ニューロダイバーシティとは
ニューロダイバーシティ(Neurodiversity、神経多様性)とは、Neuro(脳・神経)とDiversity(多様性)という2つの言葉が組み合わされて生まれた言葉です。「脳や神経に由来する個人レベルでのさまざまな特性の違いを多様性と捉えて相互に尊重し、社会の中で活かしていこう」という考え方のことであり、「発達障害のある方など神経学的マイノリティにあたる方を能力の欠如ではなく特性として捉える」といった思想に基づく社会活動を象徴する言葉としても用いられます。
ニューロダイバーシティの定義と取組事例
- ニューロダイバーシティは、「脳や神経に由来する個人レベルでのさまざまな特性の違いを多様性と捉えて相互に尊重し、社会の中で活かしていこう」という考え方であり、発達障害のある方のみならずすべての人を対象とした言葉です。単に神経は多様であるという事実にとどまらず、社会運動としての文脈を含めた言葉としても使われています。
- ニューロダイバーシティという考えは、「自閉スペクトラム症(ASD)」の当事者の発信により始まりました。本来、発達障害のある方など特定の神経学的なマイノリティに当たる方を対象とするのではなく、あらゆる人の脳や神経に由来する特性の多様性を対象とする考え方です。一方で、特に自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、学習障害(LD)といった発達障害のある方々を対象とし、「神経学的マイノリティにあたる方を能力の欠如ではなく特性として捉える」といった思想に基づく社会活動を象徴する言葉として用いられてもいます。
ニューロダイバーシティの定義と具体的な取組
出所)野村総合研究所
企業がニューロダイバーシティを推進する3つの意義
企業が神経多様性を尊重し、受け入れられるように環境を整えることは、事業推進や組織運営等の面でメリットがあると言われています。ここでは3つの推進する意義とメリットを紹介します。
①未開拓の才能 (Untapped talent)の獲得による人材獲得戦略上の優位性:
企業ごとに働き方の特長や文化、評価制度などがあります。しかし、神経学的にマイノリティにあたる方々にとっては、働く環境の条件や状況によっては、能力を発揮することや働き続けることが困難な場合もあります。企業の環境を調整することで、より多様な神経学的特性を持つ方が働きやすくなり、自社で活躍し得る人材の幅を広げることが出来ると言われています。このような活動を通じて、人材活用を優位に展開することが可能となります。
例として、大手IT企業などが、自閉症などの発達障害のある方々に合った採用プログラムを適用し、優秀なエンジニア人材を多く獲得していることが挙げられます。このような採用プログラムでは、発達障害のある方々が不得手なことが多い面接での自己PRなどに頼らずに、インターンシップによって実際の応募者の業務能力を評価できるよう設計されています。近年、大手IT企業では、IT人材の獲得競争が激しくなっています。人材市場では、IT人材としては、優れたスキルを持っているにも関わらず、発達障害のある方々のように、企業の環境が合わずに働く機会を得られていない方々が存在しています。こうした人材は、未開拓の才能 (Untapped talent)として注目されています。大手IT企業らは、ニューロダイバーシティに取り組むことで、未開拓の才能 (Untapped talent)も含めた幅広い人材を活かすことで、人材活用を優位に進めることができます。
②従業員のエンゲージメントや生産性の向上:
企業が多様な神経学的特性の方々を受け入れる環境を整えることにより、従業員全体のエンゲージメントや生産性が向上するといわれています。多様な神経学的特性を受け入れることによって、相互理解と相互尊重につながります。多様な思考や行動様式を認め合うと同時に互いの得意不得意を理解することで、得意なことを活かし、不得意なことを補いあう組織づくりにもつながります。一人ひとりが認められ、能力を発揮しやすい環境こそが、エンゲージメントや生産性向上につながります。
③多様な顧客ニーズへの対応やイノベーションの推進:
人材の多様性は、イノベーションの源泉であると言われており、ニューロダイバーシティに関しても例外ではありません。多様な神経学的特性の方々の視点を取り入れることで、創造的な思考や新しいアイデアが得やすくなるといわれています。実際に、グローバル大手のIT企業では、自社の機器やソフトウェアの開発過程において、発達障害のある方の意見を取り入れることによって、ユーザーに使いやすく、品質の高い商品開発につながることが知られています。また、不得手なことを明かした上で、互いに支援しあう文化を企業内で醸成することによって、組織の心理的安全性が高まります。ハーバ―ド・ビジネス・スクールのエイミー・C・エドモンドソン教授によれば、心理的安全性の高い組織では、知の共有や挑戦的な活動が活発になるため、イノベーションが生まれやすい環境であると言われています。
ニューロダイバーシティを進めるための工夫とポイント(発達障害を例に)
企業においてニューロダイバーシティを推進するためには、心理的な働きやすさ、物理的な働きやすさの2つの観点から、発達障害のある方が能力を発揮しやすい環境を整えていくことが重要です(下図参照)。
心理的な働きやすさを向上させるための工夫としては、例えば、ニューロダイバーシティに関する講演会やマネジメント層向けの研修等の社内啓発活動や、発達障害の方が困りごとを相談しやすいサポート体制の構築などがあげられます。サポート体制に関して、最近は、直属の上司とは別に生活面について相談できるメンターを設定する、ジョブコーチ(職場適応援助者)等の相談支援を利用するなどの動きも見られます。
一方、物理的な働きやすさを向上させるための工夫としては、例えば、多様な働き方の整備(リモートワークの導入やフレックスタイム制の導入等)や、物理的な職場環境の整備(ノイズキャンセリング機能付きのイヤフォンの使用許可、衝立の設置等)などがあげられます。
ニューロダイバーシティを推進するための工夫の例
出所)野村総合研究所
発達障害のある方と一括りに言っても、特性により得意なことや苦手なことは異なるため、どのような環境が働きやすいと感じるかは人によって異なります。また、企業ごとに職場環境や事業内容、企業風土等さまざまな条件が異なるため、発達障害のある方の能力を制限する要因も異なります。
そのため、ニューロダイバーシティを推進するにあたっては、他社の取組をそのまま模倣するのではなく、発達障害のある方と向き合って、心理的な働きやすさ、物理的な働きやすさの2つの観点から、自社において発達障害のある方が能力を発揮するためにはどのような施策を行うべきかを検討していくことが必要です。なお、ニューロダイバーシティを推進するための施策については、国や自治体からの公的な支援もあります。