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国際社会が注目する、文化が生み出す「つながり」と「価値」

文化をめぐる議論は、国際的にも大きな広がりを見せている。

過去のコラム1でも紹介したように、国連教育科学文化機関(UNESCO)は、「文化」を現行のSDGsの次の目標(ポスト SDGs)において、新しいゴールとして位置づけるよう提言している。

文化を重要視しているのは、ユネスコやSDGsの文脈だけではない(図1)。

図1:文化に関連する国際機関の動向

出所)UNESCO「UNESCO GLOBAL REPORT ON CULTURAL POLICIES」、WEF「The Cultural Table: How arts and culture can drive global change and collaboration」、OECD「Cultural and creative sectors」、UNCTAD「Creative Economy Outlook 2024」よりNRI作成(いずれも2026年8月21日時点の情報)

例えば、世界経済フォーラム(WEF)では、芸術や文化が持つ「共感を生み、行動を促す力」に注目し、分断を超えて価値観の異なる人々を結びつける「つながりの手段」として捉えている。また、国連貿易開発会議(UNCTAD)は、クリエイティブ産業の経済への貢献に注目し、貿易と経済成長において果たす役割の大きさに言及している。

こうした国際的な議論を俯瞰すると、一つの変化が見えてくる。
それは、文化を「保護する対象」としてだけでなく、人や社会をつなぎ、新たな価値を生み出すものとして捉える視点が広がっていることだ。

「作品」だけではない。文化が生み出す「プロセス」に価値がある

私たちが「文化」と聞いてパッと思い浮かぶのは、歌舞伎や茶道、寺社建築などの伝統文化や漫画、アニメ、音楽といった、見たり聞いたりできる具体的な表現だろう。

しかし、こうした表現の背景には、それを生み出し、支えてきた人々の価値観や暮らし、地域の風土、そして人と人との関係がある。文化を考える際には、目に見える表現だけでなく、そこに至るまでの営みや、それらを育んできた社会とのつながりにも目を向ける必要がある。

例えば、祭り、芸能、映画祭、音楽イベント、食文化などは、単に鑑賞・消費されるだけの対象ではない。その参加を通じて、地域の住民、事業者、行政、来訪者、クリエイターなど、多様な人が関わる場でもある。普段は接点を持たない人が出会い、地域の良さや資源を知り、一緒に活動する。こうした積み重ねが、人と人との関係や、地域への愛着、新たな事業などにつながっていく。

つまり、文化は人を集める「コンテンツ」であると同時に、人々が出会い、関わり、新たな価値を生み出す「場」や「触媒」でもある。

この視点に立つと、文化の価値は、作品そのものの価値だけでは測れない。文化は、

  • 地域の活性化やコミュニティの維持・拡大
  • 人々のウェルビーイングの向上
  • 地域固有の知識を生かした環境保全
  • 新しい産業や雇用の創出
  • 分断を超えた、人と人との関係の構築

といった様々な作用を社会にもたらす。こうした、文化が社会に生み出す価値にも目を向ける必要がある(図2)。

むしろ、人々が地域や社会と関わるプロセスそのものに、社会課題の解決や新たな価値創出につながる可能性があるとも言える。ただ重要なのは、こうした価値が文化そのものにあらかじめ備わっているのではなく、人々が文化を通じて出会い、関わり、地域や社会との関係を築いていく中で生み出されるという点である。文化は、そうしたプロセスを生み出すきっかけや触媒となり得るのだ。

図2:文化の循環とそこから生まれる価値

出所)NRI作成

文化を起点に、人と地域と経済の新たな「循環」をつくる

だからこそ、文化が生み出す価値に企業が注目するうえで重要なのは、文化を都合のよい「地域活性化の道具」や「集客コンテンツ」に矮小化しないことである。

文化が存在するだけで、地域活性化や経済効果が自動的に生まれるわけではない。誰が参加できるのか。地域の担い手にどのような役割や利益が残るのか。外部から来る企業や来訪者との関係を、継続的なものにできるのか。こうしたプロセスをどうつくり、育てていくかという視点があって初めて、文化を地域や社会、事業活動の基盤として活かし、そこに持続的な価値を残す営みへとつなげることができる。

日本でも、地域文化をただ「保存」するのではなく、地域や外部の人々が参加し、活動することで、結果として文化が続いている例がある。また、文化の独自性を事業に生かし、その収益、関係人口などが地域や文化の担い手に還元されることで、次の活動が生まれる循環もみられる。

こうした「文化→人々の関わり→社会・経済的な価値→次の活動」という循環は、企業にとっても重要な視点となる。

例えば、鉄道・インフラ、不動産、モビリティなどの事業では、地域文化をハブに人々の交流を生み出すことが、沿線価値や物件価値の向上につながりうる。また、そこで生まれた交流や体験は、企業や地域のブランド形成にもつながるだろう。
また、飲料メーカーにおいても、自社商品の売上を支えるお花見や花火などの活動に、売上の一部を還元する取り組みがみられる。

こうした事例から見えてくるのは、企業が文化に関わる際、重要なのは文化を単に「活用」することではないということだ。自社の事業は、地域や生活者とどのような関係をつくっているのか。その関係から、どのような社会的・経済的価値が生まれているのか。そして、その価値は誰に還元され、次の活動につながっているのか。

このような問いを持つことで、文化をCSRや広告施策として切り出すのではなく人や地域との関係をつくり、社会と経済に新たな価値を生み出すとともに、事業の継続性や独自性、事業基盤を支えるものとして捉えることができる。

2030年はSDGsの期限であると同時に、その先の国際的な開発アジェンダを考える節目でもある。
2031年以降、文化は「守るもの」から「人や社会をつなぎ、新たな価値を生み出すもの」へと、少しずつ捉え方を変えていくことになるのではないだろうか。

〔謝辞〕
本稿を執筆するにあたり、酒井一途氏、culpedia 代表 徳永勇樹氏、衣紋道山科流若宗家 山科言親氏には、議論の機会を賜るとともに、専門的見地から貴重なご示唆をいただきました。ここに記して、心より感謝申し上げます。

  1. 1 野村総合研究所 Beyond 2030 Agenda研究会「ポストSDGs時代に、なぜ「文化」が注目されるのか?」(2026年7月17日)

プロフィール

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    中田 舞

    経営コンサルティング部

    京都大学大学院農学研究科修了、2017年野村総合研究所入社。主に企業のサステナビリティ経営推進を専門として、ビジョン策定・経営計画の立案・実行、統合報告書や非財務情報の開示、経営戦略やビジネスモデルに基づく人的資本・自然資本の課題特定と施策強化などのプロジェクトに従事。

※組織名、職名は現在と異なる場合があります。