人的資本とは
企業の構成員としての個人が持つ資質(倫理観、協調性、リーダーシップなど)や能力(知識、技術・技能など)を、企業の付加価値を生み出す資本とみなしたもの
「人的資本」とは
人的資本の定義は、国際機関、各国の会計基準・情報開示基準関連団体、研究者等が様々なものを提示する発展途上の状況であり、定まったものはありません。
しかし人的資本の考え方は、18世紀にアダム・スミスが「国富論」の中で、特別な技能と熟練を要する職業のために時間と労力をかけて教育された人を、高価な機械になぞらえる記述をしたことが起源とされています。この考え方が、セオドア・シュルツやゲイリー・ベッカー等の経済学者により「人的資本」という概念で再定義されました。例えばシュルツは、国家間の経済発展の格差や賃金格差の問題と関連付けて、教育と技能向上といった人的資本投資の重要性を指摘し、(先天的にではなく後天的に)「経済的な価値を持ち、適切な投資によって増やすことのできる人間の特性」(※1)として人的資本を捉えました。
このように当初は、個人が後天的に習得した知識や専門的技能によって生み出される経済的収益性に注目した考え方が一般的でしたが、徐々に生まれ持った能力や資質まで資本としてみなされるようになりました。例えば、OECD(経済協力開発機構)は人的資本の定義を拡大し、2001年の報告書では人的資本を「個人的、社会的、経済的厚生の創出に寄与する知識、技能、能力及び属性で、個々人に備わったもの」と定義しました(※2)。また、人的資本によって生み出される利益について、経済的収益に限らず非経済的収益(健康、幸福感等)に注目したり、人的資本を、個人のレベルだけでなく、個人の集まりとしてのユニットや組織レベルでとらえたりする試みも生まれています。
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Theodore W. Schulz. “Investing in People”, University of California Press, 1961
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近年の人的資本を巡る、世界・日本国内の動き
近年の非財務情報が注目される流れの中で、ESGのSocial(社会)の部分に含まれる「人的資本」についても関心が高まってきました。2018年には世界初の人的資本に関する情報開示ガイドラインとして、ISO(国際標準化機構)がISO30414を公開し(※1)、2020年にはSEC(米国証券取引委員会)が人的資本に関する情報開示をルール化しています(※2)。日本国内でも、2021年6月に施行された改訂版コーポレートガバナンスコードにおいて、新規追加の補充原則内で人的資本に関する開示・提示と取締役会による実効的な監督を求められるようになりました(※3)。
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