感を持って対応するため、2021年に2回目の改訂がなされました。
2015年3月5日に、金融庁と東京証券取引所が共同で「コーポレートガバナンス・コード原案」を公表し、WEBサイトに掲載しました。その後、東京証券取引所において関連する上場規則等の改正が行われ、このコーポレートガバナンス・コード原案を基とする「コーポレートガバナンス・コード」が制定、全上場企業に適用されたのは2015年6月のことでした。
2018年6月、より実質的に改訂された新たな指針が適用されます。このときの改訂では、最高経営責任者の選任と解任に関する記述を客観的に分かりやすくするよう求めています。また、企業を構成する人材の多様性確保という観点から、女性や外国人などを取締役などの経営側のみに任用するのではなく、企業における中核人材、すなわち執行側においても任用することを求めたり、株式会社同士が相互に所有し合う株式(政策保有株式)の縮減を促したりするなど、様々な指針が制定されました。
その後、新型コロナウイルスの感染拡大やDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の動きなどを経て、2021年6月には2度目の改訂がなされ、企業の持続的成長を促すために「人的資本」に関する情報開示という項目を追加しました。そのほかにも、取締役会の機能発揮や、サステナビリティを巡る課題への取り組み、株主総会に関する事項など、多くの指針が含まれています。
コーポレートガバナンスとは
通常、コーポレートガバナンスは「企業統治」と訳されます。金融庁が発表している「コーポレートガバナンス・コード改訂案(※)」におけるコーポレートガバナンスの定義は以下の通りです。
本コードにおいて、「コーポレートガバナンス」とは、会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組みを意味する。
企業は株主に最大限の利益を還元しつつ、自らの価値を向上させなければなりません。そのためには、株主をはじめとした様々なステークホルダー(関係者)の利害を踏まえ、企業を適切に運営・発展させる仕組みが必要になります。その仕組みが、コーポレートガバナンスなのです。
たとえば、企業が不祥事を起こすと、その影響はすぐに株価に表れます。株価が下落すれば、株主に最大限の利益を還元することはできません。企業が適切に経営されるためには、外部からその企業を監視する機関(社外取締役や監査役、監査委員会など)を置いたり、社内ルールを徹底したりする必要があります。企業統治が健全に回っている状態を「コーポレートガバナンスが保たれている」などと言いますが、企業にとってコーポレートガバナンスは常に意識するべきものなのです。
コーポレートガバナンス・コードの制定の背景
2014年6月24日、「『日本再興戦略』改訂2014-未来への挑戦-」が閣議決定され、コーポレートガバナンスの強化について記載されました。少子高齢化の中でも日本経済を成長させるためには、企業価値を向上させる必要があります。そのため、この戦略の中で「持続的成長に向けた企業の自律的な取組を促すため、東京証券取引所が新たにコーポレートガバナンス・コードを策定する」と明示されたのです。
「持続的成長に向けた企業の自律的な取組」とは、企業が中長期で資本生産性(ROE(Return on Equity)、ROIC(Return on Invested Capital)等の指標)を向上させ、グローバル競争に打ち勝つ強い企業経営力を取り戻す取り組みです。企業収益力の強化により、雇用機会の拡大、賃金の上昇、配当の増加等の好循環を生み出すことが期待されています。
こうした動きを受けて、金融庁と東京証券取引所は、共同事務局として2014年8月から2015年3月にかけて「コーポレートガバナンス・コードの策定に関する有識者会議」を開催、「コーポレートガバナンス・コード原案」をまとめました。
コーポレートガバナンス・コードの特徴
コーポレートガバナンス・コードはプリンシプルベース・アプローチ(原則主義)とコンプライ・オア・エクスプレイン(comply or explain)の手法を採用しています。
プリンシプルベース・アプローチとは、原則のみを定め、細部はそれぞれの企業に任せるという考え方です。各上場企業がとるべき行動について細かく決めて運用するルールベース・アプローチ(細則主義)は、対義語にあたります。プリンシプルベース・アプローチを採用することによって、それぞれの企業は各原則の趣旨や精神を理解した上で、自社の状況を踏まえて判断・適用することになります。株主などのステークホルダーがその妥当性を評価し、企業はステークホルダーとの対話を通じて自律的に修正することが求められます。
コーポレートガバナンス・コードのもうひとつの特徴は、コンプライ・オア・エクスプレイン(comply or explain)と呼ばれるソフトローであることです。これは全ての原則に対する遵守義務はなく、なぜ遵守しないかを説明すればよい、というものです。ただし、これは杓子定規な捉え方ではなく、経営者が自らの経営内容を株主などに分かりやすく説明しなければなりません。
コーポレートガバナンス・コードの適用を受ける企業は、原則を実施しない場合、その理由を十分に説明し、株主などを納得させる必要があります。自社の事情に照らし合わせ、遵守することが適当でないと判断されれば、遵守しないことは許容されます。
このように、すべての原則を一律に実施する必要はありません。一部を実施していないからといって、その企業において実効的なコーポレートガバナンスが実現されていないとするのは不適切だと考えられているからです。なお、上場企業のコーポレートガバナンスの実施状況は、東京証券取引所にて公開されています。
コーポレートガバナンス・コードの構成
コーポレートガバナンス・コードは「株主の権利・平等性の確保」「適切な情報開示と透明性の確保」「取締役会等の責務」など、5つの基本原則から構成されています。これらの基本原則の下には、さらに細かく31の原則と47の補充原則の、総数83もの原則が示されました。
コーポレートガバナンス・コード
基本原則
第1章 株主の権利・平等性の確保
【基本原則1】
【原則1-1.株主の権利の確保】
【原則1-2.株主総会における権利行使】
【原則1-3.資本政策の基本的な方針】
【原則1-4.政策保有株式】
【原則1-5.いわゆる買収防衛策】
【原則1-6.株主の利益を害する可能性のある資本政策】
【原則1-7.関連当事者間の取引】
第2章 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
【基本原則2】
【原則2-1.中長期的な企業価値向上の基礎となる経営理念の策定】
【原則2-2.会社の行動準則の策定・実践】
【原則2-3.社会・環境問題をはじめとするサステナビリティーを巡る課題】
【原則2-4.女性の活躍促進を含む社内の多様性の確保】
【原則2-5.内部通報】
【原則2-6.企業年金のアセットオーナーとしての機能発揮】
第3章 適切な情報開示と透明性の確保
【基本原則3】
【原則3-1.情報開示の充実】
【原則3-2.外部会計監査人】
第4章 取締役会等の責務
【基本原則4】
【原則4-1.取締役会の役割・責務(1)】
【原則4-2.取締役会の役割・責務(2)】
【原則4-3.取締役会の役割・責務(3)】
【原則4-4.監査役及び監査役会の役割・責務】
【原則4-5.取締役・監査役等の受託者責任】
【原則4-6.経営の監督と執行】
【原則4-7.独立社外取締役の役割・責務】
【原則4-8.独立社外取締役の有効な活用】
【原則4-9.独立社外取締役の独立性判断基準及び資質】
【原則4-10.任意の仕組みの活用】
【原則4-11.取締役会・監査役会の実効性確保のための前提条件】
【原則4-12.取締役会における審議の活性化】
【原則4-13.情報入手と支援体制】
【原則4-14.取締役・監査役のトレーニング】
第5章 株主との対話
【基本原則5】
【原則5-1.株主との建設的な対話に関する方針】
【原則5-2.経営戦略や経営計画の策定・公表】
※原案の詳細は以下のサイトをご覧ください。
金融庁
東京証券取引所
2021年の改訂について
2021年、より高度なガバナンス(統治)を企業に発揮してもらうため、コーポレートガバナンス・コードの改訂が行われました。企業の持続的な成長に大きな影響を与える「人的資本」に関する情報開示についての項目が追加され、上場企業にはさらなる情報開示が求められています。
改訂の背景には、東京証券取引所の市場区分改革との関連があります。2022年4月より、従来の市場区分を明確なコンセプトに基づく3つの市場区分(プライム市場、スタンダード市場、グロース市場)に再編した、新市場区分の適用が開始されました。これは、上場企業の持続的成長と中長期的な企業価値向上を支え、国内外の多様な株主からのより高い支持を得られる現物市場を提供することが目的です。この流れを背景に、以前より注目されていた「人が生み出す知的財産などの無形資産」を重要視する流れが加速しているのです。特にプライム市場の上場企業には、他よりも高い水準のガバナンスが求められます。2021年の改訂ではその具体的な指針について議論されました。
金融庁が紹介している改訂のポイント※は以下の通りです。
1.取締役会の機能発揮
- プライム市場の上場企業は、独立社外取締役を3分の1以上選任する
- 経営戦略上の課題に照らして取締役会が備えるべきスキルを特定し、それに対応する取締役の有するスキルを開示する など
2.企業の中核人材における多様性(ダイバーシティ)の確保
- 女性・外国人・中途採用者の管理職への登用など、中核人材の多様性の確保についての考え方と目標を設定し、その状況を開示する など
3.サステナビリティ(ESG要素を含む中長期的な持続可能性)を巡る課題への取り組み
- 取締役会は自社のサステナビリティを巡る取り組みについて基本的な方針を策定し、開示する など
4.その他個別の項目
- (1)
グループガバナンスの在り方
- (2)
監査に対する信頼性の確保及び内部統制・リスク管理
- (3)
株主総会関係
- (4)
上記以外の主要課題
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